欧州委員会(EU)は2026年4月14日に、チェコ共和国が提案した37億ユーロ(約7,000億円)規模のバイオメタン生産支援策を承認しました。
EUプレスリリース:Commission approves €3.7 billion Czech State aid scheme for sustainable biomethane production
この計画は、2030年までにチェコ国内の持続可能なバイオメタン生産能力を拡大し、化石燃料への依存を低減することを目的としています。
特に、チェコ国内の既存バイオガス発電施設に対して、ガス導管への注入が可能なバイオメタン精製施設へとアップグレードすることを後押しする内容となっています。
チェコはこの計画によって、2030年までに年間3億5,000万Nm³のバイオメタン生産を目指します。
EUのチェコ支援承認とCISAF適用の意義
欧州委員会が承認した「持続可能なバイオメタン生産支援策」は、2025年6月に採択された「クリーン産業ディール国家補助枠組み(CISAF)」の下で実施されます。
JETRO:欧州委、クリーン技術への幅広い財政支援を可能にする新たな国家補助枠組みを採択
この37億ユーロに及ぶ巨額の予算は、チェコ国内でのバイオメタン生産施設の新規建設、および既存施設の改修を支援するために割り当てられます。
EBAの「Statistical Report 2025」によると、EU-27のガス消費量は3,320億 Nm³に達する一方、依然として2,730億 Nm³を輸入に依存しており、域内のエネルギー自給率強化は喫緊の政策課題です。
欧州バイオガス協会(EBA):EBA Statistical Report 2025
REPowerEU計画が掲げる2030年までのバイオメタン目標350億 Nm³に対し、欧州の2025年第1四半期時点の設備容量は年間70億 Nm³、前年比9%増にとどまるという現実があります。
この計画と現実のギャップを埋めるため、EU加盟国レベルでの集中投資が求められています。
CISAFとは? EUクリーン産業ディールとの関係
CISAFは、2025年6月25日に欧州委員会が採択した新しい国家補助(State Aid)に関する枠組みで、2025年2月に発表されたクリーン産業ディール(Clean Industrial Deal, CID)の有力な実施手段となっています。
CISAFによって長期的なEUの産業競争力を強化するとともに、EU加盟国のクリーンエネルギーや産業脱炭素化、クリーン技術製造に対して、国家補助を付与する際のルールを定めています。
今回の支援策は、CISAFが中欧の再生可能ガス分野に適用された初の事例で、チェコは2030年末までに、年間3億5,000万ノルマル立方メートル(Nm³)のバイオメタン生産を目指します。
これによって、暖房、交通、産業部門の天然ガス代替が加速される見込みです。
チェコ既存バイオガスプラントのアップグレードを支援

今回のチェコ支援スキームは、既存バイオガス発電プラントから、バイオメタン精製・導管注入施設への転換(アップグレード)を促している点が特徴です。
これまでチェコのバイオガス事業の多くは、FIT(固定価格買取制度)の下で発電に特化してきました。
しかし、エネルギー効率の向上とエネルギー安全保障の観点から、熱電併給(CHP)が困難な施設では、バイオメタンに精製してガスグリッドへ注入する方が、エネルギー資源の有効活用に繋がると判断されました。
チェコ国内のバイオガスプラント約600基のうち、400基が農業系プラントで、政府はその半数以上をバイオメタン生産に転換する方針を示しています。
特に、ガス導管に近接し、排熱の有効利用が限定的なプラントが優先転換候補です。
チェコ国内のバイオガス資産
チェコは中欧でも有数のバイオガスプラント保有国です。チェコバイオガス協会の集計では、2025年8月末時点で国内には540基のバイオガスプラントが稼働しており、年間約2,560 GWhの電力を生産しています。
チェコバイオガス協会:Czech Biogas Association
しかし、現在バイオメタンを導管注入している施設はわずか12基にとどまり、既存の発電主体プラントをアップグレードする大きな余地があります。
支援対象となるプロジェクトは、膜分離法や水洗浄法などの高度な精製技術を導入し、ガス導管の品質規格を満たすバイオメタンを製造する必要があります。
この転換により、発電だけでなく都市ガスとしての供給や、バイオCNG/LNGとしての輸送用燃料としての活用が可能になります。
支援スキーム 双方向CfD(差額決済契約)の導入
支援スキームの中核となるのが、15年間にわたる2-way契約(双方向差額決済契約、CfD)を用いた直接価格支援です。
ストライク価格(基準価格)を設定し、市場の天然ガス価格がこれを下回れば国が差額を補填、上回れば事業者が差額を国庫に還付する仕組みです。
これによって、15年間にわたる長期的な投資安定性が確保され、金融機関からの資金調達も容易になります。
双方向差額決済契約(2-way CfD)の概要
- 対象:チェコ国内でガス生産ライセンスを保有するバイオメタン生産事業者
- 期間:2030年12月31日まで(CISAFと連動)
- 選定方式:競争入札による透明性の高いテンダー手続き
- 想定出力:年間合計3億5,000万Nm³(約3.5 TWh相当)
- 主な受益者:中小規模の農業系バイオガスプラント事業者
- 用途:運輸、熱供給、産業
中東欧バイオメタン市場への波及効果

この計画はチェコ国内にとどまらず、中東欧(CEE)地域全体のバイオメタン市場開発をさらに活性化させるきっかけとなります。
EBAの「欧州バイオメタンマップ2025」を見ると、中東欧(CEE)地域のバイオメタン生産施設は数が少なく、大きな開発余地が残されています。
参考記事:ヨーロッパのバイオメタン市場を知る 欧州バイオメタンマップ
欧州委員会の分析によると、この支援策は地方の中小規模農家(SMEs)に恩恵をもたらすとされています。
農業廃棄物や家畜糞尿を原料とするバイオガス事業が、バイオメタン生産へとシフトすることで、循環型農業の収益性が向上します。
ただし、支援を受けるにはEU再生可能エネルギー指令(RED)が定める厳格な持続可能性基準を満たす必要があります。






