バイオガスプラントで生成されたバイオガスには、メタン(CH₄)のほかに、硫化水素(H₂S)や二酸化炭素(CO₂)、水分、シロキサンなどの不純物が含まれています。

これらの不純物は、発電設備の腐食や燃焼効率の低下を引き起こすため、利用目的に応じた精製(アップグレーディング)が不可欠です。

この記事では、バイオガスの精製が必要な理由から、脱硫・CO₂除去それぞれの主要技術の原理と比較、バイオメタン化に求められる品質基準、CCUによるCO₂有効活用や最新の技術動向まで解説します。

バイオガスプラントの全体像については、解説記事「バイオガスプラントの仕組み 基礎知識やメリット・建設コストを解説」をご参照ください。

関連記事バイオガス精製装置の種類と選び方 脱硫・CO₂除去装置

バイオガスに含まれる不純物と精製が必要な理由

メタン発酵で生成されるバイオガスの組成は、一般的にメタン50〜70%、二酸化炭素30〜50%で、その他に硫化水素が数百〜数千ppm、水蒸気、窒素、酸素、アンモニア、シロキサンなどの微量成分を含みます。

バイオガスに含まれる不純物は様々な問題を引き起こし、プラント運用に深刻な影響を与えるため、バイオガス精製によってこれらの有害成分を除去し、ガス品質基準を満たすことが必要です。

硫化水素(H₂S)

硫化水素は水分と反応して硫酸を生成し、ガスエンジンのピストンやシリンダーライナー、配管、ボイラーの熱交換器に腐食を引き起こします。

環境省の「メタンガス化施設整備マニュアル」では、下水汚泥を原料とするプラントでH₂S濃度が数千ppmに達する事例も報告されています。

二酸化炭素(CO₂)

二酸化炭素は燃焼に寄与しないため、バイオガスの容積あたりの発熱量を低下させ、そのままでは都市ガス導管への注入やRNG(再生可能天然ガス:Renewable Natural Gas)としての利用ができません。

シロキサン

主に下水汚泥やランドフィルガスに由来する不純物で、下水汚泥を原料とするプラントで問題となります。

シロキサンは燃焼時にSiO₂(二酸化ケイ素)微粒子となり、エンジン内部やタービン翼面に、粉末または結晶状態の堆積物を形成して、性能劣化や故障を引き起こします。

水分(H₂O)

水分は配管内で結露して凝縮水となり、硫化水素との反応で腐食性の高い酸性水溶液を生成します。

CHP(コージェネレーション)利用であれば主に脱硫が必要ですが、都市ガス注入やバイオメタン化には、CO₂除去まで含めた高度精製が求められます。

脱硫技術の種類と原理 生物脱硫・乾式脱硫・湿式脱硫

脱硫はバイオガス精製の最も基本的な工程です。硫化水素(H₂S)の除去方法は、大きく「生物脱硫」「乾式脱硫」「湿式脱硫」の3つに分類されます。

生物脱硫

硫黄酸化細菌(Thiobacillus 属や Acidithiobacillus 属など)の代謝作用を利用して、硫化水素を単体硫黄(S⁰)や硫酸(SO₄²⁻)に酸化分解する方式です。

ランニングコストが低い脱硫方式であり、中〜大規模プラントの一次脱硫として広く採用されています。

その一方で、微生物が活動するため温度(25〜40℃)やpH、空気注入量の精密な管理が必要であり、H₂S濃度の急激な変動への追従性にはやや限界があります。

インサイチュ(In-situ)方式

メタン発酵槽の気相部へ少量の空気(酸素量0.5〜2%程度)を導入し、槽内に生息する硫黄酸化細菌の作用でH₂Sを分解します。

インサイチュ方式ではバイオガス中に窒素が混入し、メタン濃度がわずかに低下する点に留意が必要です。

外部方式

専用の生物脱硫塔(バイオスクラバー)を設置して、H₂Sを分解します。

乾式脱硫(化学吸着方式)

