製紙工場の製紙汚泥から高収率バイオガス 南アフリカ大学の研究

製紙工場の段ボールスラッジから高収率バイオガス

南アフリカのステレンボッシュ大学の研究チームが、化学工業協会(SCI)の国際学術誌「Biofpr(Biofuels, Bioproducts and Biorefining)」に、製紙汚泥の処理に関する研究成果を発表しました。

この研究では、これまで廃棄物として埋め立てられてきたペーパースラッジ(製紙汚泥)を嫌気性消化させ、バイオガスを効率よく回収できることを実証しています。

SCI Journals:Valorization of paper sludge for bioethanol and biogas production

スラッジの種類によってパフォーマンスは異なり、段ボール由来の汚泥ではバイオガスの収率が高く、バージンパルプ汚泥は同時糖化発酵(SSF)によって、バイオエタノールを効率よく回収しています。

この研究成果を応用することで、世界の製紙業界が抱える廃棄物問題の解決と、循環型バイオエコノミー(Circular Bioeconomy)を実現できる可能性があります。

ペーパースラッジ(製紙汚泥)とは

ペーパースラッジ(製紙汚泥)

ペーパースラッジ(製紙汚泥)とは、紙やパルプを製造する際の排水処理で発生する、細かい繊維や無機物(クレーなど)を含むドロドロの汚泥のことです。

スラッジは世界全体で年間約2,000万〜2,500万トン(乾燥重量)発生しており、その大半が焼却や埋め立てによって処分されています。

しかし、スラッジに含まれる有機物は、埋立処分すると酸素のない状態(嫌気環境)で分解され、強力な温室効果ガスのメタン(CH₄)が発生するという課題がありました。

その解決策として、土壌改良材や堆肥の他に、嫌気性消化(メタン発酵)によるエネルギー回収の研究が進んでおり、製紙業界の脱炭素化と廃棄物削減を両立させる方法として注目されています。

ScienceDirect:Challenges and opportunities in tackling paper mill sludge waste

3種類の製紙汚泥でバイオガス収率を実証

今回の研究では、製紙工場から出る代表的な3種類のスラッジを対象に実験を行っており、組成分析・酵素加水分解性・バイオエタノール発酵・嫌気性消化のパフォーマンスを比較評価しています。

  • バージンパルプスラッジ(VP-PS)
  • 段ボールスラッジ(CR-PS)
  • ティッシュ・印刷用紙スラッジ(TPR-PS)

実験の結果、メタン収率は段ボールスラッジが最も優れた結果を出し、バイオエタノールの製造は、バージンパルプスラッジ(転換率87.4%)が最も適していました。具体的な比較は以下の通りです。

スラッジ種別主な特徴バイオエタノール収率バイオガス収率メタン収率
バージンパルプ(VP-PS)グルカン含有量が高い46.8 g/L(87.4%)中程度中程度
段ボール(CR-PS)キシラン豊富・嵩密度良好低〜中94.4 ± 8.3 L/kg TS54.4 ± 5.1 L CH₄/kg TS
ティッシュ・印刷紙(TPR-PS)灰分が高く取扱性良好

段ボールスラッジは、難分解成分(リグニン)を比較的多く含んでいるものの、メタン発酵を促進する成分(キシラン)が豊富で、汚泥の密度も発酵に適していたため、高いメタン収率を実現しています。

前処理ほぼ不要 既存バイオガス原料との違い

研究によると、ペーパースラッジは木質系(リグノセルロース系)のバイオマス原料の中でも、特に優れていると指摘されています。その主な理由は以下の3点です。

  • すでに製紙工程で機械的・化学的処理を受けており、酵素加水分解の前処理がほぼ不要
  • 製紙工場の廃棄物であるためバイオマス調達コストはゼロまたはマイナス(処分費用の削減効果)
  • 既存の製紙工場インフラに直接統合しやすい立地条件

ペーパースラッジは、食物残渣や下水汚泥、家畜糞尿といった従来型のバイオガス原料と比べて扱いやすいという特徴があり、第二世代バイオ燃料の有望な資源として期待されています。

製紙工場の実証プラントと商業化の課題

ステレンボッシュ大学は2024年4月、南アフリカの大手製紙会社SappiのTugela製紙工場(クワズール・ナタール州)に、1,000Lバイオリアクターを搭載したコンテナ移動式の実証プラントを設置しました。

Johann Görgens教授は「このプラントは可搬式であり、他の工場でも実験を行う予定です。将来的には布など繊維廃棄物への応用も視野に入れ、パートナー企業と話し合いを進めたい」とコメントしています。

SCI journal highlight:Bioethanol and biogas from paper sludge

ただし、技術を実用化するには、発酵を促す酵素のコストが大きな壁となります。

Görgens教授は「酵素をたくさん加えるとエタノール生産量は増えますが、費用対効果は悪化します。実際の工場規模で導入するには、技術面とコスト面のバランスを見極めることが重要です」と指摘しています。

製紙汚泥からエネルギーへ 日本の製紙業界に波及

製紙汚泥からエネルギーへ 日本の製紙業界への波及

ScienceDirectのレビュー(2025年)によると、世界の製紙汚泥(PMS)は、2050年までに年間2,750万トン(乾燥重量ベース)に達すると予測されています。

製紙汚泥の埋立や焼却処分は、コストと環境規制の両面で限界に近づきつつありますが、製紙汚泥をエネルギーに変換する方法は、世界中の製紙工場で応用できる重要なモデルとなります。

日本の製紙業界は古紙・段ボールのリサイクル比率が高く、王子グループや日本製紙、レンゴーなどの大手メーカーが脱炭素(カーボンニュートラル)を目標に掲げています。

また、大王製紙の三島工場(愛媛県四国中央市)では、クラフトパルプ製造工程で発生する排水から、バイオガスを生成する設備が稼働しています。

住友重機械工業 お知らせ:製紙排水を利用したバイオマス燃料製造システムを納入~国内最大級の嫌気性処理システムとして稼働~

この研究成果を応用すれば、製紙工場でバイオエネルギーを生産(バイオリファイナリー)し、循環経済(サーキュラーエコノミー)の拠点にすることも可能になります。

ただし、現時点ではパイロットスケールの実験に留まっており、今後の商用化にあたって、酵素コストの削減や、規模拡大時の汚泥性質の変動、消化液の処理といった課題が残ります。

製紙工場が新たなエネルギーの供給源として台頭する日は近いかもしれません。この研究は製紙業界とバイオガス業界の双方にとって、注目の技術トレンドといえるでしょう。


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