2026年3月24日、欧州バイオガス協会(EBA)をはじめとする欧州の主要産業団体11組織が、ブリュッセルで「共同バイオメタン宣言(Joint Biomethane Declaration)」を発表しました。
この宣言は、バイオメタンをEUの再工業化・エネルギー安全保障・脱炭素の3本柱に据えるよう要請するもので、REPowerEU計画が掲げる2030年までの年間35bcm目標達成に向け、10の優先行動を提示しています。
現在の欧州バイオメタン生産量は年間約5.2bcmで、目標とする35bcmとの間に大きなギャップが存在しており、産業界が規制の明確化と、投資の加速が急務であることを訴えています。
欧州共同バイオメタン宣言の背景 EUの政策課題

今回の共同宣言が発表された背景には、欧州のエネルギー環境をめぐる構造的な課題があります。
2022年5月に欧州委員会が発表したREPowerEU計画は、ロシア産化石燃料からの脱却を最優先課題としており、バイオメタンの年間生産量を2030年までに35bcmへ引き上げる野心的な数値目標を設定しました。
「European Biomethane Map 2025」によると、現時点の稼働施設数(2025年中期)は1,678基となりますが、目標達成には推定370億ユーロ(約6兆円)の投資と、約5,000基のプラント新設が必要とされています。
参考記事:欧州バイオメタンマップ

しかし、EBAが2025年12月に公表した「Statistical Report 2025」では、2024年の欧州全体のバイオガス・バイオメタン生産量は合計22bcm、うちバイオメタンは5.2bcmにとどまっています。
欧州バイオガス協会(EBA):EBA Statistical Report 2025
前年比の成長率は8%となり、2023年の18%成長から大きく鈍化しました。EU-27のガス消費量332bcmのうち273bcmを依然として輸入に頼っており、エネルギー自給率の改善は進んでいません。
一方、民間の投資意欲自体は旺盛で、EBAが2025年6月に発表した「Biomethane Investment Outlook 2025」では、欧州全体で280億ユーロの投資が計画され、2025年Q1時点の設備容量は年間7bcmに到達しています。
欧州バイオガス協会(EBA):Biomethane Investment Outlook 2025
にもかかわらず成長が鈍化している要因は、許認可プロセスの遅延、規制の不確実性、グリッド接続の障壁といった政策面の課題に集約されます。
今回の共同宣言は、この「投資意欲はあるが制度が追いつかない」という深刻な不整合に対し、産業界が連帯して是正を求めたものです。
宣言の要旨:10の優先行動とEU産業界が求める政策転換
共同宣言に署名した11団体は以下の通りで、エネルギー集約型産業や、脱炭素化が難しいセクターを代表する幅広い構成となっています。
EU共同バイオメタン宣言 署名11団体
- EBA(欧州バイオガス協会)
- Cefic(欧州化学工業連盟)
- Cepi(欧州製紙産業連盟)
- Cogen Europe(欧州コージェネレーション協会)
- Copa-Cogeca(欧州農業・農業協同組合連盟)
- Farm Europe(欧州農業シンクタンク)
- Fertilizers Europe(欧州肥料工業連盟)
- Glass for Europe(欧州板ガラス連盟)
- IFIEC Europe(欧州産業エネルギー需要家連盟)
- Primary Food Processors(欧州一次食品加工業連盟)
- Sea-LNG(海運LNG・バイオメタン推進団体)
EU共同バイオメタン宣言 10の優先行動
宣言が示す10の優先行動には、主に以下の内容が含まれています。
- REPowerEUの35bcm目標を含むEUの気候・エネルギー目標におけるバイオメタンの貢献を正式に認知する:2030年までの生産目標達成に対し、新たな規制枠組みへの反映を求める。
- 認証・取引・企業間購入契約にかかる行政障壁の撤廃:国境を越えた取引を容易にするため、原産地証明(GoO)や証明書の相互認識を強化する。
- エネルギー集約型・難脱炭素セクターを優先したインセンティブと長期購入契約の支援:化学、肥料、海運などのセクターへ導入を促進する。
- 許認可の迅速化とガスグリッド統合計画の推進:プラント建設の許可プロセスを短縮し、既存のガスインフラへの注入を優先する。
- 各国支援制度のレベル調整:EU加盟国間での支援レベルの差を是正し、投資の安定性を確保する。
注目すべきは、この宣言がバイオメタンの供給側だけでなく、需要側からも強い支持を得ている点です。
EBAは2025年2月に「Biomethane Offtakers Declaration(バイオメタン需要者宣言)」を先行して発表しており、化学、金属、海運、肥料などのセクターがバイオメタンの大口需要者として名乗りを上げています。
今回の共同宣言は、供給側と需要側が一体となり、政策転換を求める産業界の意思表明となっています。
バイオメタンの循環経済的価値とエネルギーを超えた役割

