e-メタンやメタネーションの実用化に向け、日本ではエンジニアリング企業や重工メーカーをはじめ、ガス事業者、大手総合商社などの多様な企業が、技術開発と実証実験を推進しています。
IHIは標準化設計による小型メタネーション装置の商用販売を開始し、大阪ガスとINPEXは世界最大級の実証設備を稼働、東京ガスは革新的メタネーション技術開発を推進しています。
また、海外プロジェクトや国際供給網の構築には、伊藤忠商事や三菱商事などの大手商社も貢献しています。
この記事では、e-メタン・メタネーションに取り組む主要企業のプロジェクト概要や技術などを解説します。
e-メタン・メタネーション企業の全体像と役割分担
e-メタンやメタネーションのバリューチェーンは、おおまかに分けて装置・触媒メーカー、ガス事業者(需要サイド)、資源開発企業(CO₂・水素供給サイド)の3層で構成されています。
日本国内でメタネーション実用化を牽引する企業は、それぞれ異なるポジションからe-メタンの社会実装を進めています。
メタネーション装置・触媒の開発と製造を担うIHIやカナデビア(旧:日立造船)は、サバティエ方式を軸にメタネーション装置のスケールアップと標準化を推進しています。
一方、大阪ガス、東京ガス、東邦ガスといった都市ガス事業者は、e-メタンの最大の需要家として、製造・調達・導管注入の一連のサプライチェーン構築に取り組んでいます。
INPEXはCO₂供給源や海外でのe-メタン製造拠点の開発で重要な役割を果たしており、伊藤忠商事や三菱商事などの大手総合商社も、海外プロジェクトや国際供給網の構築に参画しています。
経済産業省:メタネーション取組マップ2023
e-メタン・メタネーション 各企業の取り組み
日本でも各企業がe-メタンやメタネーションの実用化に取り組んでおり、独自の技術開発を進めています。
| 企業グループ | 代表的な企業 | 主なプロジェクト・取り組み | 特徴・戦略 |
|---|---|---|---|
| 都市ガス会社 | 東京ガス | ハイブリッドサバティエ・PEMCO2還元技術・下水CO₂活用実証 | 都市インフラ内での資源循環モデル |
| 大阪ガス | SOECなど高効率メタネーション技術開発 | 世界最高効率の追求と海外での製造視野 | |
| 資源開発会社 | INPEX | 新潟県長岡市での大規模e-メタン製造実証 | 国内最大規模、既存ガスインフラの活用 |
| エンジニアリング・ 重工業会社 | IHI | メタネーション装置メーカーとして先行 | 独自の高性能触媒とシェル&チューブ型反応器 |
| カナデビア | メタネーション技術の実用化 | 微生物活用や高性能メタン化触媒を開発 | |
| 三菱重工 | CO₂回収・脱炭素燃料関連開発 | CO₂回収と実証設備・システム統合 | |
| 総合商社 | 伊藤忠商事 三菱商事等 | e-メタン関連計画・海外供給網構築 | 事業開発、輸送・供給網の構築支援 |
IHI:メタネーション装置メーカーで先行

IHIはメタネーション装置メーカーとして先行する企業の一つで、独自の高性能触媒とシェル&チューブ型反応器が特徴です。
2022年10月にサバティエ方式の小型メタネーション標準機(e-メタン製造量:12.5 Nm³/h)の販売を開始しました。設計標準化によって導入コストの低減と短納期を実現しています。
納入実績も着実に積み上げており、東邦ガス知多LNG共同基地への商用機第1号の納入に続き、日本ガイシの工場内カーボンリサイクル実証向け標準機も受注しています。
さらに、JFEスチール東日本製鉄所千葉地区向けには、500 Nm³/hという世界最大級の中型メタネーション設備の納入を2025年度中に予定しており、CO₂回収装置との一体受注となっています。
参考記事:IHIの小型メタネーション装置 合成メタンの製造実証へ
IHIの商用化ロードマップでは、2030年までに数千〜数万Nm³/hクラスの大型メタネーション装置を国内外で商用化する方針を掲げています。
また、運転・保守支援の「MEDICUS NAVI」や、CO₂排出・削減量を算定しブロックチェーン上で環境価値として記録・管理するILIPS環境価値管理プラットフォームも展開しています。
東京ガス:革新的メタネーション技術を開発
東京ガスは、東京都との連携による下水汚泥由来のe‑メタン製造実証や、ハイブリッドサバティエ・PEMCO2還元などの革新的メタネーション技術開発にも積極的に取り組んでいます。
参考記事:東京ガス関連記事
ハイブリッドサバティエ・PEMCO2還元
東京ガスは既存のサバティエ反応の他に、ハイブリッドサバティエ、PEMCO₂還元、バイオリアクターなど、複数の革新的メタネーション技術開発も進めています。
これらの技術は、GI(グリーンイノベーション)基金を活用した研究開発として推進されており、2030年の基盤技術確立を目指しています。
参考記事:東京ガスの革新的メタネーション技術 ハイブリッドサバティエ・PEMCO2還元
下水処理場のe-メタン製造実証
東京ガスは東京都の森ケ崎水再生センター(東京都大田区)で、下水汚泥由来CO₂とグリーン水素によるメタネーション実証プロジェクトを共同で進めています。
下水汚泥の処理過程で発生するバイオガスから分離したCO₂を原料とし、再エネ由来のグリーン水素と組み合わせることで、都市インフラ内で資源を循環させる「都市型資源循環モデル」の確立を目指しています。
