米国財務省と米国内国歳入庁(Internal Revenue Service, IRS)は2026年2月、Section 45Z(米国クリーン燃料生産税額控除)の規則案を公表しました。
Section 45Zは、燃料種ごとに分かれていた優遇措置を統合し、CI(炭素強度)に応じて控除額が変動する技術中立的な枠組みです。
米国ではトランプ政権の発足以降、インフレ削減法(IRA)の大幅な見直しが進められてきましたが、45Zについては期限延長を含む形で存続が決まりました。
OBBBA(大型減税・予算調整法)は、すべてのクリーンテックを否定したわけではありません。
太陽光・風力発電やクリーン水素には厳しい判断が下る一方、「Homegrown American Energy(自国産エネルギー)」と位置づけられたバイオ燃料やCCSは支援が維持されました。
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OBBBA(大型減税・予算調整法)によって、適用期限や負のCIの扱いといった条件も見直されており、原料とプロセス次第では、バイオガスやバイオメタンへの投資に追い風となる可能性があります。
なお、45Zを含む米国RNGの収益構造全体(D3 RIN・LCFSクレジットとの関係)は、米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組みで整理しています。
Section 45Zとは? 燃料別の優遇を統合した技術中立的な枠組み
米国の再生可能燃料に対する税制優遇は、これまでバイオディーゼル(40A)や、SAF(持続可能な航空燃料:40B)といった個別の燃料種ごとに規定されてきました。
これに対し、2025年から導入されたSection 45Z(クリーン燃料生産税額控除)は、これらを統合し「燃料の炭素強度(CI:Carbon Intensity)」に基づき控除額を決定する「技術中立的」な枠組みへと移行しました。
この転換の背景には、単にクリーン燃料の生産量を拡大するのではなく、ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出削減を促進する狙いがあります。
そのためバイオガス事業者や投資家は、再生可能エネルギーとしての価値だけでなく、その低炭素性能を直接的な経済価値として計上することが可能になります。
対象となるのは、2024年12月31日より後に生産され、2030年1月1日より前に販売される輸送用燃料です。
OBBBAによる9つの変更点
今回の規則案公表と合わせて、「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」による変更点も示されました。
米国内国歳入庁(IRS):Treasury, IRS issue proposed regulations on the clean fuel production credit under the One, Big, Beautiful Bill
- クレジット適用期限を2029年末まで延長
- 2025年末以降に生産される燃料は、米国・メキシコ・カナダ由来の原料に限定
- 禁止外国事業体(prohibited foreign entity)に関する制限
- 関連する仲介者を経由した販売の帰属の拡大
- 2025年末以降に生産されたSAF(持続可能な航空燃料)に対する特別レートの廃止
- クレジットの二重計上を防ぐ濫用防止規定
- 2025年末以降は「負の排出率」を原則禁止(動物ふん尿由来は除く)
- 動物ふん尿由来の燃料には、原料別の排出率の設定を義務づけ
- 排出率の算定から間接的土地利用変化(ILUC)を除外
期限延長と原料の北米限定
適用期限の2029年末までの延長は、当初の2027年末から2年間の延長にあたります。長期の設備投資を検討する事業者にとって、投資回収期間の前提が変わる重要な変更です。
一方、原料を北米産に限定する規定は、輸入原料に依存するプロジェクトには制約となります。
バイオガス・RNGの場合、原料は基本的に立地周辺の廃棄物であるため、実務上の影響は限定的ですが、原料調達を証明する資料は求められます。
カナダ・メキシコ産の原料を用いる場合は、そこに域外由来の原料や添加物が含まれていないことを示す必要があります。
負の排出率の原則禁止と動物ふん尿の例外
バイオガス業界にとって、最も影響が大きいのは「負の排出率の原則禁止」です。
2025年末以降に生産される燃料では、排出率をゼロ未満とすることが原則として認められませんが、動物ふん尿由来の燃料はこの例外とされ、負の排出率を維持できます。
この一点によって、畜産ふん尿由来のプロジェクトと、埋立地ガスや下水汚泥由来のプロジェクトとの間に、控除額の上限で構造的な差が生まれることになりました。
さらにOBBBAは、動物ふん尿由来の燃料について、原料別の排出率を設けるよう財務省に求めています。
従来のガイダンスでは、ふん尿由来RNGの排出率は全米平均のふん尿種類と管理手法をもとに決められていました。
これが乳牛・豚・鶏といった種類ごとに個別化されれば、同じ畜産ふん尿由来でも案件によって控除額が分かれることになります。
ただし、この原料別の排出率は規則案の段階ではまだ示されていません。
財務省はふん尿以外の供給源を「その他の供給源」として指定する権限も持っていますが、規則案では指定されておらず、例外の中身は依然として未確定です。
原料別に控除額がどう変わるかは、米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組みで比較表とともに解説しています。
2026年2月の規則案で何が決まったのか
2026年2月3日に公表された規則案は、2025年に示された枠組みを大きく具体化するものです。
税額控除の適格性と計算方法の骨子として、誰が「生産者」にあたるのか、何をもって「生産」とみなすのかといった定義と手続きが整理されました。
RNGの「生産者」は精製事業者 圧縮業者は該当しない
RNGについては、生の埋立地ガスや消化ガスから水分・二酸化炭素・その他の不純物を除去し、パイプライン品質仕様を満たして化石天然ガスと互換にする事業者が「生産者」と定められました。
注目すべきは、その事業者がASTM D8080などの輸送規格を満たすため、後続の圧縮を行っていなくても、生産者として扱われる点です。
