INPEXと大阪ガスは2026年2月24日に、新潟県長岡市のINPEX JAPAN長岡鉱場・越路原プラントにおいて、世界最大級となるCO₂メタネーション試験設備の実証運転を開始したと発表しました。
処理能力は400Nm³-CO₂/hで、年間製造能力は一般家庭約1万戸分のガス消費量に相当します。
2月20日には製造した合成メタン(e-メタン)をINPEX JAPANの天然ガスパイプラインに注入しており、国内メタネーション技術の社会実装に向けた大きな一歩となります。
INPEX ニュースリリース:世界最大級のメタネーション試験設備における実証運転の開始について
都市ガスの脱炭素化を目指すメタネーション実証事業の背景
メタネーションとは、水素(H₂)と二酸化炭素(CO₂)を触媒反応(サバティエ反応)によりメタン(CH₄)に合成する技術です。
製造された合成メタンは天然ガスと同等の性質を持ち、既存の都市ガスインフラをそのまま活用できるという大きな利点があります。
日本政府は第6次エネルギー基本計画において、2030年に既存インフラへ合成メタンを1%注入し、その他の手段と合わせてガスの5%をカーボンニュートラル化する目標を掲げています。
さらに2050年には都市ガスの90%を合成メタンに置き換える構想があり、実現すれば年間約8,000万トンのCO₂削減効果が見込まれます。これは日本の年間CO₂排出量の約1割に相当する規模です。
こうした政策的後押しを受け、INPEXと大阪ガスは2021年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業として本プロジェクトを開始しました。
事業名は「大規模なCO₂-メタネーションシステムを用いた導管注入の実用化技術開発」で、総事業費は約100億円(うち助成金約70億円)、事業期間は2026年度末までとなっています。
NEDO脱炭素技術分野成果報告会2025:大規模なCO₂-メタネーションシステムを用いた導管注入の実用化技術開発
世界最大級メタネーション試験設備の技術的特徴と事業体制
本試験設備は、原料供給設備、メタネーション反応器、ユーティリティー設備等で構成されています。
原料となるCO₂は、INPEX JAPANの南長岡ガス田で天然ガスと分離・回収したものを使用しています。試運転では技術開発目標であるメタン濃度96%の合成メタン製造を達成しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設備規模 | 400 Nm³-CO₂/h(世界最大級) |
| 年間製造能力 | 一般家庭約1万戸分のガス消費量相当 |
| 設置場所 | INPEX JAPAN長岡鉱場 越路原プラント(新潟県長岡市) |
| CO₂原料 | 南長岡ガス田で天然ガスから分離・回収 |
| 目標メタン濃度 | 96%(試運転で達成) |
| 事業期間 | 2021年度下期~2026年度末 |
| 事業体制 | INPEX(NEDOから助成):商用スケール適用性検討 大阪ガス(INPEXから委託):反応プロセス技術開発 名古屋大学(INPEXから委託):シミュレーション技術開発 INPEX JAPAN(INPEXから委託): 試験設備の建設ならびに実証運転・評価 |
事業体制としては、INPEXが全体のとりまとめと商用スケール適用性検討を担い、大阪ガスが反応プロセス技術開発を担当しています。
また、名古屋大学がシミュレーション技術開発を、INPEX JAPANが試験設備の建設・実証運転・評価を担っています。
建設工事のEPC契約は千代田化工建設が受注し、メタネーション反応器パッケージの工事はDaigasガスアンドパワーソリューションが実施しました。
大阪ガスは省エネルギーで合成メタンを製造する触媒技術やスケールアップに関する設計ノウハウを蓄積しており、今回の実証運転を通じてさらなるプロセス最適化を進める方針です。
合成メタンのパイプライン注入とクリーンガス証書制度
本事業の大きな成果の一つが、製造した合成メタンを実際のパイプラインに注入した点です。
2月20日に越路原プラントを経由してINPEX JAPANの天然ガスパイプラインへの注入が実施されました。これにより工場などの需要家への供給が可能となり、合成メタンの実用性が実証されたことになります。
さらに、本試験設備は2026年1月27日付で、日本ガス協会が関与する「クリーンガス証書制度」におけるクリーンガス製造設備認定を取得しています。
この制度は、燃焼しても大気中のCO₂を増加させないとみなせる環境価値を持つクリーンガス(合成メタンやバイオガス)に対して証書を発行し、環境価値をエネルギー価値から分離して移転可能とする仕組みです。
本設備で製造される合成メタンの環境価値は「クリーンガス相当量認証」を経て証書として提供できるため、需要家の脱炭素ニーズに対応した新たなビジネスモデルが期待されます。
2030年の合成メタン1%注入目標に向けた今後の展望
INPEXは2025年2月に発表した「INPEX Vision 2035」において、CCS/水素をコアとした低炭素ソリューションの提供を成長軸の一つに位置づけています。
INPEX:INPEX Vision 2035
一方、Daigasグループも「エネルギートランジション2050」のもと、脱炭素社会に貢献する技術・サービスの開発に取り組んでいます。
大阪ガス:Daigasグループ エネルギートランジション2050の策定について
国内メタネーション技術の課題として、製造コストの高さとエネルギー効率の向上が挙げられます。
合成メタンの製造コストの大部分は水素製造に起因しており、再生可能エネルギー由来のグリーン水素の価格低減が、経済性改善の鍵を握ります。
INPEXは本事業で得られる操業データを基に商用スケールへのスケールアップ可能性を検証し、2035年頃に製造事業規模60,000Nm³/hの実現を目指す計画です。
また、大阪ガスは海外でのe-メタン製造・調達プロジェクトを推進しており、国内外の複数のサプライチェーンを構築することで、2030年目標の達成を図る戦略が取られています。
バイオガステック参考記事:大阪ガスが米国産バイオメタンを調達
バイオガステック参考記事:大阪ガス・東邦ガス・伊藤忠が米国eメタン事業に参入
本実証事業は、国内メタネーション技術の商業化に向けた重要な取り組みであり、今後は実証データの蓄積によって、合成メタンの大量生産技術と経済性を確立させる方針です。
バイオガステック参考記事:INPEX長岡の世界最大級CO₂メタネーション実証試験






