EU各国の政策立案者や規制当局・ガスグリッド事業者・バイオメタン業界関係者ら60名の専門家が、バイオメタンの導管注入を加速させるための緊急提言を発表しました。
欧州バイオガス協会(EBA)が主催する「Grid Ready Forum 2026」は、バイオメタンのグリッド注入を目的とする非公開のハイレベル会合で、2026年4月8日にブリュッセルで開催されました。
EUガスパッケージの国内法化期限(2026年8月5日)が迫る中、複数の加盟国で対応の遅れが指摘されており、再生可能ガスの拡大に向けた規制改革の緊急性が改めて浮き彫りになっています。
Grid Ready Forum 2026開催の背景とEU Gas Packageの現状
Grid Ready Forumは、バイオメタンのガスグリッドへの注入促進と、再生可能ガスの普及加速を目的としており、今回が第2回の開催となります。
EUは「ガスパッケージ(Hydrogen and Decarbonised Gas Package)」を通じて、すべての再生可能ガス生産者に対する既存ガスグリッドへの「注入権(right to injection)」の確立をEU加盟国に求めています。
European Commission:Hydrogen and decarbonised gas market
その国内法への転換期限は2026年8月5日に設定されていますが、複数のEU加盟国がバイオメタン関連条項の整備で遅延する見通しです。欧州委員会は今年後半に各国の進捗評価を公表する予定です。
バイオメタンは国内で生産可能であり、既存の天然ガスインフラとの互換性を持つため、世界の地政学的リスクが高まる中で、最もコスト効率の良い再生可能ガス供給手段として位置付けられています。
欧州ではすでに1,600以上のバイオメタンプラントが稼働しており、今後も伸びると見込まれます。
参考記事:ヨーロッパのバイオメタン市場を知る 欧州バイオメタンマップ
バイオメタン導管注入の課題 規制の分断と技術的障壁
フォーラムでは、欧州各国における規制の分断と技術的障壁が、バイオメタン注入の大きなボトルネックになっていることが指摘されました。
酸素濃度基準の不統一がもたらす影響
特に深刻な問題として挙げられたのが、ガス品質基準、とりわけ酸素濃度上限値の不統一です。
各国が異なる国内基準を採用しているため、バイオメタンの注入コストが不必要に上昇したり、技術的に注入が不可能となるケースが生じています。
さらに、国境を越えたガスの流通にも支障をきたしており、各国間での調整が急務です。
バーチャルパイプラインと逆流技術の可能性
この問題に対する革新的な解決策として、ガスグリッドへの接続が困難な地域でバイオメタンをトラック輸送し、集中型の注入拠点からグリッドに供給する「バーチャルパイプライン」が注目されています。
専門家は、グリッド事業者が注入拠点のコストの大部分を負担できるように、政策的な措置を求めています。
また、ガスグリッドの「マスタープラン」を策定し、デジタルマッピングツールを活用してネットワークを最適化すること、必要に応じて逆流(リバースフロー)を導入することも提言されました。
ガス網投資の経済合理性 電力網との比較
欧州エネルギー規制庁(ACER)のデータによれば、欧州のガスネットワークは送気パイプラインで約200,000km、配給管約2,000,000kmに及ぶ広大なインフラを有しています。
欧州ガスインフラ事業者団体(GIE)の調査では、1,000TWhのバイオメタンをガスグリッドに統合するために必要な投資額は年間約25億ユーロと試算されています。
Common Futures / GIE:Using gas infrastructure for biomethane
この試算は、2040年までに電力網に必要とされる年間約1,000億ユーロの投資額と比較して、わずか約40分の1程度に収まっています。
これは既存のガスインフラを活用するバイオメタン導管注入が、脱炭素化において極めてコスト効率の高い選択肢であることを示すデータです。
優先注入権の確立とEU全域での調和
フォーラムの結論として、導管注入のボトルネック解消に向けた一連の提言がまとめられました。
EBAのハーメン・デッカーCEOは、欧州にはバイオメタンを急速に拡大するインフラ・技術・専門知識がすでに揃っており、政府と規制当局による障壁の除去と規則の調和が今こそ必要だと強調しています。
2026年3月には、欧州の主要11業界団体がバイオメタンをEUの再工業化・エネルギー安全保障・気候中立の中心的要素にすべきとする共同宣言にも署名しており、業界全体の機運は確実に高まっています。
参考記事:欧州バイオメタン共同宣言 EU産業団体が政策加速を要請
8月の法制化期限に向け、各加盟国の対応が今後の欧州バイオメタン市場の成長速度を左右する重要な局面を迎えています。






