IHIは2022年10月に、CO₂と水素から合成メタン(e-methane)を製造する小型メタネーション装置の販売を開始すると発表しました。
IHIプレスリリース:CO₂と水素から燃料をつくる,メタネーション装置を販売開始
本装置はサバティエ方式を採用し、設計標準化によりコストを抑えた短納期納入を実現しており、日本ガイシ向けの標準機を2023年11月に受注しています。
また、JFEスチール向けの世界最大級装置(500 Nm³/h)受注を2022年12月に発表しており、東邦ガスとの連携で、バイオガス由来CO₂を活用した都市ガス原料利用の実証も行っています。
IHIがメタネーション装置を標準化・商品化した背景
日本政府は2021年に策定した「グリーン成長戦略」で、メタネーションを次世代熱エネルギー産業の柱のひとつと位置づけました。
2030年までに都市ガス導管への合成メタン1%注入(年間約28万トン)を目標とし、2050年には90%を合成メタンに置き換えるという野心的な数値を掲げています。
こうした政策を背景に、工場や研究所、事業所などからは「自社でメタネーションを試験的に運用したい」というニーズが高まり、2022年10月に小型メタネーション装置の販売を開始しました。
同社はもともと石油化学用リアクターの設計技術と、独自開発の高性能・長寿命メタネーション触媒を保有しており、この技術的蓄積を「標準化された商品」として市場に投入しています。
JFEスチールから世界最大級のメタネーション装置を受注

IHIは2022年12月にJFEスチールから、排出ガス中のCO₂を1日24トン再利用し、1時間あたり500 Nm³のメタンを製造する世界最大級のメタネーション装置を受注しました。
IHIプレスリリース:世界最大級の製造能力を持つメタネーション装置を受注
JFEスチールは試験高炉の排出ガスからCO₂を回収し、製造したメタン還元剤を使用するカーボンリサイクル高炉によって、製鉄プロセスからCO₂排出を50%以上削減する技術の実証を進めています。
日本の鉄鋼業は産業部門全体のCO₂排出の約40%を占めるとされ、脱炭素化の要請が極めて大きい分野です。
これはNEDOのグリーンイノベーション基金事業の一環として採択されたプロジェクトであり、カーボンリサイクル高炉の実現に向けた技術実証に使用されます。
IHI製メタネーション装置の技術的特徴
IHIのメタネーション装置の最大の特徴は、サバティエ方式を採用したシェル&チューブ型の反応器にあります。小型標準機のe-メタン製造量は12.5 Nm³/hで、低負荷運転にも対応可能です。
装置全体はコンパクトな筐体(幅2,250mm×長さ6,100mm×高さ2,850mm)にパッケージ化されており、短期間での据付が可能です。
| 項目 | IHI 小型標準機 | IHI JFEスチール向け大型機 |
|---|---|---|
| 方式 | サバティエ方式 | サバティエ方式 |
| 反応器型式 | シェル&チューブ | 大型サバティエ |
| e-メタン製造量 | 12.5 Nm³/h | 500 Nm³/h |
| CO₂処理量 | — | 24 t/日 |
| 主な用途 | 実証試験・事業所内利用 | カーボンリサイクル高炉 |
| 納入先例 | 東邦ガス、日本ガイシ 他 | JFEスチール |
設計標準化により導入コストを抑え、複数台を連結することで製造量の拡張が可能となっている点は、大規模投資が難しい中小規模事業者にとって大きなメリットです。
また、運転・保守支援の「MEDICUS NAVI」や、CO₂排出・削減量を算定しブロックチェーン上で環境価値として記録・管理する「ILIPS環境価値管理プラットフォーム」も展開しています。
IHIのメタネーション装置は、標準化された小型機の量産と、段階的スケールアップという戦略を取り、実証段階から導入しやすいラインナップを揃え、レンタルも含めた販売形態を展開しています。
バイオガス由来CO₂を活用した実証事例

IHIはCO₂活用の実証事例として、東邦ガスと共同で「知多e-メタン製造実証施設」に取り組んでいます。
東邦ガス知多LNG共同基地内にIHIの小型メタネーション装置を設置し、知多市南部浄化センターのバイオガス精製設備から排出されるCO₂含有オフガスを原料として、e-メタンを製造しています。
2024年5月に実証施設が開所し、製造されたe-メタンは日本で初めて都市ガス原料として利用されました。
東邦ガス プレスリリース:知多市と連携した「バイオガス由来のCO2を活用したe-メタン製造実証」の開始について
この実証ではいくつかの技術的課題が克服されており、バイオガス精製設備の間欠運転によってオフガスの圧力・流量が脈動するため、動的シミュレーションを活用した圧縮設備の最適設計が行われました。
また、オフガス中のCO₂濃度は経時変化するため、CO₂量に追従して水素供給量を調整する制御設計も実装されています。
こうした技術は、バイオガスプラントからのCO₂をメタネーションに活用する際に共通する課題であり、今後のプラント設計における重要な知見となります。
日本ガイシ向けのメタネーション標準機
IHIは2023年11月に、日本ガイシ向けのメタネーション標準機受注も発表しており、装置は工場内カーボンリサイクルの実証モデルとして使用されます。
三菱重工の小型CO₂回収装置「CO₂MPACT」でセラミック焼成炉の排ガスからCO₂を回収し、IHIのメタネーション装置で製造した合成メタンは、燃焼炉の燃料として再利用する計画です。
IHIプレスリリース:日本ガイシからメタネーション標準機を受注
大型化ロードマップと2030年商用化への展望

IHIのメタネーション事業はスケールアップの道筋を描いており、IHI技報によると、2024年11月時点で小型メタネーション装置は稼働中3機、工事進行中4機に加え、多数の引き合いがあるとされています。
IHI技報:「小型メタネーション装置」を用いた実証設備の導入
中型機については、JFEスチール東日本製鉄所千葉地区向けに500 Nm³/hの設備を2025年度中に納入予定で、カーボンリサイクル高炉による製鉄プロセスのCO₂を50%以上削減する技術実証に貢献します。
さらにIHIは、数千~数万 Nm³/h規模の大型メタネーション設備を2030年までに商用化することを目指し、触媒の高度化、反応器の大型化、反応熱の有効利用プロセス改善などを進めています。
商用化に必要とされる1~6万 Nm³/h規模の到達には、現在の小型機からさらに数百~数千倍の能力拡大が求められますが、IHIは段階的にスケールアップしながら実績を積み上げる計画です。