欧州バイオメタン共同宣言が強調しているのは、バイオメタンは単なるエネルギー源にとどまらず、循環型経済の基盤技術であるという点です。
欧州では、バイオガス事業から年間約2,500万トンの消化液(ダイジェステート)が生産されており、有機肥料として農地に還元されています。
EBAの報告によると、消化液はすでにEUの窒素系肥料の17%を代替する潜在力を持ち、セクターの成長に伴い2040年までにはその割合が65%以上に達する見込みです。
化学肥料の製造は大量のエネルギーを消費するため、この代替効果は温室効果ガス削減に大きく寄与します。
さらに、欧州ではバイオメタン生産に伴い、年間117万トンのバイオジェニックCO₂を回収しており、これはEUの産業用液体・固体CO₂需要の約14%に相当する規模です。
共同宣言では、アンモニア製造(産業用CO₂の主要供給源)が、中東情勢の影響でリスクにさらされている点にも言及しており、バイオCO₂が代替供給源として認知されていることを示しています。
EUバイオメタン生産 35bcm目標達成に向けた課題
2030年の35bcm目標まで残り4年を切った現在、目標達成のハードルは依然として高い状況です。現在のバイオメタン成長率が継続した場合、2030年に達成可能な生産量は目標を大幅に下回ると予想されます。
この課題の核心は、バイオメタン生産の技術的な限界ではなく、EUの政策・制度面にあります。
REPowerEUの35bcm目標は拘束力のない非義務目標であり、各加盟国のNECPs(国家エネルギー・気候計画)に示されたバイオガス・バイオメタンの合計計画容量は、目標の約75%にとどまっています。
加えて、以下の規制が需要側を押し上げる要因となっていますが、許認可やグリッド接続をめぐる制度的障壁が、供給側の成長を阻害しています。
- RED III(改正再生可能エネルギー指令)による持続可能性基準の厳格化
- ETS2(排出権取引制度の拡大)の導入
- FuelEU Maritimeによる海運セクターの低炭素燃料義務化
EBA 2040ロードマップのバイオメタン中長期目標
EBAは2025年5月に「2040ロードマップ」を発表し、拘束力のある中長期目標の設定を求めています。
欧州バイオガス協会(EBA):EBA Roadmap 2040: biogases value chain calls for binding target to unlock circular and affordable energy for Europe
バイオガスの長期ポテンシャルは2050年までに150bcm以上、有機肥料1億7,700万トン、バイオCO₂ 1億2,000万トンに達すると試算されており、適切な政策環境が整備されれば大幅な成長が可能です。
また、フランスがドイツを抜いて欧州最大のバイオメタン生産国となり、ポーランドやウクライナなど新規参入国も増加しています。
今回の共同宣言は、供給側と需要側の産業界が一体となって政策立案者に行動を促す包括的な要請となっており、各国の政策対応の速度がセクター全体の成長軌道を左右する局面に入っています。






