2026年3月、木村化工機、神戸大学、ノベルズ、FTバイオパワーの4者がNEDOの助成事業を通じて、メタン発酵消化液からアンモニアを回収するプロセスを開発したと発表しました。
FO(正浸透)膜とヒートポンプ式蒸留を組み合わせたこの技術は、従来の曝気・脱窒処理と比較して、大幅な省エネルギーと経済性の向上が見込まれます。
NEDOニュースリリース:国内初、消化液から省エネルギーでアンモニアを回収する技術を開発しました
この技術は、バイオガス発電分野の環境負荷低減にとどまらず、回収したアンモニアを地産地消型の肥料資源として活用する「窒素循環型社会」への応用が期待されます。
メタン発酵消化液の課題 アンモニア処理
下水汚泥や家畜排せつ物、食品廃棄物などを原料としたメタン発酵施設では、バイオガスの生成と同時に大量の消化液が発生します。
この消化液には0.1〜0.3%程度のアンモニウムイオンが含まれており、現状では活性汚泥法による曝気処理や脱窒処理で窒素濃度を10ppm程度まで低下させたうえで放流されています。
しかし、この排水処理プロセスには多大な電力が必要であり、バイオガス発電で得られるエネルギーの一部を自家消費してしまうという構造的な課題がありました。
また、消化液をそのまま液肥として農地還元する場合は、近隣農場の確保や輸送コストの高騰、過剰な窒素化合物による地下水汚染リスク、貯留時の悪臭などが問題となるケースがあります。
地球環境の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」でも、窒素循環は既に安全な範囲を逸脱しているとされ、窒素を「廃棄」せず「資源」として回収・再利用する技術が国際的にも求められていました。
FO膜・ヒートポンプ蒸留技術の特徴と従来法との違い

今回開発されたプロセスの最大の特徴は、FO(Forward Osmosis:正浸透)膜による濃縮工程と、ヒートポンプ式蒸留によるアンモニア回収工程を最適に組み合わせた点にあります。
FO膜は、浸透圧差を駆動力として水を移動させる膜分離技術です。外部から高い圧力を加える逆浸透(RO)膜とは異なり、自然の浸透圧を活用するため、消費エネルギーを大幅に低減できます。
神戸大学先端膜工学研究センターが長年研究してきた正浸透膜技術が、本プロセスの一次濃縮段階に採用されました。
神戸大学 先端膜工学研究センター:正浸透を利用した省エネルギー膜分離法の開発検討
蒸留工程には、木村化工機のヒートポンプとMVRを融合させた蒸留技術が適用されました。
同社は半導体製造工場向けのMVR(自己蒸気機械圧縮)型や、ヒートポンプ式のアンモニア回収装置の実績があり、その知見をバイオガス分野へ展開した形です。
木村化工機:ハイブリッド型MVR式アンモニア回収装置
さらに、消石灰を利用したアンモニア回収プロセスにより、経済性の面でも従来法に比べ優位性が確認されています。
| 比較項目 | 従来法(曝気・脱窒処理) | 新プロセス(FO膜+ヒートポンプ蒸留) |
|---|---|---|
| 処理の目的 | 窒素を分解・除去して放流 | アンモニアを回収して資源化 |
| エネルギー消費 | 大量の電力を消費(曝気送風) | 省エネ(浸透圧駆動+熱回収) |
| 窒素の行方 | 大気・水系へ放出 | 肥料原料として回収・利用 |
| 経済性 | 処理コストが嵩む | 回収物に付加価値あり |
神戸市・長岡市での実証データと省エネ・経済性の評価

プロセスの開発は2022年度から開始され、ビーカーレベルの試験からベンチプラントの設計・製作へと段階的に進められました。
2024年5月からは神戸市建設局下水道部と、2025年6月からは新潟県長岡市商工部と共同で、実際のメタン発酵消化液を用いた長期実証試験が実施されています。
実証先の一つである長岡生ごみバイオガス発電センターは、1日あたり65トンの生ごみを処理する全国自治体最大規模の施設です。
新潟県長岡市:生ごみバイオガス化事業
実証試験では、消化液(全窒素:約1,000ppm)を1日297トン処理する条件下で、従来法と比較して年間133kL(原油換算)のCO₂排出量削減が見込まれ、アンモニア回収は年間106トン(窒素換算)と試算されました。
設備投資の減価償却年数は21年と算定されており、長期的な経済合理性も示されています。
集合型モデルの地産地消型窒素循環と社会実装
この事業は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム / 実用化開発 / 膜分離と蒸留を利用した低濃度アンモニア含有廃液からの高効率アンモニア回収技術の開発」として進められてきました。
NEDO事業紹介:脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム
今後の展開として、開発チームはアンモニア改修の「集合型モデル」提案を計画しています。
これは複数のメタン発酵施設から排出される消化液をFO膜で一次濃縮・減容したうえで、1カ所の拠点に集約してアンモニアを蒸留回収するというスキームです。
小規模施設単独では採算が取りにくい蒸留装置を共同利用することで、社会実装のハードルを下げる狙いがあり、回収されたアンモニアは、硫安などの肥料原料として地域内で流通させることが想定されています。
化学肥料の原料であるアンモニアは、その製造にハーバー・ボッシュ法を用いるため大量のエネルギーを消費します。
消化液由来のアンモニアを地産地消で肥料に転換できれば、輸入依存の低減とCO₂排出削減の両面で意義があり、今後は実用化に向けた規模拡大と、事業パートナーの開拓が進む見通しです。






