ブラジルで柑橘廃液原料のバイオガスプラント建設 穀物メジャーLDC

ブラジル 柑橘廃液原料のバイオガスプラント

穀物メジャーのルイ・ドレフュス(LDC: Louis Dreyfus Company)は、2025年3月からブラジルで、柑橘類の搾汁工程から出る廃液を原料にした大規模バイオガスプラントの建設に着手しました。

このプラントはサンパウロ州ベベドウロに建設され、日量5万Nm³を超えるバイオガスを生産し、隣接する工場のCO2排出量を20%以上削減する計画です。

LDC Press Releases:Louis Dreyfus Company Innovates With the World’s Largest Plant to Produce Biogas From Citrus Effluent

ブラジルは世界のオレンジジュース輸出の約75%を担う柑橘産業大国です。柑橘廃液をエネルギー資源に変えるこのプロジェクトは、食品加工業の未利用バイオマス活用事例として注目されます。

世界最大のブラジル柑橘産業と柑橘廃液の問題

ブラジル柑橘産業と柑橘廃液の問題

ブラジル・サンパウロ州と、ミナスジェライス州西部を含む広域は「シトラスベルト」と呼ばれる柑橘搾汁工場の集積地で、LDCもこの地域に主要なジュース加工拠点を構えています。

その一方で、柑橘類の搾汁工程で発生する廃棄物の処理コストが大きな課題となっていました。

果実重量の約半分は果皮や搾汁残渣として廃棄され、他にも洗浄水や工程排水などから廃液も大量に発生します。これらの廃液は有機物濃度が高く、適切に処理しなければ環境負荷につながります。

さらにブラジルでは、2024年10月に成立した「未来の燃料法(Fuel of the Future Law)」によって、バイオメタンなど再生可能ガスの活用を促す政策環境が整いつつあります。

ブラジル政府:Lula enacts Fuel of the Future law: “Brazil will drive the world’s largest energy revolution”

天然ガス事業者に対して、バイオメタン調達や排出削減目標が求められる流れもあり、LDCの今回の投資は、こうした市場・政策の追い風を受けたものといえます。

世界最大の柑橘廃液原料バイオガスプラント

LDCは2025年3月11日、サンパウロ州ベベドウロで新プラントの起工式を行いました。

敷地面積は約195,000m²に及び、柑橘廃液を原料とするバイオガスプラントとしては世界最大規模とされています。完工は2026年半ばを予定しています。

LDC柑橘廃液プラントの概要

項目仕様
立地ブラジル・サンパウロ州ベベドウロ
敷地面積約195,000m²
原料柑橘搾汁廃液(オレンジ・レモン)
処理能力約400m³/h
バイオガス生産量50,000Nm³/日超
CO2削減効果ベベドウロ工場で20%超削減
水資源処理水100%を水資源として還元
投資額数千万ドル規模(具体額非公開)
完工予定2026年半ば

生産されたバイオガスは、隣接する工場で化石燃料の代替として利用されます。これまでの柑橘廃液を工場のエネルギー源として再利用することで、工場全体のCO2排出削減につなげます。

独自開発のイノキュラム(接種菌)技術

このプロジェクトの技術的特徴は、LDCが独自に開発した柑橘廃液向けのイノキュラム(接種菌群)です。

一般的な有機性廃液と比べて、柑橘廃液は嫌気性消化が難しい原料であり、その理由の一つが、柑橘類に含まれるD-リモネンという精油成分です。

D-リモネンはメタン生成菌の働きを阻害することが知られており、過去の研究では、消化槽内のD-リモネン濃度が上昇すると、嫌気性消化の性能が大きく低下することが報告されています。

LDCは複数のイノキュラムを比較試験し、リモネンへの耐性が高く、柑橘廃液由来の有機物に対して効率よく分解できる菌叢を選定しました。

実証試験では、市場標準を最大15%上回る分解性能を達成したとされており、柑橘廃液という扱いの難しい原料に合わせて、微生物の働きを最適化しています。

ブラジルの未利用バイオガス資源

ブラジルの未利用バイオガス資源 さとうきび

ブラジルは、世界でも有数のバイオガス利用ポテンシャルを持つ国です。ABiogás(ブラジルバイオガス協会)の試算では、国内のバイオガス生産ポテンシャルは約846億Nm³/年に達するとされています。

World Biogas Association(WBA):Why Brazil is the biogas market you don’t want to miss!

その一方で、実際の活用率はまだ2%台にとどまっており、未利用の有機資源が多く残されています。

バイオガス原料 サトウキビから多様化へ

ブラジルは世界有数のサトウキビ・エタノール生産国であり、これまでのバイオガス事業も、サトウキビ由来のバガスやヴィナス(蒸留残液)を原料とするプロジェクトが大半を占めてきました。

その一方で、柑橘廃液を主原料とする大規模バイオガスプラントは、これまでほとんど前例がありません。

今回のプロジェクトは、ブラジルのバイオガス原料がサトウキビ関連から、食品加工廃液などへ広がる原料多様化の象徴的な事例といえます。

バイオメタンの技術的・産業的意義と食品産業への波及

このプロジェクトは、単一工場のCO2削減にとどまらず、食品加工業の廃液処理、再生可能エネルギー利用、水資源の循環を同時に進めるモデルとして、幅広い産業に応用できる可能性があります。

また、果実加工産業への波及も想定され、パイナップルやリンゴなど、他の果実加工廃液への応用可能性が高く、世界の食品加工業界全体にインパクトを与える可能性があります。

バイオメタンは、既存のガス利用設備を活かしながら化石燃料を代替できるため、熱需要を持つ産業では、比較的実装しやすい選択肢となります。

農業大国であるブラジルで、柑橘廃液を活用した大規模バイオガス事業の進展は、アジアや欧州の食品加工企業にとっても有益な参考事例となります。


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