日本ガス協会(JGA)は、2025年6月3日に都市ガス業界が目指す2050年の未来像を示した「ガスビジョン2050」と、その実現に向けた2030年までの行動計画「アクションプラン2030」を公表しました。
ガスビジョン2050では、2050年時点でガス供給全体の最大90%程度をe-メタン(合成メタン)とバイオガスに置き換える方向性が打ち出されており、バイオガス・バイオメタン業界にとって重要な指針となります。
日本ガス協会:ガスビジョン2050 アクションプラン2030
「ガスビジョン2050」策定の背景 エネルギー情勢の変化
日本ガス協会は2020年11月に「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を公表し、業界として都市ガスのカーボンニュートラル実現を目指す方針を、主要エネルギー業界団体の中でいち早く打ち出していました。
翌2021年6月にはアクションプランも策定しましたが、今回の「ガスビジョン2050」は前回の改定版ではなく、全く新たに策定された計画です。
日本ガス協会資料(PDF):ガスビジョン2050
背景には、2021年以降に生じた二つの大きな環境変化があります。第一に、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした地政学リスクの顕在化により、エネルギーの安定供給に対する不確実性が高まったことです。
第二に、カーボンニュートラル達成手段が多様化し、e-メタンだけでなく、バイオガスやCCUS(CO2の回収・利用・貯留)などの組み合わせによる経済性も重要視されるようになったことです。
こうした流れを受け、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、天然ガスが「カーボンニュートラル実現後も重要なエネルギー」として位置づけられました。
資源エネルギー庁資料(PDF):合成メタン(e-methane)等をめぐる状況について
また、合成メタン(e-メタン)は次世代エネルギー、かつカーボンニュートラル化の鍵として明記されており、都市ガス業界を取り巻く政策環境が大きく前進しています。
ガスビジョン2050とアクションプラン2030の全体像
ガスビジョン2050では、都市ガス業界の使命を「お客さまにとって最適なソリューションを提供する」と定めました。
また、「信頼されるプロフェッショナル」「お客さま・地域に寄り添うパートナー」「発展を支えるイノベーター」という不可欠な存在になるべく、以下3つのビジョンを掲げています。
- ビジョン1:災害に屈しない社会・産業・地域の構築に尽力する
- ビジョン2:お客さまに選ばれ続けるソリューションを提供する
- ビジョン3:お客さま・地域のカーボンニュートラル化実現に貢献する
アクションプラン2030
アクションプラン2030では、ビジョン実現に向けた2030年までの4つのアクションが設定されています。
アクション1:安全・安心・安定供給
ガス安全高度化計画2030の遂行、レジリエンス向上
アクション2:省エネ・天然ガスシフト
燃料転換、ZEB・ZEHの普及拡大によるCO2排出抑制
アクション3:e-メタン中心のカーボンニュートラル化加速
2030年度にe-メタン・バイオガスの1%供給を目指す
アクション4:イノベーション推進
革新的メタネーション技術開発、CCUS、水素関連技術
特に注目すべきはアクション3で、S+3E(安全性・安定供給・経済効率性・環境適合)のバランスを取りながら、大手事業者だけでなく全国の地方ガス事業者も含めた取り組みが強調されています。
バイオガス・e-メタンの位置づけ
バイオガス・バイオメタン業界にとって重要な点は、「ガスビジョン2050」に盛り込まれた数値目標で、2050年時点でガス供給全体の50%~最大90%程度を、e-メタンとバイオガスに置き換える方向性が示されました。
その中間マイルストーンとして「アクションプラン2030」では、2030年度にe-メタンまたはバイオガスを導管に注入する目標が設定されており、その量は供給量の1%相当分となります。
この目標は第7次エネルギー基本計画にも明記されており、エネルギー供給構造高度化法(高度化法)の判断基準にも位置づけられました。
計画作成義務の対象は東京ガス・大阪ガス・東邦ガスの大手3社ですが、地方事業者の取り組みを証書化して目標達成に活用する仕組みも検討されています。
また、導入コストのうちガスの一般的な調達費より割高になる部分は託送料金原価に含めることが可能となり、合成メタンやバイオガスへの投資を下支えする制度設計が進んでいます。
さらに、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における排出係数への反映も予定されており、バイオメタンの環境価値が制度的に評価される土台が整備されつつあります。
バイオメタン・e-メタンへの取り組み
大阪ガスは、バイオメタネーションの実用化にも取り組んでおり、大阪・関西万博会場では生ごみから発生するバイオガス中のCO2と再エネ由来水素からe-メタンを合成する実証を実施しました。
また、東京ガスもメタネーション技術の研究や、e‑メタン製造の実証を進めています。
参考記事:東京ガスのバイオガスやe-メタンに関連する記事
こうした技術実証の進展も、バイオガスの都市ガスインフラへの統合を後押しする要因となっています。
ガスビジョン2050 バイオガス業界への影響と展望
「ガスビジョン2050」がバイオガス・バイオメタン業界に与える影響は大きく、以下の3点が重要です。
e-メタン・合成メタンの位置づけ
ガスビジョン2050では、バイオガスが合成メタンと同等の位置づけで制度に組み込まれています。
高度化法の目標において、e-メタンとバイオガスは「同等に扱う」方針が明確化され、事業者が戦略的に調達先を選択できる制度となっています。
これにより、下水汚泥、食品廃棄物、家畜排せつ物等を原料とするバイオメタンプラントの事業性が向上する可能性があります。
地産地消型エネルギーによるカーボンニュートラル・地方創生
同ビジョンに地産地消型エネルギーによる地域カーボンニュートラルと、地方創生の推進が明記されました。
大手事業者が海外での大規模e-メタン製造に取り組む一方、地方ガス事業者にとってはバイオガスの地域内利用が現実的なカーボンニュートラルの手段となります。
資源エネルギー庁の資料によれば、令和3年度の下水汚泥由来バイオガス発生量は約3.7億m³と推計されており、そのうち約1割が未利用となっています。
こうした未利用バイオマスの活用拡大は、全国的なカーボンニュートラル化の鍵となるでしょう。
ガス事業制度の整備動向
今後の動向ですが、2027年3月までにガス事業制度の見直しが実施される予定で、全国の都市ガス事業者によるカーボンニュートラル化推進の枠組みが検討されます。
また、2026年からは排出量取引制度も開始予定であり、バイオメタンの環境価値が市場で取引される環境が整備されていくと考えられます。
ガスビジョン2050は、都市ガス業界全体の脱炭素ロードマップを示すと同時に、バイオガス・バイオメタンの需要を制度的に創出する枠組みでもあります。
バイオガスプラント事業者やメタン発酵技術の開発企業にとっては、中長期的な事業計画の基盤となる重要な政策文書と言えるでしょう。






