米国財務省と米国内国歳入庁(Internal Revenue Service, IRS)が、Section 45Z(米国クリーン燃料生産税額控除)の提案規則(規則案)を公表しました。
Section 45Zは、燃料別の優遇を統合し、CI(炭素強度)に応じて控除額が変動する技術中立的な枠組みへ移行する制度です。
米国ではトランプ政権発足以降、バイデン政権によるクリーンエネルギーや脱炭素を軸とする政策を転換し、インフラ投資・雇用法(IIJA)の支出停止や、インフレ削減法(IRA)の大幅な見直しを進めてきました。
OBBBA(大型減税・予算調整法案)による税額控除の期限延長や、負のCIの扱いなど条件も見直され、原料・プロセス次第ではバイオガスやバイオメタン投資に追い風となる可能性があります。
Argus Media Latest Market News:US biofuel tax rule may help resellers, farmers: Update
米国クリーン燃料生産税額控除(Section 45Z)の背景と導入の狙い
米国の再生可能燃料に対する税制優遇は、これまでバイオディーゼル(40A)や、SAF(持続可能な航空燃料:40B)といった個別の燃料種ごとに規定されてきました。
しかし、2025年から導入されるSection 45Z(クリーン燃料生産税額控除)はこれらを統合し、「燃料の炭素強度(CI:Carbon Intensity)」に基づいて控除額を決定する「技術中立的」な枠組みへと移行します。
米国内国歳入庁(IRS):Treasury, IRS issue proposed regulations on the clean fuel production credit under the One, Big, Beautiful Bill
米財務書とIRSが公表した提案規則では、税額控除の適格性と計算方法の骨子が示されました。
これによって、バイオガス事業者や投資家は単なる再生可能エネルギーとしての価値だけでなく、その「低炭素性能」を直接的な経済価値として計上することが可能になります。
この転換の背景には、単なるクリーン燃料の生産量拡大ではなく、ライフサイクル全体での温室効果ガス(GHG)排出削減を促進する狙いがあります。
Section 45Zは2029年末までに生産・販売されるクリーン燃料が対象となり、バイオガスから精製されたRNGや、それを原料とするSAF生産者にとって強力なインセンティブとなります。
One, Big, Beautiful Bill Act(OBBBA)の変更点
同時に「One, Big, Beautiful Bill Act(OBBBA)」による変更点も発表されています。
- クレジット適用期限を2029年末まで延長
- 2025年末以降に生産される燃料は、米国・メキシコ・カナダ由来の原料に限定
- 特定の外国関係者に関する制限
- 関連者経由の販売帰属の拡大
- 2025年末以降に生産されたSAF(持続可能な航空燃料)に対する特別レートの廃止
- クレジットの二重計上防止
- 2025年末以降は「負の排出率」を原則禁止(動物ふん尿由来は除く)
45Z税額控除の適用要件とCIスコアの重要性
Section 45Zの最大の特徴は、税額控除額が$0.20/ガロン(PWA要件を満たす場合は$1.00/ガロン)をベースとし、そこから燃料のCIスコア(emissions rate)に応じて変動する点にあります。
SAFに対する特別加算は、OBBBAにより2025年末以降の生産分から廃止され一本化されます。
ここで重要となるのが、基準となるCI値(50 kg CO2e/mmBtu等)に対する削減率で、バイオガス・バイオメタンの観点から見ると、以下の点が技術的な鍵となります。
原料(フィードストック)の差異とemissions rateの適格性
45Zでは、原料区分が emissions rate(排出率:kg CO2e/mmBtu)の前提条件を決め、案件の収益性を大きく左右します。
特に畜産糞尿由来のバイオガスは、メタンの直接大気放出を回避する効果が認められています。
そのため、GREETモデル(温室効果ガス・規制排出物・エネルギー利用に関するモデル)において、ネガティブ(負)のCIスコアを獲得できる可能性があります。
精製プロセス(Upgrading)の効率とPERデータ
RNGのUpgrading(CO₂除去・乾燥・圧縮等)の設計と運転は、PER(Provisional Emissions Rate)を選んだ場合に、厳密なデータ要件となります。
バイオガスをRNGへと高純度化する過程でのエネルギー消費や、メタンスリップ(漏洩)の抑制が、最終的なCIスコアを左右します。
LCAデータによる排出量追跡の透明性
45Zの恩恵を受けるためには、生産から供給までのライフサイクル全体で厳密なLCA(ライフサイクルアセスメント)データが求められます。
また、申告・登録の手続(section 4101 / Form 637 / Form 7218)によって、排出率と販売実績を一体管理する必要があります。
米国市場への影響とバイオガス業界の反応
Section 45Zの指針案に対し、アメリカバイオガス評議会(American Biogas Council, ABC)は、バイオガス業界が直面する不確実性を解消する一歩として歓迎の意を表明しています。
アメリカバイオガス評議会:American Biogas Council Applauds Biogas Provisions as President Trump Signs One Big Beautiful Bill Act
また、負の排出率(negative emissions rate)は原則廃止となりましたが、動物ふん尿由来に限って例外となった点は、バイオガス事業者や投資家から好意的に受け止められています。
一方で、業界内からは「CIスコアの算定モデルの透明性」や「既存の45V(クリーン水素生産税額控除)との重複適用の可否」について、より明確なガイダンスを求める声も上がっています。
特に、バイオガス由来の水素(バイオ水素)を製造する場合、どの条項を適用するのが最も経済的合理性が高いかという戦略的判断が求められています。
投資動向としては、大手エネルギー企業によるバイオガス関連分野の買収や、嫌気性消化槽(AD)施設・RNG案件の継続的な開発が進んでおり、税制の明確化がバイオガス分野への投資を促しています。
今後の展望 バイオメタン(RNG)の価値向上へ
Section 45Zの導入により、今後のバイオガス・バイオメタン事業者は、単なる「廃棄物処理」や「エネルギー生産」の枠を超えた、炭素管理(Carbon Management)の専門性が求められるようになります。
また、従来のRFS(再生可能燃料基準)に基づくRIN(再生可能識別番号)クレジットに加え、45Z税額控除を組み合わせることで、RNGの価値は化石燃料由来の天然ガスを大きく上回ると予想されます。
発酵槽内のプロセス監視やメタン濃度のリアルタイム計測、電力消費のグリーン化(オンサイト太陽光利用など)など、CIスコアを最小化するための投資も税額控除額を押し上げます。
さらに、米国内SAF産業の育成を目的とした「SAF Grand Challenge」は、短期(2030年まで)と長期(2050年まで)の生産目標を掲げており、バイオメタンはSAF製造に必要な低炭素エネルギーや炭素源として需要拡大が見込まれます。
JOGMEC 米国エネルギー政策の解説:米国新政権とエネルギートランジションの行方






