米国Syzygy社が、ブラジルでサトウキビ由来のバイオガスから航空燃料(SAF)を製造すると発表しました。
米Syzygy Plasmonics社は2026年3月に、ブラジル最大級のバイオガス開発企業Geo bio gas&carbon社とMOU(基本合意書)を締結し、サトウキビ残渣由来のバイオガスを持続可能な航空燃料(SAF)へ変換する商用規模プロジェクトの開発に着手します。
計画では初期段階で年産最大10万トン、将来的には52.5万トン超の規模を予定しており、Syzygy独自の光触媒リフォーミング技術「e-Reforming™」がバイオガスの新たな出口戦略となる可能性を示しています。
米Syzygy社とGeo Bio gas&carbon社 提携の背景
Syzygy Plasmonics社は、テキサス州ヒューストンに本社を置く光駆動型化学反応器の開発企業で、Rice大学で約30年にわたり研究されたプラズモニクス(ナノフォトニクス)技術を基盤としています。
米Syzygy社ウェブサイト:Syzygy Plasmonics
従来の化学反応器が化石燃料の燃焼熱で触媒を活性化するのに対し、同社のRigel™リアクターはLED光で触媒を駆動する点が根本的に異なります。
これによって、運転温度を約300℃前後(従来比−500℃以上)に抑えつつ、従来触媒比で15〜30倍の活性を実現しています。
Syzygy Plasmonics:Products
一方、Geo bio gas&carbon社は、ブラジルのサトウキビ・エタノール産業から排出されたアグロインダストリアル残渣をバイオガス化する国内主要企業です。
バイオガス、バイオメタン、再生可能電力の製造に加え、SAFやメタノール向けのバイオジェニックカーボン供給にも実績を持っています。
Geo bio gas & carbonウェブサイト:Geo bio gas & carbon
両社のMOUは、従来の単一プラント契約ではなく「ポートフォリオ型」の開発アプローチを採用しています。
Geo社の既設・計画中のバイオガス施設群からSAFプラントの適地を複数選定し、段階的に商用化を進めるという戦略です。
光触媒e-Reformingとは? 熱改質との違いとSAF製造への応用
Syzygy社のGHG e-Reforming™技術は、バイオガス(メタン+CO₂)を合成ガス(水素 + 一酸化炭素)に変換するプロセスです。
得られた合成ガスをフィッシャー・トロプシュ(FT)合成装置と組み合わせることで、ジェット燃料互換のSAFを製造します。
| 比較項目 | 従来の熱改質(SMR等) | Syzygy e-Reforming™ |
|---|---|---|
| エネルギー源 | 化石燃料の燃焼熱 | 再生可能電力由来のLED光 |
| 反応温度 | 800℃超 | 約300℃前後(従来比−500℃以上) |
| 触媒方式 | 熱活性触媒 | アンテナリアクター型プラズモニック光触媒 |
| 起動時間 | 24時間以上 | ほぼ瞬時 |
| CO₂フットプリント(SAF) | 高い | −2.50 g CO₂e/MJ(風力併用時、Boundless Impact社LCA報告) |
同社のライフサイクル分析によると、バイオガスと風力発電を組み合わせたSAFのGHGフットプリントは、−2.50 g CO₂e/MJとなっています。
これは、Power-to-Liquid(PtL)やエタノール由来ATJなど、他のSAFパスウェイと比較して最も低い値(自社分析による)を記録しています。
さらに、従来のバイオガスアップグレードや導管接続が不要であるため、設備投資(CAPEX)の抑制にも寄与します。
ブラジルのサトウキビ残渣バイオガス なぜSAF原料として有望なのか
ブラジルは世界最大のサトウキビ生産国であり、エタノール産業から大量のバガス、フィルターケーキ、ビナスなどの有機性残渣が発生します。
これらはメタン発酵の原料として高いポテンシャルを持ちながらも、その多くが十分に活用されていない「ストランデッド・バイオガス」として存在しています。
Syzygy社CEOのTrevor Best氏は、こうした未利用バイオガスをSAFの大規模供給源に転換できることが本プロジェクトの核心であると述べています。
ブラジル政府がSAFの利用等を通じたGHG排出削減義務を制度化する動きも、この市場を後押ししています。
2035年・年産100万トンへ グローバルSAFパイプラインの全体像
今回のブラジル案件は、Syzygy社の「NovaSAF™」プラットフォームのグローバル展開の一環です。同社は以下の提携を含め、2035年までに年産100万トンのSAF供給体制の構築を目指しています。
- 米国:NorthStar Renewable Fuels社とのMOUにより年産最大7.5万トン。北米全域へのライセンス展開を視野に入れた非独占的スキームを採用。
- ドミニカ共和国・欧州・中南米:スペインのIslonias社(Biothek)との協業で年産3万トンからスタートし、スペイン、イタリア、フランス、コロンビア、チリへの拡大を計画。最終的に年産30万トン規模を目指す。
- メキシコ:非公開のSAFメーカーと埋立地ガス由来のプロジェクトを検討中。
バイオガスからSAFへの変換ルートは、従来のバイオガス発電やバイオメタン導管注入に続く「第三の出口戦略」として、今後のバイオガス産業の収益構造に大きな影響を与える可能性があります。
特に、大量の農業残渣を抱える地域では、光触媒リフォーミングの低温・電化プロセスが、技術的・経済的な参入障壁を引き下げるかもしれません。
航空業界のSAF需要が各国の混合義務やCORSIA制度により加速する中、バイオガスの価値は「電力」や「ガス」だけでなく「液体燃料」へと拡張しつつあります。






