福岡市西区の下水処理施設である西部水処理センターに、下水汚泥から肥料原料のリンを高効率で回収する国内最大規模の実証施設が完成しました。
FBSニュース:下水汚泥から「再生リン」新たな技術の実証施設 国内最大の回収量を目指す 福岡市
日本はリンのほぼ全量を輸入に頼り、国際情勢の不安定化により安定確保が大きな課題となっています。
福岡市は本施設の本格運用で年間300トンの再生リン回収を目指すとともに、下水汚泥の固形燃料化やバイオガス発電と組み合わせた資源循環・脱炭素モデルを構築しつつあります。
なぜ下水からリンを回収? 日本のリン輸入依存の課題
リンは窒素・カリウムと並ぶ肥料の三大要素であり、農業生産に不可欠な資源です。しかし日本国内にはリン鉱石の産出がなく、肥料原料としてのリンはほぼ全量を中国・モロッコなどからの輸入に依存しています。
近年は輸出国の政策変更や地政学リスクにより価格が高騰し、国内農家の経営を圧迫しています。
こうした中、注目されているのが下水に含まれるリンの回収です。食料に含まれるリンは人体から排出され下水に流入するため、下水処理場は「都市鉱山」ともいえるリン資源の集積地です。
福岡市は下水に含まれるリンをリン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)として回収し、「ふくまっぷneo」と名づけて、肥料の原料に有効活用しています。
国土交通省もB-DASHプロジェクト等を通じて下水からのリン回収技術の実証を推進しており、資源安全保障と循環経済の両面から重要性が増しています。
福岡市・西部水処理センターの高効率リン回収技術とは
高効率リン回収の実証施設は、福岡市西区の西部水処理センター敷地内に設置され、2026年4月2日に完成式典が行われました。
本施設の最大の特徴は、下水処理の複数工程で生じる汚泥のうち、リン含有率が高い最終工程の汚泥のみを選択的に処理する点にあります。
これにより、従来の半分程度の設備規模で効率的に再生リンを取り出すことが可能となり、維持管理コストの抑制につながります。
リン回収効率は従来方式の約2倍に高められており、この処理手法は国内初の試みです。
福岡市ではすでに東区の和白水処理センターでMAP法(リン酸マグネシウムアンモニウム法)によるリン回収を実施しており、2024年度には年間約136トンの再生リンを回収しています。
今回の新施設では、この実績を大幅に上回る年間300トンの再生リン回収を目標としています。
回収された再生リンは「ふくまっぷneo」として肥料登録されており、JAグループと連携してエコ肥料「e・green」シリーズに配合され、県内のJAで販売されています。
再生リン肥料の成分は、アンモニア性窒素4.0%、溶性リン酸20.0%、溶性苦土11.5%となっており、化学肥料原料として十分な品質を備えています。
下水汚泥の固形燃料化・バイオガス発電との相乗効果
福岡市の下水処理場における資源循環は、リン回収にとどまりません。
西部水処理センターでは2021年2月から下水汚泥固形燃料化施設が稼働しており、バイオマス資源である下水汚泥を造粒乾燥方式で固形燃料に加工し、石炭代替燃料として有価販売しています。
処理能力は1日あたり100トン(50トン×2系列)、年間約33,000トンの汚泥を処理可能です。
さらに、汚泥の嫌気性消化工程から発生する下水バイオガスは、固形燃料化施設や汚泥焼却施設の補助燃料として利用されるほか、バイオガス発電設備の燃料としても活用されています。
中部水処理センターでは下水バイオガスを原料とした水素製造も行われており、福岡市は下水処理施設全体でのカーボンニュートラル推進計画を策定しています。
リン回収・固形燃料化・バイオガス発電を一体的に運用することで、汚泥処理コストの低減、エネルギー自給率の向上、GHG排出削減を同時に達成できる点は、バイオガス事業者にとっても示唆に富むモデルです。
再生リン肥料の製品化とカーボンニュートラル推進

西部水処理センターの実証施設で回収される再生リンを使った化学肥料は、来年度中の製品化が計画されています。
本格運用が軌道に乗れば、国内における再生リン供給の大規模モデルケースとなり、他の自治体・下水処理事業者への水平展開が期待されます。
福岡市は「2040年度 温室効果ガス排出量実質ゼロ」をチャレンジ目標に掲げており、下水処理分野では省エネ技術の導入、バイオガス発電、固形燃料化、リン回収を組み合わせた脱炭素戦略を推進しています。
福岡市:福岡市CN処理場計画(中部・西部・新西部水処理センター)
DBO方式による官民連携で維持管理・運営コストを最適化しながら、下水汚泥を100%有効利用する体制はすでに確立されています。
下水処理場をエネルギー・資源の回収拠点として再定義する福岡市の取り組みは、国内のバイオガス・資源循環業界にとって、技術選択と事業モデル設計の両面で重要な先行事例となるでしょう。






