ハンガリーの石油・ガス大手MOLグループは2026年5月14日、同国南東部のサルバシュ(Szarvas)にあるバイオガスプラントに、新たなバイオメタン精製設備を増設すると発表しました。
MOL PressReleases:MOL expands the Szarvas Biogas Plant with a biomethane unit
完成は2026年末を予定しており、年間700万立方メートル以上のバイオメタンを生産し、ハンガリー国内のガスパイプライン網に直接注入する計画です。
これはMOLにとって初めての自社バイオメタン事業であり、ハンガリー国内で稼働する3番目のバイオメタンプラントとなります。
サルバシュ・バイオガスプラントでバイオメタン生産
MOLグループは2023年に、ドイツの農業・エネルギー大手である BayWa AG から、ハンガリー南東部のサルバシュ・バイオガスプラントを買収しました。
現在この施設では、以下の有機性廃棄物を年間約11万1,000トン処理し、年間約1,200万立方メートルのバイオガスを生産しています。
- 地元の食肉加工から出る残りかす(年間約4万トン)
- 家畜の排泄物などの副産物(約5万3,000トン)
- 農業の廃棄物(約1万8,000トン)
今回増設される精製ユニットは、このバイオガスから二酸化炭素や硫化水素といった不純物を取り除き、天然ガスと同等の高品質バイオメタンに変換するための設備です。
この設備では、年間700万立方メートルのバイオメタンを生産する計画で、これはハンガリーの一般家庭およそ8,500世帯の年間ガス消費量に相当します。
また、生産するバイオメタンには、持続可能性を証明する国際認証(ISCC)に基づくグリーン証書が与えられ、環境価値の高い再生可能ガスとして、欧州市場で取引できるようになります。
発電やCHP事業と比べて、バイオメタン事業は電力市場の価格変動に影響されにくく、自動車などの輸送用燃料や工場の熱源としても使えるようになるため、収益の安定化と用途の拡大が期待できます。
MOLのバイオメタン戦略とサルバシュ案件の意義
サルバシュ・プラントの最大の特徴は、これまでの発電と熱供給(CHP)を中心とした事業から、ガスパイプライン網に直接供給するバイオメタン事業への転換という点にあります。
バイオメタンをガス管に注入するためには、メタンの濃度を97%以上に高め、酸素や硫化水素、水分などを厳格な基準以下に抑える必要があり、そのためには高度なバイオメタン精製技術が使われます。
SHAPE TOMORROW 2030+戦略におけるバイオメタンの位置づけ
今回の投資は、MOLが2024年に更新した長期戦略「SHAPE TOMORROW 2030+」の一環として行われます。
この戦略では、2030年までに40億ドルを超える環境向け投資を行い、2050年のカーボンニュートラル達成を目指しています。
特に、再生可能燃料、グリーン水素、バイオメタン、地熱エネルギーの4つが中核分野として位置づけられており、サルバシュのプロジェクトは同社バイオメタン事業の第一歩となります。
ハンガリー政府のバイオガス・バイオメタン政策
ハンガリー政府は2024年に「Biogáz és biometán akcióterv(バイオガス・バイオメタン行動計画)」を策定して、バイオガス・バイオメタンの生産拡大と、利用促進に向けた政策整備を進めています。
計画では、2030年までにバイオガス生産を約3倍、バイオメタン生産は年間1億8,400万m³を達成し、そのためには25基のプラント建設が必要と明記しています。
ハンガリー・エネルギー省:Biogáz és biometán akcióterv
現在ハンガリー国内では、100カ所超の拠点で年間約200百万m³のバイオガスを生産しており、政府はバイオガス・バイオメタン生産促進に、400億フォリントを支援すると発表しています。
また、MOLの100%子会社で、同国で唯一のガス送電網を運営するFGSZは、2024年に将来のバイオメタン需要の見積もり調査を実施し、「2030年までに国内で大きな需要が見込める」との結果を発表しました。
中東欧バイオメタン市場への展開
MOLはサルバシュの案件で得た運用ノウハウを、今後の企業買収(M&A)や、新たなプラントの建設の判断に活かしていく方針です。
すでにグループ会社のINAが、クロアチアのシサク(Sisak)で新しいバイオメタンプラントを建設することが決定しており、こちらも2026年末の稼働を目指して工事が進められています。
INA, d.d.:INA signed contracts for new strategic projects related to renewable energy sources
MOLは今後バイオメタンの供給網を、中核となるハンガリー、スロバキア、クロアチアの3カ国で広げる予定で、石油メジャーによるバイオメタン普及モデルが、中東欧(CEE)地域で具体化しつつあります。
REPowerEU目標達成に向けた東欧バイオメタン生産への期待
EU(欧州連合)の REPowerEU計画 では、2030年までに年間350億立方メートルのバイオメタンを生産するという目標を掲げており、EU諸国のバイオメタン生産施設が増加しています。
参考記事:ヨーロッパのバイオメタン市場を知る 欧州バイオメタンマップ
東欧諸国は農業用のバイオマス資源が豊富なため、今後のバイオメタン生産拡大が見込まれており、REPowerEUの目標達成に向けて大きな期待が寄せられています。
実際に、EUがチェコに約37億ユーロの支援を決定しており、リトアニアでは初のバイオメタン精製設備が建設されるなど、東欧各国でガス管注入型のプロジェクトが次々と始まっています。
参考記事:リトアニア初のバイオメタン精製設備 独EnviTecが受注