参考記事:下水汚泥由来のCO₂とグリーン水素でe‑メタン製造実証 東京ガスと東京都
清掃工場排ガスのCO₂をメタネーション
東京ガスは、横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で、横浜市の清掃工場排ガスからCO₂を分離・回収してメタネーションに利用する実証を進めています。
国内最大級となる12.5 Nm³/h規模の設備が稼働しており、このCCU共同実証は官民連携プロジェクトとして、横浜市や三菱重工グループが参加しています。
大阪ガス:幅広い分野でメタネーションに取り組む
大阪ガスは、SOECメタネーション技術の開発をはじめ、メタネーション施設の実証実験、海外からのe-メタン調達など、幅広い分野でメタネーションの社会実装に取り組んでいます。
参考記事:大阪ガス(Daigasグループ)関連記事
SOECメタネーション技術の開発
大阪ガスは自社のベンチスケール試験施設で、SOEC(固体酸化物形電解セル)を用いた、高いエネルギー変換効率を誇るSOECメタネーション技術の開発を進めています。
海外からe-メタン調達
将来は再エネが豊富な海外でe-メタンを製造し、既存のLNGインフラで日本へ輸送することも視野に入れており、海外の再エネ利用も見据えた戦略を展開しています。
2025年12月に米国ネブラスカ州でのe-メタン製造事業(Live Oakプロジェクト)の基本設計(FEED)に向けた共同開発契約を締結しています。
参考記事:大阪ガス・東邦ガス・伊藤忠が米国eメタン事業に参入
大阪・関西万博でe-メタン実証実験
大阪ガスは大阪・関西万博の会場内で、食品廃棄物由来バイオガスを使ったメタネーションの実証実験を行い、ガスパビリオン内の展示エリアでメタネーション技術を紹介しています。
INPEX(国際石油開発帝石)
INPEXは都市ガスのカーボンニュートラル化に向けたCO2メタネーションシステムの実用化を目指しており、大規模な合成メタン(e-メタン)製造・供給の実証試験を主導しています。
また、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援のもと、INPEX長岡鉱場の越路原プラントで、世界最大級となるメタネーション実証設備を大阪ガスと共同で運営しています。
このプロジェクトでは、製造した合成メタンをINPEXの既存の都市ガスパイプラインに注入し、実際に供給するサプライチェーンの実証を行っています。
参考記事:INPEXと大阪ガスが世界最大級メタネーション実証運転を開始 パイプライン注入も実施
カナデビア (旧:日立造船)
カナデビア(旧 日立造船)は、水電解装置やメタネーション技術を成長分野と位置づけ、独自性の高い技術開発を行っています。
また、化学的メタネーションに加え、BiON® に代表される生物学的メタネーション技術も展開している点が特徴で、オーストラリア・中東など、海外でのメタネーション事業の検討も進んでいます。
高性能メタン化触媒を開発
カナデビアは独自開発の高性能メタン化触媒(HiMethz®)を基盤に、eメタン生成プラントと触媒を一体パッケージで提供する体制を構築しています。
反応効率や耐久性が高く、低コストの触媒開発は、e-メタンの価格を左右する最も重要な要素です。
メタネーション装置は小容量から大容量まで対応しており、小型の研究・試験用装置も販売しています。
オマーンe-メタン製造プロジェクト
2025年6月にオマーンで世界最大級となるe-メタン製造プロジェクトの初期検証と、パイロットプラント建設に関する予備的基本設計(Pre-FEED段階)の契約を結んだと発表しました。
設備能力は18,000N㎥/h(年産約110,000トン)で、実現すれば世界有数のeメタン製造拠点となります。
参考記事:カナデビアがオマーンで世界最大級のe-メタン製造プラントを建設
三菱重工・日揮・横河電機など
プラントエンジニアリングの知見を活かし、三菱重工はSOEC共電解やCO₂回収プロセス技術の開発、横河電機は微生物メタネーション、日揮はFEEDや事業開発を進めています。
三菱重工はSOEC共電解とFT合成を組み合わせたプロセスによって、液体合成燃料の製造に成功しています。このプロセスは都市ガス原料やSAF製造にも応用することができます。
参考記事:三菱重工がSOEC共電解とFT合成で合成燃料製造に成功
e-メタン・メタネーション実用化とバイオガスとの接点
各企業のe-メタン・メタネーション実用化は「装置の標準化・量産化」フェーズと「大規模実証によるサプライチェーン検証」フェーズが同時に進行しています。
2030年の都市ガス導管への合成メタン1%注入目標に向け、資源エネルギー庁はエネルギー供給構造高度化法への目標位置づけや、導入コストの託送料金原価への算入といった制度整備も進めています。
バイオガスプラント事業者にとって注目すべきは、メタン発酵で生成されるバイオガス中のCO₂をメタネーション原料として活用できる点で、各企業でバイオガスを用いたメタネーション実証が行われています。
今後、メタネーション技術がさらに成熟し、グリーン水素の調達コストが低下すれば、バイオガスプラント併設型のメタネーション設備が事業性を持つ可能性があります。
e-メタンの環境価値が制度的に整備されていく中で、バイオガス事業者にとってもメタネーション企業の技術動向を把握し、将来の事業拡張の選択肢として検討する意義は大きいといえるでしょう。





