バイオガスプラントの計装と制御システム・自動化技術

バイオガスプラントの安定稼働と収益最大化のためには、プラントの状態を正確に把握し、適切に制御する計装・制御システムが不可欠です。

この記事では、バイオガスプラントにおける計装・制御システムの基礎知識から、自動化によるメリット、主要プロセスの監視ポイント、最新技術(AI・IoT)の活用、安全性確保について解説します。

目次

バイオガスプラント計装・制御システムの基礎と導入メリット

バイオガスプラントは、微生物の働きを利用して有機物を分解し、バイオガスを生成する設備です。

そのプロセスは、温度、pH、投入物量、滞留時間など、様々な要因の影響を受けるため、常に最適な状態を維持するため精密な管理が求められます。

計装・制御システムは、プラント内の様々なパラメータをセンサーで計測(計装)し、そのデータに基づいてバルブやポンプなどの機器を自動で制御する役割を担います。

これにより、人手に頼っていた管理作業を自動化して、プロセス最適化や安定稼働、安全確保を実現します。また、異常の早期検知により、設備トラブルによるダウンタイムを最小限に抑え、機会損失を防ぐ効果も期待できます。

適切な計装・制御システムの導入は、バイオガスプラントの経済性に直結します。

例えば、国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、プロセスの最適化によりバイオガス収量が10~15%向上するケースや、自動化による運転管理コストが20%削減されるケースが報告されています。

自動化が発酵効率と稼働率に与える影響

バイオガスプラントの心臓部であるメタン発酵プロセスは、温度やpHの変化に非常に敏感です。自動化された計装・制御システムは重要パラメータを常時監視し、設定値から逸脱しないように自動で調整します。

例えば、温度が低下すれば自動で加温装置を作動させ、pHが変動すれば中和剤を自動投入するといった制御が行われます。これにより、微生物の活動を常に最適な状態に保ち、発酵効率を最大化することができます。

さらに、原料投入量の自動調整や、生成ガスの品質監視、設備の異常検知なども自動で行われるため、ヒューマンエラーのリスクを低減し、24時間365日の安定稼働を実現します。

その結果、プラント全体の稼働率が向上し、計画通りのバイオガス生産とエネルギー供給が可能になります。人件費の削減だけでなく、熟練オペレーターの依存度を減らし運転管理の標準化を図れる点もメリットです。

主要プロセス(投入・発酵・精製)の監視ポイント

バイオガスプラントの安定稼働には、主要プロセスごとの適切な監視が不可欠です。

投入プロセス

監視ポイント: 原料の種類、投入量、固形物濃度(TS)、揮発性固形物濃度(VS)、温度
目的: 発酵槽への過負荷や阻害物質の混入を防ぎ、安定した原料供給を実現します。流量計、濃度計、温度センサーなどが用いられます。

発酵プロセス

監視ポイント: 発酵槽内の温度、pH、液位、撹拌状況、揮発性脂肪酸(VFA)濃度、アルカリ度
目的: メタン生成菌の活動に最適な環境を維持します。温度センサー、pHセンサー、レベル計、VFAセンサーなどが重要です。特に温度とpHはリアルタイムでの監視・制御が発酵安定の鍵となります。

精製プロセス

監視ポイント: バイオガス中のメタン(CH₄)濃度、二酸化炭素(CO₂)濃度、硫化水素(H₂S)濃度、水分量、ガス流量、圧力
目的: 生成されたバイオガスの品質を確認し、利用目的に合わせた精製(除湿、脱硫、CO₂分離など)を適切に行います。ガス分析計、流量計、圧力センサーなどが用いられます。H₂Sは腐食性が高いため、特に注意が必要です。

これらの監視ポイントで得られたデータは、制御システムによって分析され、ポンプ、バルブ、撹拌機、加温装置などの自動制御に活用されます。

ISO / IEC規格と国内ガイドラインの位置づけ

バイオガスプラントの計装・制御システムを構築・運用する際には、関連する国際規格や国内ガイドラインを遵守することが重要です。これにより、システムの信頼性、安全性、相互運用性を確保することができます。

ISO / IEC規格

  • IEC 61508 / IEC 61511: 機能安全に関する国際規格。プラントの潜在的なリスクを評価し、必要な安全度水準(SIL)を決定、安全計装システム(SIS)の設計・運用に関する要求事項を定めています。
  • IEC 62443: 産業用オートメーションおよび制御システム(IACS)のセキュリティに関する国際規格。サイバー攻撃のリスクから制御システムを保護するための要求事項を定めています。
  • ISO 9001: 品質マネジメントシステムに関する国際規格。計装・制御システムの設計、製造、設置、保守に至るプロセス全体の品質を確保するための枠組みを提供します。

