画像:欧州バイオメタン協会より
欧州バイオガス協会(EBA)が公開している「欧州バイオメタンマップ2025 (European Biomethane Map 2025)」をご紹介します。
このマップには、ヨーロッパ全域のバイオメタン生産施設や設置場所が記載されており、バイオメタン市場や脱炭素化の動向を知るうえで欠かせない重要資料です。
European Biomethane Map 2025
欧州バイオガス協会(EBA)が発表している「欧州バイオメタンマップ2025」は、稼働中のバイオメタン生産施設をヨーロッパ全域の地図上に配置したインタラクティブマップです。
European Biogas Association(EBA):European Biomethane Map 2025
2025年6月時点で稼働しているヨーロッパ全域のバイオメタン生産施設 (注: EBA未認知の施設を除く) は、1678か所となります。

「Country」を選択すると、ヨーロッパ各国ごとのバイオメタン生産施設を表示させることができます。一例として、ドイツ「Germany」では、現在260のバイオメタン生産設備が稼働しています。

各ピンには、バイオメタン生産施設の都市名や稼働時期の情報が記載されています。

「Start of operation」で、稼働開始した時期を選択できます。直近5年(2020-2024)で稼働開始したドイツ国内のバイオメタン生産施設は29か所でした。

ヨーロッパでバイオメタン生産施設が一番多い国はフランスで、現在760か所が稼働しています。

欧州バイオガス協会は、ガスインフラ事業者の団体であるガスインフラストラクチャーヨーロッパ(GIE)と共同で、ダウンロード版のPDFマップも公開しています。
EUROPEAN BIOMETHANE MAP 2025:INFRASTRUCTURE FOR BIOMETHANE PRODUCTION
バイオメタンマップが示す欧州バイオメタン市場の拡大
欧州バイオメタンマップが示すのは、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとするエネルギー安全保障の高まりと、気候変動対策という二つの要因によって、バイオガス需要が拡大しているという事実です。
ヨーロッパ全域で稼働するバイオメタン生産施設は順調にその数を増やしており、現在は1,678もの施設がマップに掲載されています。
また、欧州全体のバイオメタン総生産能力は70億立方メートル(bcm)、エネルギー換算で約72TWhとなり、これはEUのガス消費量全体の約2%に相当する規模です。
欧州委員会のエネルギー政策 REPowerEU
欧州バイオメタン市場拡大の背景には、2022年に欧州委員会が打ち出したエネルギー政策「REPowerEU」が大きく影響しています。
ロシア産化石燃料からの脱却を目指すこの政策は、バイオメタンをエネルギー安全保障の切り札と位置づけ、EUのエネルギー主権を確立することが目的です。
バイオメタンは自国産、分散型、既存ガスインフラ活用という3つの特性から高く評価されており、欧州委員会は2030年までにバイオメタンの生産量を35bcmへと引き上げる野心的な目標を掲げています。
このエネルギー政策「REPowerEU」が民間投資を呼び込み、欧州バイオメタン市場拡大の原動力となっています。
ヨーロッパ諸国のバイオメタン市場動向
欧州バイオメタンマップの対象は西ヨーロッパから北欧・中東欧まで広がっており、現在25か国となっています。また、拠点の86%がガスグリッドへ接続しています。
今回のマップで最大の注目点は、フランスの急激なバイオメタン市場拡大で、直近5年(2020-2024)で610か所のバイオメタン生産施設が稼働を開始しています。
ヨーロッパでは、長年ドイツがバイオメタン市場のリーダーでしたが、直近5年の稼働数はわずか29か所にとどまっており、欧州バイオメタン市場の勢力図が大きく変化していることを示しています。
以下に、2025年6月時点でのバイオメタン生産施設数トップ5の国々とその特徴を示します。
| 順位 | 国名 | 施設数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | フランス | 760 | 政府の強力な支援策により、新規プラント建設が爆発的に増加 |
| 2位 | ドイツ | 260 | 成熟した市場を持つが、近年は政策変更により新規建設ペースが鈍化 |
| 3位 | イタリア | 137 | 農業残渣の活用ポテンシャルが高く、政府も導入を積極的に後押し |
| 4位 | イギリス | 119 | 政府支援で安定成長。欧州有数の市場を形成し、ガス網への注入が主流 |
| 5位 | オランダ | 87 | サーキュラーエコノミー先進国で、廃棄物処理と連携したプラントが多い |
欧州バイオメタン市場 政策支援の必要性
欧州バイオガス協会は、ヨーロッパのバイオメタン市場を拡大させて、生産目標の35bcmを達成するためには、より強力で一貫した政策支援が不可欠であると発表しています。
欧州バイオガス協会 ニュース:European biomethane capacity hits 7bcm – stronger policy support needed to sustain momentum
ヨーロッパのバイオメタンプロジェクトは、急成長の裏でいくつかの共通の課題に直面しています。欧州バイオガス協会が指摘する主な課題は以下の通りです。
- 投資の不確実性:長期的な政策の安定性が見通せないと、大規模な投資判断が難しくなる。
- 許認可プロセスの遅延:プラント建設に必要な許認可手続きが煩雑で時間がかかり、プロジェクトの遅延を招いている。
- グリッド接続の障壁:生成したバイオメタンをガス導管に接続する際の手続きやコストが、依然として事業者にとって大きな負担となっている。
これらの課題を解決するには、EU加盟国が連携して政策支援を実行し、許認可の迅速化やグリッド接続の円滑化、安定した投資環境を整備する必要があると述べています。






