三菱ガス化学は2024年3月から、下水処理場の消化ガスを原料にしたバイオメタノール製造を開始しました。
同社新潟工場(新潟市北区)内に、国内初となる消化ガス由来バイオメタノールの製造設備を設置し、花角英世新潟県知事らを招いたお披露目会が2024年6月20日に開かれました。
三菱ガス化学:国内初、消化ガスからのバイオメタノール製造を開始
原料は新潟県の新井郷川浄化センターで発生する未利用消化ガス(バイオガス)を活用します。
三菱ガス化学は、CO₂や廃棄物、バイオマスなどを、メタノールという形で再利用する環境循環型プラットフォーム「カーボパス™(Carbopath)」を掲げており、今回はその実証事例として注目されます。
下水消化ガスからバイオメタノール製造
下水処理場では、汚泥を嫌気性消化(メタン発酵)させる過程で、メタンと二酸化炭素を主成分とする消化ガスが発生します。
従来、この消化ガスの多くは施設内のボイラー燃料や発電に使われてきましたが、利用率は約87〜90%にとどまり、残りは焼却されていました。
今回の事業は、この未利用消化ガスをバイオメタノールに変える点に特徴があります。
メタノールは、接着剤・合成樹脂・医薬原料から燃料まで、幅広い用途を持つ基礎化学品です。しかし、日本は使用量のほぼ全量を輸入に依存しており、世界の生産量の約6割が天然ガス由来とされています。
化石資源に依存しないメタノール原料として、地域に眠る未利用バイオマス(下水消化ガス)に着目した点が、今回の取り組みの背景にあります。
国土交通省は、下水汚泥を輸入に頼らない資源と位置づけ、エネルギー・バイオマス利用率の向上を進めており、下水道バイオマスの有効活用は国の重要施策となっています。
脱炭素化によるメタノールの世界的な需要拡大
メタノールは化学原料の他に、船舶燃料や化学素材の脱炭素化で、世界的な需要拡大が見込まれています。
メタノールの国際的な業界団体 Methanol Institute によると、2026年3月時点で、世界の再生可能メタノール案件は263件、2031年までの公表計画容量は合計4,850万トンに達しています。
Methanol Institute:Renewable Methanol
既存設備によるメタノール生産とISCC PLUS認証の意味
実証試験としてのバイオメタノール生産は、すでに2024年3月から開始されています。
原料となる下水消化ガスは、新潟県が管理する新井郷川浄化センターに出荷設備を、約3km離れた三菱ガス化学新潟工場に受入設備を設置し、コンテナで輸送しています。
実証実験にあたって、新設の大型合成プラントを建てるのではなく、同社が長年運用してきた既存のメタノール製造設備を活用する点が特徴で、設備投資を抑えつつ商用化にも移行できる現実的な方式といえます。
ISCC PLUS認証を取得
特に注目すべきは、製品のバイオメタノールと誘導品DME(ジメチルエーテル)に加え、原料となる消化ガスについても新潟県がISCC PLUS認証を取得した点です。
三菱ガス化学:バイオメタノールおよびDMEでISCC PLUS認証を取得
ISCC PLUSは、原料の持続可能性をグローバルなサプライチェーン上で管理・担保する国際認証で、マスバランス方式によって「認証バイオメタノール」として供給できます。
これにより、製品のカーボンフットプリント低減を求める顧客に対し、由来を証明できるグリーン化学品として販売することが可能となりました。
新潟県との連携と環境循環型構想「カーボパス(Carbopath)」
今回の事業は、2023年6月に新潟県と三菱ガス化学が締結した「消化ガス売買に関する基本協定」が起点となっています。
三菱ガス化学:新潟県と消化ガス売買に関する基本協定を締結
この協定をもとに、新潟県は下水由来の未利用消化ガスを売却し、三菱ガス化学がバイオメタノール製造を行います。
三菱ガス化学は、CO₂やバイオマス・廃棄物をメタノールに転換して循環させる環境循環型プラットフォーム「カーボパス™(Carbopath)」を掲げています。
三菱ガス化学:環境循環型メタノール「カーボパス™」
下水消化ガスの活用はその社会実装事例の一つで、地域のバイオマスを地域内で価値化する官民連携モデルに位置づけられます。
三菱ガス化学はメタノール総合メーカーとして、国内輸入量の約4割を扱う強みを持ち、川下の誘導品まで一貫してグリーン化できる点が、他社との差別化要因となります。
今後の展開 バイオガスの収益源拡大へ
三菱ガス化学は、他地域の下水処理施設などから消化ガスを集約し、バイオメタノール生産量の拡大と販路開拓を進める方針です。
この仕組みを活用すれば、バイオガス発電だけでは採算性が限られる地域でも、化学品原料や燃料、水素キャリアーなどに展開が可能となり、バイオガス事業の収益源が広がります。
| 項目 | 従来の消化ガス利用 | 今回のバイオメタノール利用 |
|---|---|---|
| 主な用途 | 発電、熱利用、場内利用 | 化学品原料、燃料、DME原料 |
| 価値の出し方 | 電力・熱の代替 | 低炭素原料としての環境価値 |
| 事業上の特徴 | 処理場内利用が中心 | 化学工場との連携が可能 |
| 課題 | 余剰ガスの活用先 | 安定供給、認証、物流設計 |
今回の事例は、下水処理場の未利用消化ガスを高付加価値原料に転換できる点が注目されており、他地域に分散する小規模なバイオガス資源を、収益源に変える手段として期待されます。






