米国バイオガス協会(American Biogas Council:ABC)が、2026年3月24日のNational Agriculture Day(全米農業の日)に合わせて、最新の業界データを公表しました。
そのデータによると、米国の農場におけるバイオガス回収量は過去5年間で166%増加し、稼働する農場ベースのバイオガスシステム数は655基と、2020年末時点の2倍以上に達しています。
また、2025年だけで40基の新規システムが稼働を開始し、農業系バイオガスシステムへの累計投資額は64億ドル(約9,600億円)に到達しました。
American Biogas Council(ABC):U.S. Farms Have More Than Doubled Biogas Capture Over Five Years
米国農場バイオガスが急拡大した背景と政策的要因
米国で農業系バイオガスが急拡大している要因として、再生可能天然ガス(RNG)市場を下支えする政策枠組みの存在が挙げられます。
カリフォルニア州の低炭素燃料基準(LCFS)と連邦政府の再生可能燃料基準(RFS)は、化石燃料に比べてライフサイクルGHG排出量が低い輸送用燃料に経済的インセンティブを付与しています。
特に、家畜糞尿由来のバイオメタンは、高い炭素削減効果が評価されています。
ABCのパトリック・サーファス事務局長は「バイオガス回収システムは、日常的な農業廃棄物を24時間安定したエネルギーに変換しながら、地域経済に実質的な利益をもたらす」と述べています。
また、米国農務省(USDA)の農村エネルギープログラムや、EPAとUSDAの共同プログラム「AgSTAR」による技術的支援も、農場への嫌気性消化システム導入を後押ししています。
AgSTARのデータベースによると、バイオガス回収システムは大規模酪農・養豚施設8,000カ所以上で技術的に実現可能であり、市場拡大の余地は極めて大きいとされています。
米国RNG生産能力が倍増
米国では、新規の農場バイオガス施設数が急増しており、それに伴いRNG生産能力も増加しています。

バイオガス施設年間新設数 グラフ出典:American Biogas Council
BioCycle誌の分析によると、RNG生産施設数は2020年の217カ所から2025年末には659カ所へと約3倍に増加し、生産能力も2022年から2025年にかけてほぼ倍増しています。
バイオガス産業全体でも、2025年には70の新規プロジェクトが稼働を開始し、全米の施設数は約2,600に達しました。総投資額は21億ドルに上り、産業の成熟と規模拡大が同時に進行しています。
BioCycle:Biogas Infrastructure Expansion Tops $2 Billion in 2025
| 指標 | 2020年 | 2025年末 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 農場バイオガスシステム数 | 約300基 | 655基 | 2倍超 |
| 農場バイオガス回収能力 | 約2,300万 MMBtu/年 | 6,100万 MMBtu/年 | +166% |
| 農場バイオガス累計投資額 | — | 64億ドル | — |
| RNG生産施設数(全セクター) | 217カ所 | 659カ所 | 約3倍 |
| 全米バイオガス施設総数 | — | 約2,600カ所 | — |
農業系バイオガスの構造変化:発電からRNGへ
今回のABCのプレスリリースが示すもう一つの重要な変化は、バイオガスの最終用途が発電からRNG生産へと大きくシフトしている点です。
2020年時点では農業系バイオガスシステムの約74%が発電にバイオガスを利用していました。しかし現在は約3分の2のシステムがRNGへアップグレードし、パイプライン注入や輸送用燃料として供給しています。
この構造転換は、RNGの市場価格がLCFSやRFSのクレジット制度によって高い収益性を維持していることに起因します。
米国バイオガスシステム 酪農・養豚セクター別状況
ABCのデータによると、農場ベースのバイオガスシステム655基のうち、酪農施設が79%を占め、次いで養豚施設が19%、残りを家禽や作物残渣処理施設が占めています。

酪農セクターでは、カリフォルニア州が全体の4分の1以上を占めており、温暖な気候を活かしたカバードラグーン型ダイジェスターの導入が進んでいます。
ウィスコンシン州(9%)、ニューヨーク州(6%)、ノースカロライナ州(5%)がそれに続きます。
米国バイオガスの未開拓ポテンシャル
また、ABCのデータは未開拓ポテンシャルの大きさも示しており、500頭以上の酪農場でバイオガスシステムを導入可能な農場は約3,000カ所あるにもかかわらず、実際の導入率はわずか約14%にとどまっています。
American Biogas Council(ABC):American Biogas Council Marks National Dairy Month with New Data Highlighting Increased Methane Capture at Dairies
養豚セクターに至っては、技術的に導入可能な施設のうち2%未満しか採用されていません。
ABCは、この未開拓ポテンシャルがすべて実現すれば、約770万世帯分に相当するエネルギーを追加的に創出できると試算しています。
発電からRNGへの転換 先行する米国事例
米国が先行する「発電からRNGへの転換」というトレンドは、日本も参考にすべき点が多々あります。
日本国内でもFIT・FIP制度に基づくバイオガス発電が主流ですが、都市ガス導管へのバイオメタン注入やe-メタン(合成メタン)との連携といった新たな出口戦略の検討が始まっています。
米国では、政策的インセンティブ(LCFS、RFS)と投資環境の整備が農業系バイオガスの急成長を可能にしました。
一方、日本では家畜糞尿のメタン発酵に対する補助制度の拡充や、バイオメタンの環境価値を正当に評価する市場メカニズムの整備が、今後の普及拡大の鍵となるでしょう。
ABCのサーファス事務局長が「適切な政策と継続的な投資があれば、農場ベースのバイオガスは農家、地域社会、そして国全体に変革的な利益をもたらす」と述べているように、制度設計と市場創出の両輪が重要です。
データセンターやAI関連施設による電力需要の急増が見込まれる中、24時間安定供給が可能なバイオガスの「ディスパッチャブル電源」としての価値も再評価されつつあり、今後の動向に注目が集まります。