酸化鉄法

酸化鉄(Fe₂O₃)を含浸させたペレットや、添着活性炭を充填した吸着塔にバイオガスを通過させ、H₂Sを化学吸着によって除去する方式です。

酸化鉄法では、以下の反応によりH₂Sが硫化鉄(Fe₂S₃)として固定されます。

Fe₂O₃ + 3H₂S → Fe₂S₃ + 3H₂O

使用済み酸化鉄ペレットは、空気中の酸素で再生(Fe₂S₃ → Fe₂O₃ + S)が可能ですが、再生回数には限界があり、最終的には産業廃棄物として処理する必要があります。

活性炭吸着法

活性炭吸着法は、特に精密脱硫(最終段としてH₂Sを1ppm未満に低減する仕上げ処理)に適しています。

設備がコンパクトで操作も容易なため、小〜中規模プラントや、生物脱硫の後段に設置する多段構成で広く用いられています。

湿式脱硫(化学吸収法・水洗法)

NaOH水溶液、キレート鉄溶液、アミン系溶液などの液体吸収剤を循環させる洗浄塔(スクラバー)にバイオガスを通し、H₂Sを化学的に吸収・除去する方式です。

高濃度のH₂S(数千ppm以上)でも安定した除去性能を発揮でき、大規模プラントや産業排水処理施設に適していますが、薬品コストや廃液処理が必要になります。

また、硫化水素に対するスクラバー本体の耐腐食設計(SUS316L、FRP等)も求められます。

バイオガス脱硫技術の比較

方式除去効率適用規模ランニングコスト主な課題
生物脱硫(インサイチュ)80〜95%小〜大規模極低(空気注入のみ)N₂混入、管理精度
生物脱硫(外部塔)90〜99%中〜大規模設備面積、応答速度
乾式脱硫(酸化鉄)95〜99%以上小〜中規模中(ペレット交換)吸着剤寿命、廃棄コスト
乾式脱硫(活性炭)99%以上小〜中規模中〜高吸着容量の限界、交換頻度
湿式脱硫(化学吸収)95〜99%以上中〜大規模高(薬品・廃液処理)設備コスト、耐腐食設計

バイオガスプラントでは、一次脱硫として生物脱硫を設置し、仕上げとして乾式脱硫(活性炭塔)を併用する多段方式がよく採用されます。

IEA Bioenergy Task 37の技術レポートでも、生物脱硫のみで不足する場合は、多段脱硫による追加洗浄が必要になると整理されています。

また、発酵槽内への鉄塩添加(FeCl₃やFeSO₄の投入によるH₂Sの沈殿固定化)は、モニタリングとトラブル対策として発酵プロセス側で実施されることがあり、精製装置の負荷を低減する前処理として有効です。

関連記事バイオガス精製装置(脱硫・脱炭装置)の種類と選び方

脱炭酸(CO₂除去)技術の原理と性能比較

バイオガスをバイオメタン(メタン濃度95%以上)へアップグレーディングするためには、CO₂の効率的な除去が不可欠です。主要なCO₂除去技術は以下の4つです。

膜分離法(ガス分離膜)

高分子膜(ポリイミド膜やセルロースアセテート膜など)のガス透過速度差を利用して、CO₂とメタンを分離する技術です。

バイオガスを加圧(通常6〜10 bar)して膜モジュールに通すと、CO₂は膜を透過しやすくパーミエート側に排出され、メタンは膜を透過しにくくリテンテート側に濃縮されます。

モジュールの多段化により純度とメタン回収率をさらに向上でき、スケールアップも容易です。また、可動部が少ないためメンテナンス性に優れ、コンパクトな設計が可能な点も特徴です。

メタン回収率は95〜99%程度で、近年は膜性能の向上により、欧州を中心に導入が増加しています。

PSA法(圧力スイング吸着法 Pressure Swing Adsorption)

カーボンモレキュラーシーブ(CMS)やゼオライトなどの吸着剤を充填した吸着塔に加圧バイオガスを通し、CO₂を選択的に吸着させてメタンを通過・回収する技術です。

吸着飽和後に減圧(スイング)して吸着剤を再生し、複数塔を交互運転することで連続処理を実現します。メタン純度97〜99%を安定的に達成でき、ドライプロセスのため薬品や水を使用しません。

