日本植物燃料が海運バイオ燃料生産をアフリカで実証

ジャトロファ由来バイオ燃料

経済産業省は2026年3月に、日本植物燃料株式会社(NBF)による「アフリカでの海運バイオ燃料サプライチェーン構築」を大規模実証事業として採択しました。

このプロジェクトは、モザンビーク・ガーナを拠点に、ジャトロファを原料とするバイオ燃料の供給網を構築するもので、総事業規模は約70億円、補助額は約40億円にのぼります。

日本植物燃料 プレスリリース:日本主導でのエネルギー安全保障強化・GXを目指し海運バイオ燃料の 新サプライチェーン構築に向けた大型実証として経産省が日本植物燃料を採択

NBFは商船三井・栗林商船・日本海事協会らと連携し、2032年までに年間40万トンの供給体制を目指します。

海運GHG排出ネットゼロに向けて アフリカ事業採択の背景

海運業界では、2050年までの温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ達成が大きな課題となっています。

特に、国際海事機関(IMO)による規制強化が進む中、既存のエンジンを大幅に改造することなく利用可能な「ドロップイン燃料」として、バイオ燃料に注目が集まっています。

こうした背景のもとで、経済産業省は令和6年度補正「グローバルサウス未来志向型共創等事業(大型実証 非ASEAN加盟国)」二次公募で、日本植物燃料株式会社(NBF)を採択しました。

このプロジェクトは単なる燃料調達の域を超え、日本のエネルギー安全保障とグローバルサウスとの連携を象徴する事業として期待されています。

国際海事機関(IMO)による海運GHG排出規制の強化

国際海事機関(IMO)は、2023年7月の第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)で、国際海運からのGHG排出を「2050年頃までにネットゼロ」とする目標を採択しました。

国土交通省 報道発表資料:国際海運「2050年頃までにGHG排出ゼロ」目標に合意

さらに2025年4月のMEPC83では、5,000総トン以上の国際航行船舶を対象に、燃料のライフサイクルGHG強度(GFI:gCO2eq/MJ)を段階的に厳格化する「ネットゼロ枠組み(NZF)」が基本合意されました。

JOGMEC JOURNAL:第83回IMO海洋環境保護委員会において合意された燃料GHG強度規制と経済的インセンティブ制度案を巡る一考察

EUでも2025年1月に、FuelEU Maritime規制が発効しており、EU域内の航海・寄港船舶に対するGHG強度規制が始まっています。

European Commission:New EU rules aiming to decarbonise the maritime sector take effect

規制対応の海運バイオ燃料

アンモニア・メタノール・水素などのゼロエミッション燃料は、海運脱炭素の本命とされていますが、専用エンジンや専用バンカリングインフラの整備に時間を要します。

その一方で、バイオディーゼル燃料は、既存の重油専焼ディーゼル機関にそのまま使用できる「ドロップイン燃料」であり、即効性のあるGHG削減手段となります。

商船三井もB30(30%混合)やB100の実船試験を重ねており、栗林商船は2026年3月に、RORO船で日本初となるジャトロファ由来SVO(Straight Vegetable Oil)混合油の実航路試験を開始しました。

PRTIMES:バイオ燃料を用いた自社RORO船での実証試験を開始 栗林商船株式会社

原料生産から海運用途までの統合モデル

このプロジェクトは従来のバイオ燃料事業と異なり、原料生産から海運利用、認証までの統合モデルとして設計している点が特徴です。

項目従来型バイオ燃料事業当プロジェクト
原料廃食油(FAME)が中心ジャトロファSVO(高収量品種)
用途陸上輸送・発電が中心海運(外航・内航)特化
バンカリング既存港湾で個別供給モザンビーク・ガーナ・シンガポール・日本の4拠点で体制構築
付加価値燃料供給のみ燃料+バイオ炭による炭素除去+カーボンクレジット
規制対応個別認証取得IMO・FuelEU Maritime・ISCC等を統合設計

単なる燃料事業だけでなく、搾油残渣をバイオ炭化することで土壌改良と炭素貯留を両立させ、植林とあわせてカーボンクレジットを創出する点が差別化につながります。

ジャトロファの品種改良で生産性を向上

ジャトロファ由来バイオ燃料

バイオ燃料の原料となるジャトロファは、半乾燥地でも栽培可能な非可食油糧植物で、食料作物との競合や森林伐採リスクが低く、未利用地・荒地も活用できます。

BFPRO:ジャトロファ(Jatropha curcas)

NBFは20年以上にわたってジャトロファの品種改良を続けており、野生種の約50倍の生産性を持つ独自品種を開発しています。

ナカラ回廊・ボルタ湖水運との連動

ナカラ回廊は、モザンビーク北部のナカラ港から、マラウイ・ザンビアへつながっており、農産物や資源物流の主要ルートとして重視されています。

モザンビークからマラウイ・ザンビアへ抜けるナカラ回廊

NBFはナカラ回廊沿いの未利用地でジャトロファを栽培し、ガーナではボルタ湖の水運も活用して、内陸から港湾までの輸送インフラを整備する計画です。

商船三井のアフリカ事業は長く、前身の大阪商船が1929年にケニア・モンバサに拠点を設けています。栗林商船は内航海運でのバイオ燃料導入を推進し、日本海事協会(ClassNK)は燃料認証で連携する想定です。

バイオ燃料の供給目標 2032年に年間40万トン体制へ

NBFはこの実証を通じて、2032年までに年間40万トン規模のバイオ燃料供給体制の確立を目標としています。

これは日本国内で1年間に回収される廃食油総量に匹敵する規模であり、海運業界向けの安定供給源として大きな意味を持ちます。

目標達成に向けた現時点の課題として、以下が挙げられます。

  • 初期投資負担:樹木の成長による収益化までの時間差や、栽培・搾油・バンカリングインフラの整備に約70億円規模の投資が必要
  • 政府補助の役割:約40億円の補助は初期リスクを低減し、民間投資を誘発する触媒的役割を担う
  • 商業化への道筋:生産開始は2028年頃を想定、栗林商船など内航事業者が先行して実需を形成する
  • 収益の多元化:燃料販売に加え、バイオ炭・カーボンクレジット・農村開発支援の複合収益モデルを構築する

政策や技術面の展望

このプロジェクトは、エネルギー・農業・GHG削減を統合する産業モデルの社会実装を目指すとともに、未開拓のアフリカ資源を活用し、燃料安全保障と海運の脱炭素化を実現する戦略的な一手と言えます。

また、日本にとっては、地域リスクを分散する燃料供給源の創出と、TICAD(アフリカ開発会議)以降のアフリカ連携の具体化という政策的意義があります。

海運業界では燃料の品質安定性が重要視されるため、アフリカでの製造プロセスにおいて、ISCC認証やIMOのLCAガイドラインに準拠することが技術面での鍵となります。


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