日本規格協会:ISO/IECの規定・政策等 内容

国内ガイドライン

  • 農林水産省、環境省など: バイオガスプラントの導入や運用に関する技術指針や補助金制度の要件などで、計装・制御に関する推奨事項や基準が示されることがあります。例えば、「バイオマス発電に係る計画策定ガイドブック」などがあります。
  • 業界団体(例:日本バイオガス協会): 安全基準や標準的な運用方法に関する自主ガイドラインを策定している場合があります。

資源エネルギー庁:事業計画策定ガイドライン (バイオマス発電)

これらの規格やガイドラインは、法的な強制力を持つものから推奨事項まで様々ですが、プラントの信頼性と安全性を高め、社会的な信用を得る上で遵守することが望ましいと言えます。

プロセス計測機器:温度・pH・ガス組成センサーの最適配置

バイオガスプラントの安定稼働と効率最大化の鍵は、「何を」「どこで」「どのように」計測するか、すなわちプロセス計測機器(センサー)の適切な選定と配置にあります。

特に重要な温度、pH、ガス組成センサーについて、その最適配置と役割を解説します。

センサーの選定は、測定範囲、精度、応答速度、耐久性(耐腐食性、耐圧性など)、メンテナンス性、そしてコストを考慮する必要があります。また、設置場所は、プロセスの状態を代表する値が取得でき、かつメンテナンスが容易な場所を選ぶことが重要です。

不適切なセンサー選定や配置は、誤った計測データに基づいた制御を引き起こし、発酵効率の低下、ガス品質の悪化、さらには設備トラブルや安全上のリスクに繋がる可能性があります。

例えば、ドイツのバイオガス協会(Fachverband Biogas e.V.)の調査では、センサーの故障や不適切な配置が原因となるプラントの計画外停止が、全体の約15%を占めると報告されています。

適切な計測は、トラブルの未然防止と安定操業の基盤となります。一例として、下水処理場の消化槽では槽内の温度分布にムラがあり、一点計測では正確な状態把握が困難でした。

そこで、複数の温度センサーを異なる深さ・位置に設置し、槽内全体の温度分布を監視できるように改善しました。これにより、加温効率が向上し、メタン生成量も安定しました。

メタン発酵槽における温度・pHリアルタイム測定

メタン発酵に関与する微生物群は、それぞれ最適な活動温度域とpH域を持っています。

一般的に、中温発酵(35~40℃)や高温発酵(50~55℃)が採用されますが、いずれの場合も温度を±1℃程度の精度で安定させることが理想的です。また、pHは通常6.5~7.5の範囲に維持することが望ましいとされています。

これらの値をリアルタイムで正確に測定し、制御システムにフィードバックすることが、発酵槽の安定維持に不可欠です。

  • 温度センサー: 発酵槽内の代表的な温度を測定できる位置(例:槽の中央付近、循環ライン)に設置します。槽の大きさや形状によっては、複数点の温度を測定し、平均値や最低値で制御することも有効です。耐腐食性に優れた材質(ステンレス鋼など)や、メンテナンスが容易な構造(保護管付きなど)のセンサーを選定します。
  • pHセンサー: 発酵液のpHを直接測定するため、通常は循環ラインやサンプリングラインに設置されます。発酵液は固形物を含むため、詰まりにくく、洗浄機能付きのセンサーや、耐久性の高い電極を選ぶことが重要です。定期的な校正が精度維持のために欠かせません。

これらのセンサーからのリアルタイムデータに基づき、加温装置やアルカリ剤(または酸)の投入ポンプなどを自動制御することで、発酵プロセスを最適な状態に保ちます。

H₂S・CO₂オンライン分析によるガス品質管理

生成されたバイオガスは、主成分のメタン(CH₄)の他に、二酸化炭素(CO₂)、硫化水素(H₂S)、水分、微量の窒素や酸素などを含んでいます。

特にH₂Sは腐食性が高く、下流のガス利用設備(エンジン、ボイラー、燃料電池など)を損傷させる原因となるため、その濃度管理は極めて重要です。また、CO₂濃度はメタン濃度と対になるため、ガスの熱量(エネルギー量)を把握する上で重要な指標となります。

これらのガス組成をオンライン分析することにより、ガス品質をリアルタイムで把握し、適切な精製プロセス(脱硫、CO₂除去など)の制御や、ガス利用設備の保護に繋げることができます。

  • 設置場所: 通常、発酵槽出口、ガスホルダー出口、精製装置前後、ガス利用設備入口などに設置されます。
  • 測定方式: H₂S測定には電気化学式センサーや半導体式センサー、CO₂測定には非分散型赤外線吸収法(NDIR)を用いたセンサーが一般的です。メタン濃度も同時に測定できる複合型ガス分析計も広く利用されています。
  • 重要性: オンライン分析により、精製装置の運転効率(例:脱硫材の交換時期判断)を最適化したり、ガス品質の変動を早期に検知して利用設備への影響を未然に防いだりすることが可能になります。

