米Syzygy Plasmonics(シジジー・プラズモニクス)社は2025年6月3日、バイオガスを原料とする持続可能な航空燃料(SAF)製造プラント「NovaSAF 1」の基本設計フェーズ(FEED)を開始したと発表しました。
このプラントはウルグアイのドゥラスノ県に建設され、乳牛の糞尿由来バイオメタンとCO₂を原料とし、独自の光触媒技術を用いてSAFを合成する世界初の試みです。
Syzygy Plasmonics:NovaSAF-1TM: The World’s First Electrified Biogas-to-SAF Commercial Plant
生産規模は年間35万ガロン(約1,100トン)以上を計画しており、SAF製造プロセス全体の電化を実現することで、従来の燃焼プロセスに伴う排出を大幅に削減します。
プロジェクトはSyzygyの他に、ウルグアイの酪農・農業エネルギー複合企業Estancias del Lago社(EDL)が原料供給、ドバイ拠点のKent社がEPCを担当し、2028年の操業開始を目指しています。
ウルグアイの100%再エネグリッドと酪農資源の優位性
ウルグアイは電力供給の98%以上を再生可能エネルギー(水力、風力、バイオマス、太陽光)で賄う再エネ先進国であり、電化プロセスによる燃料製造のカーボン強度(CI値)を最小化することが可能です。
また、ドゥラスノ県はウルグアイの酪農地帯に位置し、Estancias del Lago社は、近接する大規模酪農施設から安定的な糞尿原料を供給できます。
これをバイオガス化し、副生CO₂とともに合成ガス原料として活用することで、メタンの大気放出を抑制しつつ、高付加価値液体燃料のSAFに変換することができます。
Syzygyでは、ウルグアイのほぼ100%再生可能な電力グリッドの活用により、Jet-A比80%超のGHG削減を実現できる「超低カーボン強度燃料」を生産可能だと説明しています。
光触媒とLEDで合成ガスを製造 Rigelリアクター
今回のプロジェクト「NovaSAF 1」の中核となるのが、Syzygyが開発した「GHG e-Reforming」技術です。
Syzygy Plasmonics:GHG E-REFORMING TECHNOLOGY
従来、バイオメタンから合成ガス(H2とCO)を製造するには、化石燃料を燃焼させておよそ800~1,000℃の高温を作る必要がありました。
しかし、SyzygyのRigelリアクターは、プラズモニック光触媒にLED光を照射することで化学反応を促進するため、プロセスを完全に電化でき、熱源としての燃焼が不要になります。
また、RigelリアクターはLED光で駆動するため、瞬時に起動し運転温度が大幅に下がります。
さらに、CO₂分離工程が不要なため、設備投資(CAPEX)と運転コスト(OPEX)の両方を抑制できます。
光触媒によって生成された合成ガスは、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成を経てSAFに変換されます。
バイオガスからSAF製造のフロー
| 工程・役割 | 提供企業 | 主要技術・ソリューション |
|---|---|---|
| バイオガス(CH₄/CO₂)から合成ガス(H₂/CO)への変換 | Syzygy Plasmonics | GHG e-Reforming / Rigel光触媒リアクター |
| 合成ガスの合成原油(synthetic crude)へのFT合成 | Velocys | microFTL |
| FT合成原油からSAF/SPKへの精製・アップグレード | Honeywell UOP | Fischer-Tropsch Unicracking |
| エンジニアリング・調達・建設(EPC) | Kent | – |
SAF生産経路 HEFA・ATJ・PtLの比較
SAF生産経路の80%以上を占めるのは、廃食用油や動物性脂肪を原料とするHEFA(水素化処理エステル・脂肪酸)ですが、原料が製造コストの約50%と高く、原料の世界供給量もすでに飽和に近づいています。
一方で、ATJ(アルコール経由)やPtL(Power-to-Liquid)は収率と経済性の壁があり、運営コスト負担が大きいため、補助金依存の傾向が指摘されています。
NovaSAFは、バイオガスとPtLの利点を統合したハイブリッド型の経路に位置付けられます。EUのRFNBO要件や、CORSIA・米国・EUの各SAF規制にも適合する見込みです。
| SAF経路 | 主な原料 | 特徴・課題 |
|---|---|---|
| HEFA | 使用済み食用油、動物性脂肪 | 商業化が進んでいるが原料供給が逼迫 |
| ATJ | エタノール、ブタノール | 収率と経済性の壁があり規模化が必要 |
| PtL(eSAF) | 水素+CO₂+再エネ電力 | 水素電解・DAC由来CO₂が高コスト |
| NovaSAF(Syzygy) | 原料バイオガス+再エネ電力 | 導管・分離設備不要、HEFA同等以下のコスト目標 |
バイオガスプラントのオンサイトSAF製造
NovaSAFのようなモジュール型プラントの特徴は、嫌気性消化槽や埋立地から排出されるバイオガスを、事前のCO₂分離やガス導管接続なしで直接利用できる点にあります。
そのため、高額となるバイオメタン精製設備への投資が不要となり、経済性の面で難しかった小中規模のバイオガスプラントでもSAF製造の道が開けます。
電化リフォーミング技術が実用化されれば、現場で液体燃料(SAF)に変換してトラック輸送することも可能で、バイオガスプラント併設型のオンサイトSAF製造が現実味を帯びてきます。
これは、インフラ未整備地域のエネルギーハブ化を促進する画期的なソリューションとなります。
酪農業界のメタン削減と航空業界の脱炭素を同時に達成する「バイオガス × SAF」スキームは、日本でも酪農地帯を多く抱える北海道などで成立する可能性があります。
SyzygyのSAFプロジェクト世界展開
SyzygyのSAFプロジェクト世界展開は、すでに以下のように拡大しており、2035年までに年産100万トンのSAF供給体制を目標としています。
- ブラジル:Geo Bio Gas&Carbon社とMOUを締結。サトウキビ残渣由来バイオガスから、初期年産10万トン、将来52.5万トン超のSAF製造を目指す
- 米国:NorthStar Renewable Fuels社と年産最大7.5万トン規模で提携
- 欧州・中南米:スペインIslonias社(Biothek)と協業し、最終的に年産30万トン規模を計画
- メキシコ:埋立地ガス由来のSAFプロジェクトを検討中
ブラジル・サトウキビ残渣案件の詳細は、関連記事ブラジルでバイオガスからSAF製造へ 米Syzygy社をご覧ください。






