東京ガスがカナダ・マニトバ州で副生水素活用のe-メタン製造へ

東京ガスがカナダ・マニトバ州で副生水素活用のe-メタン製造へ

東京ガス株式会社は2025年12月2日、カナダのTeralta Hydrogen Solutions Inc.(以下、テラルタ社)と、マニトバ州ブランドンにおけるe-メタン事業開発プロジェクトの合意書を締結したと発表しました。

東京ガスプレスリリース:カナダ・マニトバ州におけるe-メタン事業開発プロジェクトをテラルタ社と共同推進

このプロジェクトは、水力発電由来の副生グリーン水素と工業由来CO₂を原料とし、2030年度までに年間約3万トンのe-メタンを製造して、全量を日本に輸出する計画です。

東京ガスは2030年度に、ガス小売供給量の1%を脱炭素化する目標を掲げており、副生水素を活かしたe-メタンモデルとして活用を進める方針です。

東京ガスの2030年1%目標とe-メタンの役割

日本政府が掲げる2050年カーボンニュートラル実現に向け、都市ガスの脱炭素化が課題となっています。

東京ガスも経営ビジョン「Compass2030」の中で、2030年度時点にガス小売供給量の1%相当を、e-メタンやバイオメタン(RNG)に置き換える目標を掲げています。

今回のテラルタ社との合意は、この目標達成に向けた海外調達の具体化であり、最終投資決定(FID)は2026年度から2027年度前半、運転開始(COD)は2030年度内を想定しています。

e-メタンは、再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」と、回収されたCO₂をメタネーション反応(サバティエ反応)させることで生成される合成メタンです。

最大のメリットは「ドロップイン燃料」である点で、既存の都市ガス導管やLNGタンク、ガスコンロや産業用ボイラーといったインフラをほぼ変更せずに利用できます。

e-メタンは社会コストを最小限に抑えながら、脱炭素化を推進する手段として期待されています。

カナダ・マニトバ州 水力発電と副生水素の優位性

カナダ・マニトバ州ブランドン

今回の事業地であるカナダ・マニトバ州ブランドンは、e-メタン製造において理想的な環境を有しています。その理由は、州内の電力構成と産業構造にあります。

マニトバ州の電力供給を担うManitoba Hydroの電源構成は、その97%以上が水力発電となっています。この低炭素かつ安価な電力が、e-メタンのCI値(炭素集約度)を下げるポイントになります。

また、ブランドンにはChemtrade Logistics社の塩素酸ナトリウム製造工場が立地しており、年間約32万トンの生産規模を持ちます。

Brandon Economic Development:Chemtrade Logistics

塩素酸ナトリウムの製造は食塩水の電気分解プロセスにより、副産物として水素が大量に発生します。

この副生水素は工場の蒸気ボイラー燃料などに利用されてきましたが、水力由来電力で電気分解されているため、カーボン強度の低い「グリーン水素」として高い環境価値を持ちます。

工業由来CO₂の活用

e-メタン製造には水素とCO₂が必要ですが、このプロジェクトでは近隣の工業施設から供給されるCO₂を活用する予定です。

工業由来CO₂は、DAC(Direct Air Capture)と比べて分離コストが大幅に低いため、e-メタン事業の商業化を進める際は現実的な選択肢となります。

テラルタ社と「TERAscale」プロセスの特徴

テラルタ社は2021年に設立されたe-NG(electric natural gas, e-メタンと同義)開発企業で、カナダ・ブリティッシュコロンビア州バーナビーに本社があります。

Teraltaホームページ:Teralta – Alternative Energy & Hydrogen – Alternative Energy

同社独自の「TERAscale」プロセスは、実証済みの水素製造技術に改良を加えたもので、既存の産業副生水素を低コストで精製し、メタネーション装置に供給します。

水電解プラントを新設する通常のPower-to-Gas方式と比べて、資本効率に優れる点が特徴です。

TERAscale:Teralta e-NG

バイオメタン(RNG)とe-メタンの補完関係

バイオガス由来のバイオメタン(RNG)は、廃棄物系原料の制約から供給量に限界がありますが、e-メタンは再エネ電力とCO₂原料があれば、理論上無制限にスケールアップが可能です。

e-メタンとバイオメタンの比較

項目バイオメタン(RNG)e-メタン(合成メタン)
原料有機性廃棄物(バイオマス)グリーン水素 + 回収CO₂
スケーラビリティ原料供給量に依存(中規模)再エネ電力に依存(大規模可能)
既存インフラ活用可能(そのまま利用)可能(そのまま利用)
製造コスト比較的安定(地域資源活用)電力・水素価格に大きく依存

国際的なe-メタンサプライチェーンの構築へ

このプロジェクトで製造する年間3万トンのe-メタンは、すべて日本に輸出される予定です。

e-メタンをカナダで液化し、LNGタンカーで日本へ輸送する国際サプライチェーンの構築は、エネルギー安全保障の観点からも重要です。

カナダ政府も「水素戦略」を通じて、水の電気分解や化石燃料、バイオマス、産業副生物など多様な発生源を活かし、低炭素燃料の輸出拠点化を後押ししています。

JETROレポート:多様な水素の活用目指す連邦政府 – カナダにおける水素戦略(1)

今後は、経済産業省のSHK制度改正(e-メタンの排出係数ゼロ化方針)やトラッキング方式、SBTi等の国際基準と整合した環境価値の認証など、実装面の整備も進むと見込まれます。

東京ガスは、カナダ以外にも北米・中東・豪州等で複数のe-メタン開発を進めており、この案件はグローバルサプライチェーン構築の先行事例として位置付けられます。

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