米国産LNGがウクライナ到着 バイオメタン環境価値の意義

米国産LNGがウクライナ到着 バイオメタン環境価値の意義

Naftogaz(ウクライナ国営ガス会社)とポーランドのORLENの協力により、2026年第1弾となる米国産LNG(液化天然ガス)約1億m³がウクライナに到着しました。

到着したLNGはポーランド・Świnoujście(シフィノウイシチェ)LNGターミナルで再ガス化された後、パイプラインを経由してウクライナ国内へ輸送されました。

この件は今後、LNG調達とバイオメタン(再生可能天然ガス)由来の環境価値を組み合わせる取引モデルへ発展する可能性があります。

ORLENニュース:ORLEN to supply US gas to Ukraine. Agreement signed for 2026 deliveries

ロシア産ガス離脱とウクライナのエネルギー調達多角化

ロシア産ガス離脱とウクライナのエネルギー調達多角化

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州全体でロシア産天然ガスへの依存脱却が加速しています。

しかし、2024年時点でもEUはロシアから総輸入量の約19%となる520億m³のガスを輸入しており、完全な脱却には至っていません。

ウクライナ自身も、国内のエネルギーインフラがロシアの攻撃を受けており、2025年にはガス生産が最大40%減少したため、冬季の暖房需要を賄うための安定供給確保が、喫緊の課題となっています。

Reuters News:Ukraine will not restrict gas supplies to consumers despite Russian attacks

こうした状況下で、NaftogasはORLENとの戦略的パートナーシップを通じ、米国産LNGの調達ルートを拡大しています。2025年には約6億m³のLNGがORLEN経由で供給され、2026年には10億m³まで増やす計画です。

Naftogaz CEOのSergii Koretskyi氏は、供給源と輸送ルートの多角化により、ウクライナのエネルギーレジリエンスを強化すると表明しています。

EUのREPowerEU計画では、2030年までにバイオメタン生産量を350億m³に引き上げる目標を掲げており、バイオメタンを含む再生可能ガスは、ロシア産ガス代替の柱として位置づけられています。

EBA(欧州バイオガス協会)の2025年版統計報告によると、欧州全体のバイオガス・バイオメタン生産量は220億m³に達し、欧州ガス消費量の約6%に相当します。

EBA News:EBA Statistical Report 2025

ORLEN–Naftogaz LNG供給スキームと「北部回廊」構想とは

今回の供給は、2025年11月にアテネで開催されたP-TEC(大西洋横断エネルギー・気候パートナーシップ)サミットにおいて締結された枠組み合意に基づいています。

ORLENは自社のLNGタンカー船隊を用いて米国からLNGを調達し、ポーランドのŚwinoujście LNGターミナルで再ガス化した後、ポーランド・ウクライナ間のパイプラインを通じて供給する一貫体制を構築しています。

ORLENは中東欧最大のエネルギー企業であり、Świnoujścieターミナルの他に、リトアニアのKlaipėda FSRU、建設中のグダニスクFSRUなど、複数のLNG受入拠点の容量を確保しています。

2025年にはŚwinoujścieターミナルへの入荷が81隻・約600万トンと過去最高を記録しました。ORLENのCOO、Robert Soszyński氏は、この協力関係が地域全体のエネルギー安全保障を強化すると述べています。

項目数値・内容
2026年Q1供給量約3億m³(LNGカーゴ3隻分)
2026年1月第1弾約1億m³(約70万世帯の1カ月分の暖房用ガスに相当)
2026年通年目標10億m³以上(前年比40%増)
再ガス化拠点シフィノウイシチェ(Świnoujście)LNGターミナル(ポーランド)他
輸送主体ORLEN自社LNGタンカー船隊(2026年末までに8隻体制へ拡充)

この供給スキームは「北部回廊(Northern Corridor)」構想の一環として位置づけられています。

FSRU2についても、ポーランドのGAZ-SYSTEMがオープンシーズン手続きを進める計画で、ポーランドを中継ハブとしたさらなる供給能力の拡大が見込まれています。