大阪ガスケミカルのCMS(分子篩炭)は、世界トップクラスのシェアを持ち、国内でもバイオガス精製への適用実績が蓄積されています。

大阪ガスケミカル株式会社:分子篩炭 活性炭事業部

旭化成は独自のPVSA(Pressure Vacuum Swing Adsorption)方式を開発し、岡山県倉敷市の下水処理場での実証試験でメタン純度97%以上・回収率99.5%以上を達成しています。

参考記事:旭化成が高純度バイオメタン精製の実証試験に成功

化学吸収法(アミンスクラビング)

アミン系吸収液(代表的にはモノエタノールアミン:MEA、メチルジエタノールアミン:MDEA)にCO₂を化学反応で吸収させ、加熱再生塔でCO₂を放散させて吸収液を再利用する方式です。

メタン回収率が99%以上と最も高く、メタンスリップ(精製排ガスへのメタン漏出)が最小であることが評価されています。

その一方で、再生に多くの熱エネルギーを必要とし、CHPの排熱を利用できる環境が望ましいとされます。

加圧水吸収法(水スクラビング、PWS)

加圧下ではCO₂がメタンより水に溶けやすいという性質を応用し、吸収塔でバイオガスと水を向流接触させてCO₂を選択的に除去する方式です。

原理がシンプルで、薬品を使用しないためランニングコストが低い反面、大量の水とエネルギーが必要で、メタンの溶解ロスが発生します。

中規模プラントでの採用実績が多く、スウェーデンやドイツなどの欧州でよく使われている技術です。

脱炭酸(CO₂除去)技術の性能比較

技術メタン回収率製品メタン純度エネルギー消費メタンスリップ適用規模
膜分離法98〜99.5%97〜99%以上電力(圧縮機):0.2〜0.3 kWh/Nm³0.5〜2%小〜大規模
PSA/PVSA法96〜99.5%80〜99%電力(圧縮機):0.2〜0.3 kWh/Nm³1〜3%中〜大規模
化学吸収法(アミン)99%以上98〜99.5%熱(再生)+電力:0.55〜1.4 kWh/Nm³0.1%未満大規模
加圧水吸収法98〜99%95〜98%電力(圧縮・ポンプ):0.25〜0.35 kWh/Nm³1〜2%中規模

脱炭酸(CO₂除去)の技術別シェア

欧州バイオガス協会(EBA)の「EBA Statistical Report 2025」によると、欧州のバイオメタンプラントでは膜分離法の採用率がおよそ半分を占めており、累積プラント数のシェアは以下の順序で定着しています。

  1. 膜分離法:2010年代後半からシェアが増加しており、モジュール式で拡張しやすく、近年は新規プラントで採用が拡大している。
  2. 加圧水吸収法:2010年代半ばまでは首位だが、現在は新規採用が減り、累積数で2位となる。
  3. 化学吸収法(アミン):大規模プラントやメタン回収率を極限まで高めたいプロジェクトで選ばれる。
  4. PSA法:以前からの定番技術として安定したシェアを維持するも、伸び率は膜分離法より劣る。

EBA:WEBINAR EBA Statistical Report 2025

日本国内では、東京ガスが膜分離法をベースとした独自のバイオガス精製技術を開発し、日本ガス協会技術賞を受賞するなど、実用化に向けた動きが加速しています。

参考記事:東京ガスのバイオガス精製技術が日本ガス協会技術賞を受賞

用途別のバイオガス精製レベルと品質基準

バイオガスの利用目的によって、求められる精製レベルは大きく異なります。精製コストは精製レベルに比例して上昇するため、過剰品質にならない適切な精製設計がプラントの経済性に影響します。

用途別のバイオガス精製要件・H₂S上限

利用用途必要なメタン濃度H₂S上限必要な精製工程
ボイラー燃焼(熱利用)50%以上(未精製可)1,000ppm以下基本的な脱硫+除湿
ガスエンジンCHP60~70%200~1,000ppm脱硫+除湿+脱シロキサン
マイクロガスタービン50%以上最大5,000ppm脱硫+除湿+脱シロキサン
燃料電池(SOFC)60%3ppm以下高度脱硫+除湿+脱シロキサン
都市ガス導管注入95%以上1.0mg/m³以下高度精製+熱量調整+付臭
車両燃料(バイオCNG)97%以上0.1ppm以下高度精製+圧縮

