2025年4月、鹿児島市と日本ガスは、市立小学校42校への「カーボンオフセット都市ガス(バイオガス)」の供給を開始しました。原料は市の南部清掃工場で家庭ごみから製造されたバイオメタンです。
クレジットの購入によるオフセットに頼らず、地域で実際に製造されたバイオメタンの環境価値だけで、再生可能エネルギー100%を実現した都市ガス供給は全国初となります。
日本ガス お知らせ:鹿児島市南部清掃工場由来のバイオガス(バイオメタン)による市立小学校へのカーボンオフセット都市ガス(バイオガス)の供給について
小学校42校の都市ガスがCO₂実質ゼロに
カーボンオフセット都市ガスの供給は、鹿児島市立小学校のうち都市ガスを使用する42校が対象となります。
空調・給湯・厨房などで消費される都市ガスの全量をバイオガス由来分で賄える計算となり、これらの学校の都市ガス消費に伴うCO₂排出量はみなしゼロとなる見込みです。
鹿児島市によると、温対法のSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)に基づく報告上の削減量は、年間約1,900t-CO₂です。
2024年度の報告(2023年度実績)から都市ガスの事業者別排出係数が導入され、需要家がガス事業者ごとの係数で排出量を算定できるようになったことが、この取り組みを制度面で支えています。
鹿児島市:バイオガス由来の都市ガス供給
日本ガスは環境教育の推進も掲げており、地域のごみが自分たちの学校のエネルギーとして戻ってくる循環は、児童にとって身近な教材にもなります。
都市ガス供給 何が全国初なのか
南部清掃工場をめぐっては、性格の異なる2つの「国内初」が重なっており、混同されやすいため整理します。
1つ目の「初」は、2022年1月に始まったガスの物理的な流れです。
ごみ焼却施設に併設したバイオガス施設で精製したガスを、都市ガス原料としてガス会社へ供給する事業は、当時国内に例がありませんでした。
下水汚泥由来のバイオガスであれば、2010年に神戸市東灘処理場が都市ガス導管への直接注入を日本で初めて実現しています。鹿児島が切り開いたのは、ごみ焼却施設に併設したバイオガス施設という別のルートでした。
2つ目の「初」は、2025年4月の今回で、こちらは環境価値の割り当て方になります。
カーボンクレジットの購入によるオフセットを用いず、地域で実際に製造されたバイオメタンの環境価値だけで再エネ100%を成立させた都市ガス供給が、全国初とされています。
ガスの物理的な供給ルートと、環境価値の帰属先。この2つを分けて見ると、鹿児島の事例が3年をかけて積み上げてきた構造が見えてきます。
バイオガスを生む南部清掃工場
ごみ焼却施設とバイオガス施設の二本立て
南部清掃工場は2022年1月に供用を開始しました。設計・建設・運営を川崎重工業グループが担うDBO方式(公設民営)で、運営期間は20年3ヶ月、運営主体は特別目的会社のグリーンパーク鹿児島です。施設は性格の異なる2系統で構成されています。
工場全体の落札額は税別324億円で、内訳は施設整備費195億円、20年3か月分の運営委託料129億円です。
ごみ焼却施設
| 処理能力 | 220t/日(110t/日×2炉) |
| 焼却炉形式 | 並行流ストーカ式焼却炉(バグフィルタ・排ガス再循環) |
| 発電設備 | 蒸気タービン 4,710kW(発電効率約23%) |
バイオガス施設
| 処理能力 | 60t/日(30t/日×2基) |
| 発酵方式 | 高温乾式メタン発酵(横型発酵槽・連続式) |
| 発酵槽 | 直径6.8m・全長40.3m×2基 |
| 発酵原料 | 可燃ごみから機械選別した生ごみ・湿った紙類+し尿処理施設からの脱水汚泥 |
分別回収ではなく、通常の可燃ごみから機械選別で発酵原料を取り出している点が特徴です。横型槽で押出し流れ式に連続処理する乾式方式のため、発酵に不向きな夾雑物が多少混入しても運転できます。
なぜ発電ではなく都市ガス原料なのか
清掃工場のバイオガスは、全国的にはメタンを燃やして発電に回すのが一般的です。ただし、ガスのまま使う場合と比べて、エネルギーのロスが大きくなります。
南部清掃工場が都市ガス原料という少数派の道を選べた最大の理由は立地にあります。日本ガス鹿児島工場までわずか約500mで、精製したメタンをパイプで直送できるためです。
供給量は年間約150万m³で、市内で消費される都市ガスの約1.5%に相当します。LNGを代替する効果は年間約3,000t-CO₂と試算されており、輸送に伴う排出も最小限に抑えられます。
このバイオガス由来の環境価値の一部が小学校42校に割り当てられ、前述の年間約1,900t-CO₂に相当します(算定の基準は異なります)。
隣接する下水処理場へ排水を放流することで、施設内の排水処理設備を簡略化できた点も、この工業団地立地ならではの合理化です。
精製設備には、東京ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズが共同開発したバイオガス精製システムが採用されました。
分離膜でCO₂を分離してメタン濃度98%以上まで高める方式で、南部清掃工場が国内初の商用運転となります。同システムは2025年度の日本ガス協会技術賞を受賞しました。
バイオガステック参考記事:東京ガスのバイオガス精製技術が日本ガス協会技術賞を受賞
環境価値の行き先と今後の展開
2024年4月に運用が始まったクリーンガス証書制度により、バイオガス由来の環境価値はエネルギー価値から分離して移転できるようになりました。
日本ガスはこの制度の第1号として2024年10月に証書を発行し、大阪ガスへ提供しています。
大阪・関西万博の会場に供給された約130万m³の都市ガスのうち、約4万m³分に南部清掃工場由来の環境価値が割り当てられました。クリーンガス証書の取引そのものが国内初の事例です。
バイオガステック参考記事:日本のバイオメタン導入拡大とクリーンガス証書
日本ガスは2050年に向け、都市ガス販売量の4分の1にあたる年間2,500万m³を、地産原料によるバイオメタンとバイオガス由来CO₂を使ったe-メタンで賄う目標を掲げています。
現在の南部清掃工場からの受入量は年間約150万m³なので、16倍以上への拡大が必要な計算です。その根拠として同社が示すのが、地元シンクタンクに委託した鹿児島県内のバイオガス発生ポテンシャル調査です。
家畜排せつ物や食品残渣を中心に、年間約1億3,500万m³という同社の都市ガス販売量を十分に上回る量が見込まれています。
南九州は焼酎かすという高濃度の有機性廃棄物も安定的に発生する地域であり、原料の裾野は広いといえます。
バイオガステック参考記事:焼酎かすとコーヒーかすでバイオガス発電 霧島酒造とスターバックス
一方で課題も残ります。同社は自治体の部門ごとに脱炭素への考え方や対応が異なる点を、バイオガスの都市ガス利用を広げるうえでの障壁として挙げています。
経済産業省:日本ガス「カーボンニュートラルに向けた取り組みと課題について」(第5回ガス事業環境整備WG 資料4)













