ダイハツ工業は2024年12月9日、近江牛発祥の地である滋賀県竜王町の滋賀工場第1地区で、バイオガス実証プラントの本格稼働を開始したと発表しました。
地元の畜産農家から集めた牛ふんを発酵させてバイオガスを生産し、残った発酵残渣は堆肥と液肥にして、町内の耕種農家へ戻す地域完結型の資源循環プラントです。
ダイハツ工業ニュース:「竜王町バイオマス産業都市構想」におけるバイオガス実証プラントが本格稼働を開始
同社は2021年からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受け、近江牛のふん尿を対象とした基礎研究とプラント開発を進めてきました。
ダイハツ バイオガス実証プラントの概要
実証プラントの規模と仕様は以下の通りです。処理量とガス用途については、将来の計画値も記載しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 滋賀県蒲生郡竜王町 ダイハツ工業 滋賀(竜王)工場 第1地区 |
| 稼働開始 | 2024年12月(本格稼働) |
| 原料 | 肉牛(近江牛)の牛ふん |
| 処理量 | 約2t/日(将来計画:約20t/日) |
| 発酵方式 | 乾式バッチ式・小型発酵槽80基による個別管理 |
| 発酵期間 | 約14日間 |
| ガス用途 | バイオガス発電(将来:アルミニウム溶解炉の燃料) |
| 副産物 | 堆肥 約600kg/日、液肥 約2.6t/日 |
| 支援 | NEDO助成(2021年〜) |
なぜ肉牛の牛ふんは発酵が難しいのか
国内の家畜ふん尿バイオガスプラントは、その多くが酪農(乳牛)のふん尿を原料としています。
乳牛ふんは水分が多く流動性が高いため、タンクへ投入してポンプで移送・撹拌する湿式発酵が、酪農バイオガス生産の主流となっています。
国内の代表的な事例として、湧別バイオガスプラントや、JAおとふけバイオガスプラントが挙げられます。
しかし、食肉用に肥育される近江牛のふんは水分が少なく、そのうえ牛床に敷くおが粉や稲わらといった敷料が大量に混入します。そのため、従来型の湿式発酵槽にはそのまま投入できませんでした。
肉牛産地でメタン発酵の導入が進まなかったのは、この原料特性が壁になっていたためです。
そこでダイハツが選んだのが、水を加えずに固形のまま発酵させる乾式発酵でした。乾式発酵は含水率が低く積み上げられる原料を得意とし、敷料が混入した肉牛ふんとの相性がよい方式です。
さらに、発酵槽へ一度投入して一定期間置くバッチ式を組み合わせることで、ポンプ移送や大規模な撹拌設備を必要としない構成としました。
発酵方式ごとの違いはバイオガスプラント 発酵槽・消化槽の種類と構造で解説しています。
メタン発酵の種菌を2年かけて開発
発酵の立ち上げは、プラントの準備工程のなかでも最大の難所です。原料特性に適合した種菌を確保できるかどうかが、その後の安定運転を左右します。
そこでダイハツは、この難発酵性の原料に合わせた専用のメタン発酵種菌を、約2年かけて開発しました。
原料に応じて働く微生物群が変わる点については、メタン発酵の仕組みと微生物の役割もあわせてご覧ください。
自動車生産の考え方をどう応用したのか
このプラントの特徴は、乾式のバッチ式発酵を大きな1槽ではなく、小型槽の集合とした点にあります。
- 小型バッチ発酵槽を80基収納し、槽ごとに発酵状態を個別管理
- 発酵期間は約14日間で、槽をずらして運転しガス発生量を平準化
- 車両生産用のロボットと生産ラインを流用し、投入・排出工程を自動化
- 鋳造部品製造で使う脱臭設備を転用し、臭気対策に活用
大型タンクを設けず、発酵槽1基ずつを工程として管理する方式は、自動車の量産ラインの考え方をそのままメタン発酵に持ち込んだ発想といえます。
生成したガス・堆肥・液肥の使い道
生成したバイオガスは、小型自動車用エンジンをベースに新規開発した発電機でバイオガス発電を行い、工場のカーボンニュートラル電気として活用しています。
牛ふんの回収量は現時点で1日約2トン程度ですが、将来的には日量約20トンを処理する規模まで拡大し、アルミニウム溶解炉で使う燃料ガスの約10%をバイオガスに置き換える計画です。
一方、発酵残渣は固液分離され、堆肥と液肥として1日あたり堆肥約600kg、液肥約2.6トンが生産されます。これらはいずれも町内の耕種農家で利用されています。
農家と地域にとってのメリット
近江牛約2,750頭を飼養する澤井牧場では、自前で堆肥化する必要がなくなり、年間1,000万円規模のコスト低減につながったとされています。
一方、堆肥と液肥を受け入れるファームタケヤマは、米や麦、キャベツの土づくりと元肥にこれらを活用し、滋賀県のブランド米「きらみずき」でも品質が安定したと評価しています。
日本農業新聞:牛ふんからバイオガス 実証プラント本格稼働 滋賀県竜王町xダイハツ工業
排せつ物処理の負担を畜産側から切り離し、肥料として耕種側へ渡す「耕・畜・工」の役割分担が、竜王町の構想の中核にあります。
竜王町バイオマス産業都市構想と今後の展開
竜王町は2023年1月、滋賀県の市町村として初めて「バイオマス産業都市」に認定されました。本プラントはその構想の屋台骨に位置づけられるプロジェクトです。
滋賀県竜王町:竜王町バイオマス産業都市構想(PDF)
さらに、2025年11月12日には、竜王町とダイハツが福祉・環境・防災など8分野を対象とする包括連携協定を締結しました。
ダイハツが生産拠点を置く自治体と包括連携協定を結ぶのは初めてのことで、バイオガス事業を起点に連携領域が広がった形です。
バイオマス産業都市制度の概要や自治体の応募要件は、「バイオマス産業都市構想の募集開始 支援内容と応募方法」をご参照ください。
バイオガス化プロジェクトの事業計画(構想段階の試算)
以下は竜王町バイオマス産業都市構想に記載された、事業化を想定した試算値です。
- 事業主体:民間事業者
- 年間稼働日数:330日
- 原料調達計画:肉牛糞 20t/日、食品廃棄物 18t/日
- 事業費:メタン発酵プラント設備13.45億円(試算)
- 維持管理費:1.345億円/年(設備費用の10%)
- 事業収入計画:ガス販売 50円/Nm³(仮)、家畜排せつ物処理手数料 2,000円/t(仮)、食品廃棄物処理手数料 30,000円/t(仮)
バイオガス事業の投資判断については、バイオガスプラント建設費と運用コストおよび初期投資コストと資金調達も併せてご覧ください。