バイオメタン環境証書(GO・PoS)が持つ技術的意義

本件で注目すべきは、欧州で整備が進むバイオメタン証書制度が、物理的なLNG供給とバイオメタン由来の環境価値を組み合わせた枠組みになりうる点です。

欧州では、バイオメタンの環境属性は主に2種類の証書制度で管理されています。

1つ目は「原産地証明(GO:Guarantee of Origin)」で、EU再生可能エネルギー指令(RED)第19条に基づき、バイオメタン1MWhの再生可能性を証明する電子証書です。

GOはガスの物理的な流れと切り離して取引(ブック&クレーム方式)が可能で、発行から12カ月間有効です。

2つ目は「持続可能性証明(PoS:Proof of Sustainability)」で、バイオメタンがREDの持続可能性基準とGHG排出削減基準を満たすことを証明するものです。

PoSはマスバランス方式で、物理的なサプライチェーンに紐づけて取引されており、ERGaR(欧州再生可能ガス登録機関)によれば、これらの証書の越境取引は年々拡大しています。

European Renewable Gas Registry (ERGaR):Renewable Gas Certification

S&P Global Commodity Insightsの分析では、バイオメタン証書制度がEUと米国の双方で機能しており、2023年にはEUで約1,500万トンCO2e、米国で約500万トンCO2eの排出削減に寄与したと報告されています。

LNGの物理的供給にバイオメタン証書を組み合わせることで、受入国であるウクライナは化石燃料由来のガスを使用しつつ、バイオメタン生産者が生み出した環境価値(GHG排出削減効果)を証書として取得できます。

これは、バイオメタンのグリッド注入が限定的な地域や、物理的なバイオメタン供給が困難な状況でも、再生可能ガスの環境便益を広く享受するための仕組みとして注目されています。

ウクライナのバイオメタン輸出国化と中東欧再生可能ガス市場の展望

ウクライナのバイオメタン輸出国化と中東欧再生可能ガス市場の展望

ウクライナ自身も、バイオメタンの生産国としての成長が期待されています。

UABIO(ウクライナバイオエネルギー協会)によると、ウクライナのバイオメタン生産ポテンシャルは年間最大218億m³(メタン換算)と推定されており、これはEU全体の現在の生産量の約4倍に相当します。

2025年末時点で、ウクライナ国内には85カ所のバイオガスプラント(140MW)と4カ所のバイオメタン施設(年間4,100万m³)が稼働しています。

UABIO:Biomethane in Ukraine: opportunities and development — event materials and speakers’ statements

Vitagro、MHP(Mironivsky Hliboproduct)、Hals Agroなどの企業がバイオメタン生産・輸出のパイオニアとなっており、2025年末の総生産能力は1.11億m³に達すると見込まれます。

Green Deal UkraineとUkrainian Climate Officeの研究では、2030年までに年間10億m³、2050年までに60〜220億m³の生産が可能と予測されています。

ウクライナ バイオメタン調査レポート(PDF):THE POTENTIAL OF UKRAINE-EU BIOMETHANE COOPERATION

ポーランド側でも動きが活発で、ORLENは2025年12月、ポーランド初のBio-LNG補給ステーションネットワーク(計21拠点)の建設を開始しました。第1号拠点は2026年後半にプウォツク(Płock)で開業予定です。

ポーランドのバイオメタンポテンシャルは40〜80億m³と推定されており、ポーランドバイオメタン協会を中心に制度整備が進められています。

EBAの統計報告によれば、2025年6月時点で稼働している欧州のバイオメタン施設は1,678カ所に達し、2030年までに民間投資284億ユーロが既にコミットされています。

バイオガステック 参考記事:ヨーロッパのバイオメタン市場を知る 欧州バイオメタンマップ

IEAも2025年のRenewables報告書で、バイオガス・バイオメタンの複合生産量が2030年までに2023年比で1.6倍に拡大すると予測しています。

中東欧における再生可能ガスインフラの発展、ウクライナのバイオメタン輸出国化、そしてEU全体の脱炭素目標達成に向けて、この「LNG+環境証書」の枠組みは今後さらに拡大していく可能性があります。


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