インターステラテクノロジズ(北海道大樹町)と、産業ガス大手のエア・ウォーター北海道が、2023年7月に小型宇宙ロケット「ZERO」の燃料として、液化バイオメタンを採用すると発表しました。
インターステラテクノロジズ:ロケットZEROの燃料に、牛ふん由来の液化バイオメタンを選定しました
インターステラテクノロジズは、2023年12月にバイオメタンを用いたエンジン燃焼器単体試験に成功しており、民間のロケット会社としては世界初の成果となります。
液化メタンは、価格・燃料性能・扱いやすさ・入手性・環境性が総合的に優れ、近年は米SpaceXの「スターシップ」をはじめ、世界の主要ロケットで採用が進んでいます。
牛のふん尿がロケット燃料に 液化メタンが選ばれた背景
今回の燃焼試験で採用されたのは、家畜ふん尿由来のLBMです。メタンは二酸化炭素に次いで影響の大きい温室効果ガスであり、牛のげっぷやふん尿からのメタン排出抑制は酪農地帯の重要課題です。
さらに地域ではふん尿に起因する臭気や水質汚染も問題となっています。LBMの利用は、ロケット重量の大半を占める燃料をカーボンニュートラル化すると同時に、こうした地域課題の解決にも直結します。
エア・ウォーターグループは2022年10月、帯広市に国内初となる家畜ふん尿由来の液化バイオメタン(LBM)製造工場を稼働させ、年間最大360トンの生産能力を確保しています。
インターステラテクノロジズは、2020年に「ZERO」の燃料として液化メタンを採用しましたが、ロケット燃料には不純物を含まない高純度メタンが不可欠であり、安定した調達方法が課題となっていました。
世界で注目 ロケット燃料向け液化メタン

ロケット燃料としての液化メタンは、価格、性能、扱いやすさ、入手しやすさ、環境性のバランスに優れており、世界的に注目されています。
最近では、米SpaceX社の「Starship」や、中国LandSpace社の「朱雀2号」など、新世代ロケットの多くが液化メタンを燃料に採用しています。
さらに2023年6月には、アリアンと欧州宇宙機関(ESA)が、共同で開発する再使用ロケット「Themis」のエンジン「Prometheus」で、バイオメタンの燃焼試験を実施しています。
こうした流れのなかで、世界2例目、かつ民間企業として初めてLBM燃焼試験に成功したインターステラテクノロジズの取り組みは、世界的な技術潮流の先端にある事例といえます。
ロケット燃料向け液化バイオメタンの技術的優位性

LBMはバイオガスの主成分であるメタンを分離・精製し、約-160℃で液化したもので、気体状態のバイオメタンと比べて体積は約600分の1に圧縮されるため、輸送効率が大幅に向上します。
また、既存のLNG(液化天然ガス)燃料インフラ・設備をそのまま活用できる点も大きな利点で、ボイラー、トラック、船舶など多用途に展開可能です。
ロケット燃料に必須の高純度メタン
エア・ウォーター北海道が製造するLBMは、メタン純度99%以上を実現しており、従来のロケット燃料に使用される高純度メタンと同等水準に達しています。
硫黄分はエンジン燃焼室で「サルファアタック」と呼ばれる腐食を引き起こすため、ロケット燃料には、不純物を含まない高純度メタンが不可欠です。
LBMには、一般的なメタン燃料に微量含まれる硫黄成分が存在せず、純度の高いロケット燃料として評価されています。
液化バイオメタン(LBM)と液化天然ガス(LNG)の比較
| 項目 | LBM(液化バイオメタン) | LNG(液化天然ガス) |
|---|---|---|
| 原料 | 家畜ふん尿由来バイオガス | 化石天然ガス |
| メタン純度 | 99%以上 | 約90%~95% |
| 熱量 | LNGの約90% | 基準値 |
| CO2排出削減効果 | サプライチェーン全体で約60%以上 | — |
| 調達 | 国内・地産 | 輸入依存 |
北海道十勝の地域循環型LBMサプライチェーン

このプロジェクトの目的の一つとして、地域内で完結する循環型サプライチェーンの構築が挙げられます。
大樹町は人より牛が多い町として知られ、町内で飼育される乳牛の数は、約2万4000頭と推定されます。
エア・ウォーターの試算によると、乳牛1頭あたり年間約30トンのふん尿から、約320kgのLBMを製造可能とされており、仮に北海道全体の乳牛を活用すれば、道内工業用LNG消費量の約半分を代替できます。
メタンはCO2に次いで温室効果が高いガスであり、本来であれば大気中に放出されていた家畜由来メタンを燃焼させることで、温室効果ガス削減と廃棄物処理を同時に達成できます。
インターステラテクノロジズは北海道大樹町に拠点を置き、十勝地域でロケット開発や製造、打ち上げ(北海道スペースポート)を行っています。
エア・ウォーターは2024年5月に、よつ葉乳業十勝主管工場向け(年間60t)にLBMの商用販売を開始しており、ロケット燃料用途はその応用領域の一つに位置づけられます。
宇宙ロケットを地域循環資源のモデルケースに
インターステラテクノロジズは、2023年12月にLBMを用いたCOSMOSエンジン燃焼器単体試験に成功した後、ZERO初号機での実用化に向けた開発を進めています。
インターステラテクノロジズ:小型人工衛星打上げロケットZERO、エンジン燃焼器単体試験に成功しました
エア・ウォーター北海道は、同社のパートナーシッププログラム「みんなのロケットパートナーズ」に2021年から参画しており、LNG供給やタンク製造などを通じた継続的な協力関係を構築してきました。
他にも、インターステラテクノロジズはパートナー企業と共同で、以下の課題に取り組んでいます。
- ロケット重量の大半を占める燃料をサステナブル化することで、宇宙産業の脱炭素化に直接寄与
- 酪農地域の課題(臭気・水質汚染・メタン排出)と宇宙開発を結ぶ新たな地域価値創出モデル
- 北海道スペースポート(HOSPO)を核とした「宇宙×バイオエネルギー」産業クラスター形成への波及
- 都市ガス導管注入(エア・ウォーターと帯広ガス)の実証など、LBM用途の拡張
先端産業の宇宙ロケットと家畜ふん尿の組み合わせは、新たな地域循環資源のモデルケースといえます。






