e-メタンの環境価値を「クリーンガス証書」として記録し、移転する仕組みが、新潟県長岡市の実証現場で本格的に動き出しました。
INPEX・大阪ガス・三菱重工の3社は2026年6月4日、CO₂流通管理のデジタルプラットフォーム CO₂NNEX®(コネックス)を、長岡メタネーション実証で運用開始したと発表しました。
INPEXニュースリリース:e-methaneのクリーンガス証書移転・管理を可能とする デジタルプラットフォーム「CO₂NNEX®」の長岡メタネーション実証における運用開始について
CO₂NNEXを活用したクリーンガス証書の移転・管理は、都市ガス業界初となります。
e-メタンは、燃焼しても大気中のCO₂を実質的に増やさないクリーンガスとみなされており、今後は環境価値の移転・管理が重要になります。
長岡メタネーション実証でCO₂NNEX運用 証書の実用化へ

長岡メタネーション実証では、INPEX JAPAN長岡鉱場(新潟県長岡市)越路原プラント内で回収したCO₂と、外部調達の水素を原料としてe-メタンを製造します。
e-メタンは、天然ガスパイプラインを通じて需要家へ届けられます。つまり、研究室内の小規模実験ではなく、実証としてガス供給インフラに近い形で運用されます。
製造設備は2026年1月にクリーンガス製造設備の認定を取得し、製造されたe-メタンは5月29日付でクリーンガス相当量の認証を取得しました。
今回はこの環境価値を、いよいよ証書として実際に移転・管理するフェーズに入ったことを意味し、その管理にCO₂NNEXが用いられます。
具体的には、e-メタンに関する属性データをCO₂NNEXで継続的にモニタリングし、証書の利用証明書を発行して、証書が適正に使われているかを検証します。
INPEX長岡の実証は、e-メタンの社会実装に必要な管理インフラを検証する場になっており、実際に環境価値を流通させ、その利用を確認する段階へ進んだことを示しています。
e-メタンの環境価値を地産地消する仕組み

今回の取り組みで注目されるのは、地域に根ざした「地産地消モデル」を目指している点です。
連携先には、地元自治体である長岡市に加え、実証設備の至近に立地する朝日酒造株式会社(清酒製造)と、岩塚製菓株式会社(米菓製造)が名を連ねています。
長岡で製造したe-メタンは、ガスという実体だけでなく、長岡市や地域企業がクリーンガス証書を通じて、その環境価値を活用することができます。
この2つを組み合わせることで、エネルギーと環境価値の地産地消モデルが構築できます。長岡の取り組みは、その先行事例の一つといえるでしょう。
クリーンガス証書とは 環境価値を証書化
クリーンガス証書制度は、日本ガス協会が関与し、2024年4月に本格運用が始まった制度です。
対象となるのは、e-メタンやバイオメタンなどのクリーンガスで、これらのガスが持つ環境価値をエネルギー価値から切り離し、証書として別の需要家へ移転できるようにする仕組みです。
クリーンガス証書評価委員会:クリーンガス証書制度とは?
再エネ電力の分野では、非化石証書が先行していましたが、ガス体エネルギーを対象にした証書制度は、クリーンガス証書が国内初となります。
| 項目 | クリーンガス証書 | 非化石証書(電力) |
|---|---|---|
| 対象 | e-メタン・バイオメタン(ガス体) | 非化石電源由来の電力 |
| 監修 / 運用 | 日本ガス協会 / クリーンガス証書評価委員会 | 国(経済産業省)/ JEPXで取引 |
| 本格運用開始 | 2024年4月 | 2018年〜 |
| 基本的な機能 | 環境価値をエネルギー価値から分離・移転 | 環境価値をエネルギー価値から分離・移転 |
制度の流れですが、まず製造設備がクリーンガスを製造する設備として「認定」を受け、続いて実際に製造されたクリーンガス相当量について「認証」を受けることで証書が発行されます。
CO₂NNEXとは CO₂流通管理のデジタルプラットフォーム
ここで課題になるのが、証書の取引量が増えたときに、誰がどれだけの環境価値を、どの原料から作り、どこへ移したのかを正確に記録・管理する基盤です。
環境価値の二重計上や誤った利用を防ぎ、信頼性の高いデジタル基盤として、その役目を担うのがCO₂NNEXで、管理には測定(Measurement)、報告(Reporting)、検証(Verification)のMRV機能を活用します。
CO₂NNEXは三菱重工が日本IBMと2021年から構築してきたデジタルプラットフォームで、ブロックチェーンとクラウド・AIを組み合わせ、CO₂の流通を可視化します。
e-メタン向けには、製造量や原料となるCO₂・水素の量といった属性データの管理と、クリーンガス証書の移転・管理機能が実装されています。
三菱重工業ニュース:合成メタンサプライチェーンのCO₂流通を可視化するデジタルプラットフォーム「CO₂NNEX™」を活用したPoCの共同実施について
大阪・関西万博に続く都市ガス業界2例目の実装

CO₂NNEXを使ってクリーンガス証書を管理する取り組みは、大阪・関西万博に続いて2例目となります。
2025年に開催された大阪・関西万博では、東邦ガス、日本ガス、北陸ガスなど、各地の都市ガス事業者が製造したe-メタンやバイオガスの証書が、CO₂NNEX上で移転されました。
その証書は、大阪ガスが会場へ供給する天然ガスのカーボンニュートラル化に活用され、会場で使うガスの脱炭素化に貢献しました。
大阪・関西万博は、開催期間が決まっているイベントでの実証だったのに対し、長岡実証は実際のパイプラインや地域需要家に接続された、より実務に近いガス供給である点が異なります。
この違いは大きく、CO₂NNEXによって万博で得られた証書管理の知見を、より継続的なサプライチェーンへ展開する段階に入ったといえます。
環境価値証書市場の拡大と制度実証に向けた展望
今回の背景には、環境価値証書市場の本格的な立ち上がりがあり、経済産業省は2026年度に、排出量取引制度(GX-ETS)の本格稼働や、クリーン燃料証書の制度実証を予定しています。
対象には、e-fuelやSAFといった液体燃料に加え、e-メタンやバイオガスなどの気体燃料も含まれており、長岡でのCO₂NNEX運用は、将来の証書制度設計を見据えた、先行事例の一つに位置づけられます。
今後、e-メタンやバイオメタンの利用が拡大するにつれ、証書の発行量や取引量も増えるため、製造量や原料情報、CO₂排出量、証書の移転履歴などを正確に管理する仕組みが欠かせません。
また、需要面でも拡大が見込まれており、日本ガス協会は2030年に供給する都市ガスの1%相当をe-メタンやバイオガスとする目標を掲げています。
参考記事:日本ガス協会「ガスビジョン2050」公表 バイオガスとe-メタンの役割
三菱重工は、CO₂NNEXの適用先をe-メタンだけに限定していません。今後は、e-fuel、SAF、CCSなどへの展開も視野に入れており、さらにアジア諸国への展開も検討されています。
CO₂と水素からe-メタンを安定的に製造する技術と、e-メタンが持つ環境価値を証明・流通させる仕組みは、e-メタン社会実装に欠かせない要素です。
INPEXの世界最大級メタネーション実証と、CO₂NNEXによる環境価値の移転・管理システムの組み合わせによって、e-メタンの社会実装に向けた具体的な道筋が見え始めています。
参考記事:INPEXと大阪ガスが世界最大級メタネーション実証運転を開始 パイプライン注入も実施










