北欧の海運大手Viking Lineは、海運燃料の脱炭素化に向けて、液化バイオガス(LBG/Bio-LNG)の導入を大幅に拡大しています。
同社は、フィンランドのトゥルクとスウェーデンのストックホルムを結ぶ航路で、最新鋭フェリー「Viking Glory」および「Viking Grace」の燃料として、2026年も高水準のバイオガス利用を維持すると発表しました。
Viking Line プレスリリース:Viking Line continues its major investment in biogas
Viking Lineの取り組みは、欧州海運業の脱炭素化に向けた重要な先行事例となります。
Viking Lineがバイオガスを利用する背景
Viking Lineがバイオガス導入を急ぐ背景には、欧州連合(EU)が推進する環境規制「FuelEU Maritime」と「EU ETS(排出量取引制度)」があります。
海運分野はGHG(温室効果ガス)排出削減が極めて困難なセクターとされてきましたが、2024年からEU ETSの対象となりました。
さらに2025年からはFuelEU Maritimeによって、船舶燃料の温室効果ガス強度(GHG intensity)を段階的に引き下げることが義務付けられています。
このため、海運業者や船舶所有者は、従来の重油から低炭素燃料への転換を余儀なくされています。
バイオ燃料利用の取り組みと電動フェリーHelios計画
フィンランドを含む北欧諸国は、伝統的にバイオガス生産が盛んであり、家畜糞尿や食品廃棄物、産業排水を原料としたバイオメタンの供給インフラが整っています。
Viking Lineは2023年から、乗客が追加料金を支払うことで航海に使用する燃料をバイオガスに変更できる「グリーン・フェリー」サービスを開始しており、CO₂削減に貢献しています。
また、Viking Lineは、2025年にバイオ燃料の使用量を前年比で10倍に増やしており、2026年上半期は、トゥルク~ストックホルム航路の燃料需要の50%をバイオガスで賄う契約を締結済みです。
Viking LineではさらなるCO₂の削減を目指し、今後もバイオ燃料の使用を大幅に増やすとともに、2030年代に100%電力で航行する次世代電動フェリー「Helios」プロジェクトを進めています。
Viking Line プレスリリース:Viking Line to boost biogas use – will provide option of fossil-free maritime transport on all routes
LNGからBio-LNG(LBG)へ ドロップイン燃料への移行とと環境性能
Viking Lineの戦略の鍵を握るのは「ドロップイン燃料」としてのバイオガスの特性です。
液化バイオガス(LBG)は、主成分がメタンでLNGと近い性質を持ち、小幅の改修で既存のLNG供給インフラや船舶エンジン、燃料タンクを活用できるというメリットがあります。
これにより、水素やアンモニアといった次世代燃料で必要となる巨額の設備投資を回避しつつ、大幅なCO₂排出削減が可能となります。
同社の主力船であるViking Graceは、液化天然ガス(LNG)を燃料とする世界初の大型客船として知られており、2022年就航のViking Gloryは、最先端の Wärtsilä 31DF dual fuel engine を搭載しています。
以下の表は、従来の船舶用燃料とバイオガスの環境性能および技術的要件を比較したものです。
船舶燃料の比較・GHG削減率
| 燃料タイプ | 主要成分 | GHG削減率(Well-to-Wake) | エンジン改修 | インフラ互換性 |
|---|---|---|---|---|
| 重油(HFO) | 炭化水素 | 0%(基準) | 不要 | 既存設備 |
| LNG | メタン | 約15~20%程度 | 必要(既存) | LNG専用設備 |
| Bio-LNG(LBG) | バイオメタン | 最大90% | 不要(LNG船) | LNG設備を共有可能 |
| e-メタン | 合成メタン | 最大90%以上 | 不要(LNG船) | LNG設備を共有可能 |
Bio-LNGのGHG削減率は、原料(糞尿、廃棄物等)の発生から燃焼までを考慮したライフサイクルアセスメント(LCA)に基づき、従来の化石燃料と比較して最大90%の削減が可能とされています。
欧州FuelEU Maritime規制とバイオメタン供給網
欧州のバイオガス市場は、ウクライナ情勢以降のエネルギー自給率向上を目指す「REPowerEU」計画により、2030年までに年間350億立方メートルのバイオメタン生産を目指しています。
特にフィンランドでは、国内の有機性廃棄物を活用したバイオメタン生産施設の建設計画が増加しています。
Viking Lineへの燃料供給を支えるのは、Gasum(ガスム)などの北欧の大手エネルギー企業で、バイオガスを高度に精製・液化し、海運向けのLBGとして供給するネットワークを構築しています。
Gasum事業概要:Gasum (ガスム)
また、前述の「FuelEU Maritime」規制に加え、EU域内排出量取引制度「EU ETS」に海運が含まれたことも、LBGの経済的合理性を高めています。
EU ETSの炭素価格が上昇する中で、低炭素燃料であるバイオガスは、企業にとって長期的なコスト抑制策としての側面も持ち始めています。
Viking Lineでは、今後さらに多くの航路でバイオガスの使用比率を高めると同時に、再生可能電力から作られる合成メタン(e-メタン)の導入も視野に入れています。