※ 参考:国土交通省「下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン」

バイオメタン導管注入のH₂S上限

バイオメタンを都市ガス導管に注入する場合、天然ガスとほぼ同等の基準を厳密に満たす必要があります。

日本では、ガス事業法に基づく都市ガスの品質基準として、発熱量、燃焼速度、硫黄全量、硫化水素濃度等が定められており、海外では国や事業者によってH₂S上限が異なります。

北海道鹿追町ではバイオメタンの高度精製技術を導入し、都市ガス導管への注入を計画しています。

参考記事:国内初のバイオメタン都市ガス利用へ 北海道鹿追町・エア・ウォーター・帯広ガスが連携

バイオガス発電のH₂S上限

バイオガス中のH₂S濃度が高い状態でガスエンジンを運転すると、エンジンオイルの劣化が加速し、メンテナンス頻度とコストが増大します。

バイオガスを発電に用いる場合は、ガスエンジン保護と発電効率維持のため、一定水準の脱硫が必要です。ただし、H₂S上限はメーカー仕様によって異なるため、導入前の確認が必要です。

マイクロガスタービンはH₂S耐性が高いことが特徴の一つとなっていますが、環境規制や機器保護の観点から、より低いH₂S濃度が望ましい場合もあります。

参考記事:バイオガスプラントの発電機・コージェネレーションシステム(CHP)

燃料電池(SOFC)のH₂S上限は3ppm以下とされていますが、PEFCではppbレベルが求められます。

除湿・脱シロキサンなどの補助的な精製工程

脱硫・CO₂除去と並んで、除湿と脱シロキサンもバイオガス精製における重要な工程です。

メタン発酵槽から排出されるバイオガスは飽和水蒸気を含んでおり、温度低下に伴う配管内の結露は、H₂Sとの反応で酸性水溶液を生成して腐食を加速させます。

一般的にはガス冷却器(チラー等)でガス温度を5〜10℃まで低下させて凝縮水を分離し、必要に応じてシリカゲルやモレキュラーシーブを用いた吸着乾燥器で露点をさらに下げます。

シロキサンは主に下水汚泥やランドフィルガスに含まれるケイ素化合物で、家畜ふん尿主体のプラントではあまり問題になりません。

シロキサンの除去には主に活性炭吸着が用いられ、使用済み活性炭は定期的な交換が必要です。

また、燃料電池利用など極めて高い精製度が求められる用途では、シロキサン濃度を0.1 mg/m³未満にまで低減する精密除去が必要となります。

精製CO₂の有効活用(CCU)とメタネーションとの連携

脱炭酸工程で分離・回収されるCO₂は、近年CCU(Carbon Capture and Utilization)の原料として注目されています。

バイオガス精製由来のCO₂は生物起源(バイオジェニック)であるため、化石燃料由来のCO₂よりもカーボンフットプリントの面で有利とされています。

具体的な活用方法としては、農業用温室への供給による光合成促進、ドライアイス製造、炭酸飲料への利用に加え、グリーン水素と組み合わせたメタネーションによるe-メタン製造が注目されています。

国内でも、大阪ガスやINPEXがCO₂を用いたメタネーション・e-メタン製造技術の実証を進めており、バイオガス由来を含むCO₂を再資源化する取り組みが進んでいます。

参考記事:大阪ガスのSOECメタネーション試験施設が完成

参考記事:INPEXと大阪ガスが世界最大級CO₂メタネーション実証運転を開始

バイオガス精製技術選定のポイント

バイオガス精製技術の選定は、プラントの経済性と運用効率を左右する重要な判断です。精製技術の選定にあたっては、以下の要件を総合的に検討する必要があります。

  • バイオガスの利用目的と求められる品質基準
  • 原料の種類と硫化水素の発生濃度
  • プラント規模とガス処理量
  • 初期投資とランニングコストのバランス
  • 排熱の利用可能性
  • メンテナンス体制

CHP利用が主目的であれば、生物脱硫と活性炭の多段脱硫で十分対応できますが、バイオメタン化や都市ガス注入を目指す場合は、脱炭酸技術の選定と品質管理体制の構築が必要になります。

バイオガス精製技術 参照データ・出典・関連記事

IEA BioenergyBiogas upgrading technologies – developments and innovations

国土交通省下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン

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