逆に、パイプラインからガスを取り出して圧縮し、販売する事業者は生産者に該当しません。圧縮は化学的変換を伴わないため、生産ではなく生産後の取扱い行為と位置づけられたためです。
実務上は、精製(アップグレーディング)を誰が行い、その燃料の売上に対してどのような持分を持つかによって、控除の帰属先が変わります。設備の所有そのものは控除の要件とされていません。
なお、連邦税法上パートナーシップに該当しない施設を複数者で共有する場合、控除は各所有者の総売上高に対する持分に比例して配分されます。
排出率はモデルのどのバージョンで判定されるのか
業界からは、適格施設の着工時点で有効だったモデルのバージョンで、排出率を固定してほしいという要望が出ていました。しかし規則案はこれを退け、生産時点で有効なバージョンによると定めています。
つまり長期のオフテイク契約においても、45ZCF-GREETの改訂によって、控除額が将来変動しうるということです。契約設計の際は、この変動リスクをどちらが負担するかを明確にしておく必要があります。
控除を取るための実務 CIスコアとPER・LCA
Section 45Zの控除額は、$0.20/ガロン(PWA要件を満たす場合は$1.00/ガロン、RNGなどの気体燃料はガソリンガロン等価=GGE換算)を基準額とし、燃料のCIスコア(emissions rate)に応じて変動します。
基準となるCI値は50 kg CO2e/mmBtuで、この値から自社の燃料の排出率を差し引き、50で割ったものが排出係数となります。
なおSAFに対する特別加算は、OBBBAにより2025年末以降の生産分から廃止され、控除は一本化されます。
算定式の詳細と原料別の控除額の差については「米国RNGの環境価値とは?」で解説していますので、ここからは実際に控除を申請する際の実務論点に絞ります。
精製プロセス(Upgrading)の効率とCIスコア
RNGのUpgrading(CO₂除去・乾燥・圧縮等)の設計と運転は、CIスコアを左右する実務上の要です。
45ZCF-GREETは、事業者が入力する運転データ(foreground data)と、事業者が変更できない固定前提(background data)で構成されています。
バイオガスをRNGへと高純度化する過程でのエネルギー消費量やメタンスリップ(漏洩)の抑制は、この入力を通じてCIスコアに反映されます。
PERは自由に選べる手続ではない
排出率の決定には、排出率表(emissions rate table)に基づく方法と、PER(Provisional Emissions Rate)を申請する方法があります。
このうちPERを使えるのは、排出率表に確立されていない新規の燃料種を生産する場合か、燃料種は表にあっても、表に未確立の経路や主要原料で生産する場合に限られます。
モデルの前提となる固定データに納得できない、という理由でPERに切り替えることはできません。
LCAデータによる排出量追跡と申告手続
45Zの恩恵を受けるためには、生産から供給までのライフサイクル全体で厳密なLCA(ライフサイクルアセスメント)データが求められます。
規則案は、控除の適格性と金額の双方を裏づける記録の保持を求めています。
燃料の種類、原料の調達元、適格施設に該当することの証明、排出率の決定根拠、生産・販売の情報、必要な第三者認証がその対象となります。
また、申告・登録の手続(section 4101 / Form 637 / Form 7218)によって、排出率と販売実績を一体で管理する必要があります。
米国市場への影響とバイオガス業界の反応
Section 45Zをめぐる一連の制度整備に対し、アメリカバイオガス評議会(American Biogas Council, ABC)は、バイオガス業界が直面する不確実性を解消する一歩として、歓迎の意を表明しています。
アメリカバイオガス評議会:American Biogas Council Applauds Biogas Provisions as President Trump Signs One Big Beautiful Bill Act
負の排出率(negative emissions rate)が原則廃止となった一方で、動物ふん尿由来に限って例外が認められた点も、バイオガス事業者や投資家から好意的に受け止められています。
45V(クリーン水素)との重複適用は不可 施設・年度単位の選択に
業界内からは「CIスコアの算定モデルの透明性」について、明確なガイダンスを求める声が上がっています。
また、45V(クリーン水素生産税額控除)との関係は規則案で整理されました。45V・45Q・48(a)(15)のいずれかを適用した課税年度は、その施設は45Zの適格施設に該当しません。
両方を同時に取ることはできず、施設単位・年度単位でどちらを選ぶかという判断になります。
ただし判定は課税年度ごとに行われるため、年度によって45Zと45Vを使い分ける余地は残されています。一方、48(a)(15)の選択だけは撤回不能で、一度選ぶとその施設は以後永久に45Zを使えません。
今後の展望 バイオメタン(RNG)の価値向上へ
Section 45Zの導入により、今後のバイオガス・バイオメタン事業者には、単なる「廃棄物処理」や「エネルギー生産」の枠を超えた、炭素管理(Carbon Management)の専門性が求められるようになります。
発酵槽内のプロセス監視やメタン濃度のリアルタイム計測、電力消費のグリーン化(オンサイト太陽光利用など)といったCIスコアを最小化するための投資は、そのまま税額控除額を押し上げます。
制度面でも、従来のRFS(再生可能燃料基準)に基づくRIN(再生可能識別番号)クレジットに45Z税額控除を組み合わせることで、RNGの価値は化石燃料由来の天然ガスを大きく上回ると予想されます。
RIN・LCFS・45Zの3制度の積み上がり方は「米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組み」で整理しています。
さらに、米国内SAF産業の育成を目的とした「SAF Grand Challenge」により、バイオメタンはSAF製造に必要な低炭素エネルギーや炭素源としての用途が見込まれます。
ただし、OBBBAによるSAF特別レートの廃止と、連邦の混合義務の不在から、目標達成を疑問視する見方も出ています。
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