流量・圧力センサで把握するガス生産量と安全性

バイオガスの生産量を正確に把握することは、プラントの効率評価や経済性評価を行う上で基本となります。また、ガスライン内の圧力を監視することは、設備の安全確保に不可欠です。

ガス流量センサー

  • 目的: 単位時間あたりのバイオガス生成量を測定します。日次、月次、年次の生産量データを蓄積し、プラントのパフォーマンス評価や改善点の特定に役立てます。
  • 設置場所: 発酵槽出口、ガスホルダー出口、ガス利用設備への供給ラインなどに設置されます。
  • 測定方式: 熱式質量流量計、超音波流量計、オリフィス式流量計などが用いられます。バイオガスは水分やダストを含むことがあるため、これらに耐性のあるセンサーを選定する必要があります。

ガス圧力センサー

  • 目的: ガスライン内の圧力が、設計された許容範囲内に収まっているか監視します。異常な圧力上昇や低下は、配管の詰まり、リーク、設備の異常などを示す可能性があり、早期検知が重要です。
  • 設置場所: 発酵槽、ガスホルダー、ガスブロワー前後、ガス利用設備入口など、圧力管理が必要な箇所に設置されます。
  • 役割: 設定値を超えた場合に警報を発したり、緊急遮断弁を作動させたりするなど、安全保護システム(インターロック)の一部としても機能します。

これらのセンサーデータを統合的に管理することで、ガス生産状況を正確に把握し、プラント全体の安全な運転を確保します。

PLC・DCS・SCADAを組み合わせた制御システム

バイオガスプラントの自動化は、役割の異なる複数の制御システムの組み合わせで構成されるのが一般的です。代表的なものはPLC、DCS、SCADAがあり、これらを連携させることで、現場レベルの制御からプラント全体の監視・管理までを効率的に行います。

このシステムにより、各機器の個別制御、プロセス間の連携、運転データの収集・分析、遠隔からの監視・操作といった、プラント運用に必要な様々な機能を実現します。

小規模プラントではPLCとSCADA(またはHMI)のみで構成されることもありますが、中~大規模プラントや複数拠点を統合管理する場合は、DCSを加えた構成が有利になります。

PLCによる一次制御とPID最適化

PLC(プログラマブルロジックコントローラ)は、バイオガスプラントの現場レベルにおける自動制御の主役です。センサーからの入力信号を受け取り、あらかじめプログラムされたロジックに基づいて、ポンプ、バルブ、モーター、ヒーターなどのアクチュエータを直接制御します。

  • シーケンス制御: 原料投入、撹拌、ガス移送など、あらかじめ定められた手順に従って機器を順番に動作させます。
  • フィードバック制御: センサーで測定した値(温度、pH、液位など)が目標値になるように、制御対象(ヒーター、投入ポンプなど)の動作を連続的に調整します。この際、PID制御(比例・積分・微分制御)が広く用いられます。
  • P(比例)動作: 目標値との偏差に比例した操作量を出力します。
  • I(積分)動作: 偏差が残り続ける場合に、操作量を時間とともに増加(または減少)させ、定常偏差をなくします。
  • D(微分)動作: 偏差の変化率に応じて操作量を出力し、急激な変化を抑え、安定性を高めます。
  • インターロック制御: 異常発生時(例:圧力異常、液位異常)に、関連機器を安全な状態に停止させる保護制御を行います。
  • PIDパラメータ(Pゲイン、I時間、D時間)の最適化(チューニング)は、制御性能(応答速度、安定性、目標値への追従精度)を決定する上で非常に重要です。不適切なチューニングは、発酵槽の温度変動やpH変動を招き、発酵効率を低下させる原因となります。

DCS集中管理とヒストリカルデータの活用

DCS(分散制御システム)は、プラント内に分散配置された複数のPLCやコントローラーをネットワークで接続し、中央制御室などでプラント全体の運転状況を統合的に監視・制御するためのシステムです。

