ニュージーランド政府は2025年、国産天然ガスの急速な減少を背景に、バイオガス・バイオメタンを国家エネルギー戦略の柱として位置づける方針を相次いで打ち出しました。
エネルギー大臣のサイモン・ワッツ氏は、7月にウェリントンで開催された「Biogas Bridge Forum」で、政府の方針となる「バイオガス作業計画(Biogas Work Programme)」を表明しました。
さらに10月には、バイオガスに関する正式な政府声明「Government Statement on Biogas」を公表し、バイオガス・バイオメタンの活用に向けた政府の姿勢をより明確に示しています。
Beehive.govt.nz:Accelerating bioenergy in New Zealand
バイオガス代替策の背景 天然ガス供給の急減
ニュージーランドがバイオガスへ急速に舵を切る最大の理由は、深刻化するガス供給不足にあります。
同国の公式な天然ガス埋蔵量は、2024年に27%減少し、1,300PJから948PJへと落ち込みました。生産量は2026年までに年間100PJを下回ると見込まれ、従来予測より3年早いペースとなります。
WBA news:New Zealand to fast-track biogas development in the face of a looming gas crunch
加えて、ニュージーランドはオーストラリアと接続するパイプラインも、商用LNG輸入基地も持たず、国内生産が減少してもガスを輸入して補うインフラがない点が、状況をより深刻にしています。
天然ガスは、出力が変動しやすい再生可能エネルギーを補う調整力(バックアップ電源)としての役割や、肥料・メタノール製造などに使われる産業用熱源として不可欠なエネルギーです。
こうした中で、国内の有機廃棄物から生産できるバイオガスが、現実的な代替策として注目されるようになりました。この方針が初めて公に示されたのが、2025年7月のフォーラムです。
GasNZとBioenergy Association of New Zealandが主催した2日間のフォーラムには、エネルギー、一次産業、廃棄物、規制・行政などの分野から130名超が参加しました。
ワッツ大臣は冒頭演説で、バイオガス市場の育成に向けた政府のコミットメントを明言しています。
Gas New Zealand:Forum seizes the moment for biogas
ニュージーランド政府声明とバイオガス作業計画
ワッツ大臣が表明した「バイオガス作業計画」は、明確な3本柱で構成されています。
この作業計画は「支援のシグナルを送る(Signalling Support)」「障壁を取り除く(Removing Barriers)」「業界と協働する(Working with Industry)」という3つの柱を軸としている点が特徴です。
そして、7月に示された方針を制度として裏付けたものが、2025年10月22日に公表された政府声明「バイオガスに関する政府声明」で、Wood Energy Strategy・Action Planも合わせて公表されています。
この声明では、バイオガス市場への政府のコミットメントと、その成長を後押しするための具体的な行動が示されており、以下の3点が政策の柱となっています。
- バイオガス市場への産業投資を支援する(Support industry investment into a biogas market)
- 民間投資を促す規制環境の整備(Ensure regulatory settings enable the private sector to invest)
- 市場発展の障壁を低減する(Reduce barriers to market development)
規制の壁を取り除く バイオメタン導管注入の制度整備
政府声明の中で、特に投資家が注目するのは、制度上の不確実性を取り除くための具体策です。
政府はEnergy and Electricity Security Billを通じて、Commerce Actを改正し、バイオメタンの導管サービスを天然ガスと同じ規制枠組みの下に置く方針を示しました。
これにより、投資家にとっての不確実性が低下し、再生可能ガス市場の成長が促されると説明しています。
各政府機関も制度の見直しを進めており、MBIE(Ministry of Business, Innovation and Employment)と環境省は、埋立廃棄物のエネルギー転換を検討しています。
EECA(Energy Efficiency and Conservation Authority)は、嫌気性消化に適した有機廃棄物原料について、入手可能性・季節性・エネルギーポテンシャルのマッピングを進めています。
さらに、Gas Industry Company(GIC)は、バイオガス品質を保証する認証枠組みや、導管注入ルールの整備に取り組んでいます。
加えて、バイオガス処理で発生する生物由来CO₂を、提案中のCCUS枠組みのもとで回収・貯留した場合、排出量取引制度(ETS)のクレジット対象となり得る点も示されました。
これは、低炭素技術への新たな投資誘因として位置づけられています。
ニュージーランドのバイオガス潜在量と市場の現状
ニュージーランドのバイオガス市場はまだ黎明期にあり、現在の生産量は年間3.5〜4.9PJ程度で、その大半は埋立地や廃水処理施設から発生したガスです。
しかし、その潜在量は大きく、Blunomyのレポート(Firstgas・Powerco・Ecogas共同委託)では、未開拓のバイオガス潜在量を北島で9.5PJ、南島で9.1PJと見積り、全国の年間最大生産量を23.5PJと試算しています。
Blunomy Report:Vision for Biogas in Aotearoa New Zealand
バイオメタンの環境価値も高く、Beca・Firstgas・Fonterra・EECAの2021年報告書によると、バリューチェーン全体で炭素排出の最大95%を防げるとされています。
また、2050年までに総ガス使用量の約20%を置き換える潜在力があるとも示されています。
業界側は、さらに踏み込んだ目標を掲げており、Bioenergy Association の Gaseous Biofuels Interest Group は、バイオガス生産量の目標として、2027年に5PJ、2035年に12PJ、2050年に20PJを設定しました。
Bioenergy Association of New Zealand:Gaseous Biofuels – Harnessing renewable gas for a resilient, secure, and affordable energy future that fuels economic growth
先行する欧州では、デンマークが天然ガス供給の約40%を、有機廃棄物由来の再生可能ガスで置き換えています。さらに、2030年までに100%を再生可能ガスで賄う計画です。
NZでも、すでに実績が出始めています。EcogasとFirst Renewablesは、食品残さから作られたバイオメタンを、国内のガス配給網へ初めて注入し、化石ガスからの転換に向けた第一歩を踏み出しました。
| 区分 | 規模(年間) | 出典・位置づけ |
|---|---|---|
| 現状の生産量 | 約3.5〜4.9PJ | 主に埋立地・廃水処理由来 |
| 技術的ポテンシャル | 最大23.5PJ | 北島9.5PJ+南島9.1PJ |
| 業界目標 | 2027年:5PJ → 2050年:20PJ | Bioenergy Association設定 |
ガス供給危機が国家エネルギー政策を加速
ニュージーランドの事例が示しているのは、ガス供給危機が政策を一気に加速させるという構図です。
再エネ電源である水力・地熱が豊富なニュージーランドでも、電力需給の調整力や産業用熱源を支えるガスの代替として、廃棄物由来のバイオガス・バイオメタンを選択肢に加えた点は示唆的です。
また、投資を呼び込む手段が補助金そのものではなく、導管注入を天然ガスと同等に扱う規制の明確化に置かれている点も、制度設計を考えるうえで参考になります。
ニュージーランドのように、国レベルで「規制の枠組み」「原料データの整備」「認証制度」を一体的に打ち出す動きは、業界全体の投資判断を後押しする好例といえます。
国家のエネルギー安全保障と脱炭素を両立させる手段として、今後はアジア太平洋地域でもバイオガス・バイオメタンの戦略的活用が重要になると考えられます。
ニュージーランドの取り組みは、国家エネルギー政策の中核に位置づける先行事例として注目されます。
参考記事:オーストラリア・オセアニアの主要バイオガスプラントメーカー・プロバイダー