PLCが個別のループ制御やシーケンス制御を得意とするのに対し、DCSはより広範なプロセス連携や高度な制御ロジック、そして大量の運転データの管理に適しています。

DCSの主なメリット

  • 集中監視・操作: プラント全体の運転状況をグラフィカルな画面で一元的に把握し、中央から効率的に操作できます。
  • プロセス連携: 複数の工程(投入、発酵、精製、発電など)を連携させた高度な制御が可能です。
  • ヒストリカルデータ管理: 温度、pH、流量、ガス組成、機器の運転状態など、プラント内の様々なデータを時系列でデータベース(ヒストリアン)に自動記録します。このヒストリカルデータは、以下のような目的に活用されます。
  • 運転状況の分析: 過去のデータトレンドを分析し、運転パターンの把握や問題点の特定に役立てます。
  • 効率評価: ガス生産量、エネルギー消費量などのデータを基に、プラントの効率を評価・比較します。
  • トラブルシューティング: 異常発生時の過去データを参照し、原因究明の手がかりとします。
  • レポート作成: 日報、月報などの運転レポートを自動作成します。
  • 予兆保全: 機器の劣化傾向などを分析し、故障を未然に防ぐためのデータとして活用します(後述)。

DCSは、特に中~大規模なバイオガスプラントにおいて、効率的かつ安定した運用を実現するための基幹システムとなります。

SCADA/HMIでの遠隔監視・アラーム管理

SCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)は、プラントの監視(Supervisory Control)とデータ収集(Data Acquisition)に特化したシステムです。

PLCやDCSなどの制御システムからデータを収集し、HMI(ヒューマンマシンインターフェース)と呼ばれる操作・表示画面を通じて、オペレーターに分かりやすく提示します。

HMIは、パソコンの画面や専用タッチパネルなどで構成され、以下のような機能を提供します。

  • リアルタイム監視: プラントの概略図(グラフィック画面)上に、センサーの測定値や機器の運転状態をリアルタイムで表示します。
  • トレンド表示: 温度、pH、ガス流量などの時系列変化をグラフで表示し、運転状況の推移を把握しやすくします。
  • アラーム管理: センサーの値が設定範囲を逸脱したり、機器に異常が発生したりした場合に、画面表示や音、ランプなどでオペレーターに警報(アラーム)を発します。アラームの発生履歴も記録され、原因究明に役立ちます。
  • 遠隔操作: 権限のあるオペレーターが、遠隔地からプラントの機器を操作(起動、停止、設定値変更など)することを可能にします。
  • レポート作成: 収集したデータに基づき、定型的な運転レポートを自動生成します。

最近はWebベースのSCADAモバイルHMIも普及しており、事務所のPCやタブレット、スマートフォンなどから、いつでもどこでもプラントの状態を確認し、必要に応じて操作することが可能になっています。

これにより、少人数のスタッフでも効率的なプラント管理が可能で、迅速な異常対応も実現します。

AI・IoTを活用した高度自動化と予兆保全

最近はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術を、バイオガスプラントの計装・制御システムに導入する動きが活発化しています。

これによって、従来の自動化では難しかったより高度なプロセスの最適化や、故障を未然に防ぐ予兆保全が可能になりつつあり、プラントのさらなる効率向上、コスト削減、そして省人化・無人化運転の実現に貢献すると期待されています。

海外のAI・IoT活用事例

欧州バイオガス協会(EBA)のカンファレンスではAI活用事例などが活発に議論されており、AIを活用したプロセス最適化によって原料投入量の最適化や、ガス生成量の予測精度向上といった効果が報告されています。

欧州バイオガス協会(EBA):Biogas Intelligence+

また、予兆保全技術は、計画外のダウンタイムを最大50%削減し、メンテナンスコストを最大30%削減する可能性があるとされています。

ドイツの研究機関「フラウンホーファー IKTS」では、AI制御によるバイオガス生産の研究が進められており、過去の運転データと気象データ(気温、湿度など)をAIに学習させ、数時間~数日後のバイオガス生成量を高精度で予測するシステムを開発しています。

これにより、発電計画の最適化や電力系統への負荷変動を低減させたり、振動センサーや温度センサーのデータをAIで分析し、ポンプや撹拌機の異常な兆候を早期に検知し、故障前にメンテナンスを行う予兆保全も実現しています。

フラウンホーファー IKTS:AI-controlled biogas production

機械学習によるガス生成量予測と負荷平準化

メタン発酵プロセスは、投入される原料の種類や量、温度、pHなど多くの要因が複雑に絡み合って進行するため、将来のガス生成量を正確に予測することは容易ではありません。

しかし、機械学習(Machine Learning)を用いることで、過去の膨大な運転データ(投入原料データ、センサーデータ、ガス生成量データなど)や、場合によっては気象データなどを学習し、高精度なガス生成量予測モデルを構築することが可能です。

この予測モデルを活用することで、以下のようなメリットが期待できます。

  • 原料投入計画の最適化: 将来のガス生成量を予測し、目標とする生成量を安定して達成するために最適な原料投入量や投入タイミングを計画できます。
  • エネルギー需給調整: バイオガス発電を行う場合、電力需要の変動に合わせて発電量を調整する必要があります。ガス生成量を予測できれば、事前に発電計画を立てやすくなり、電力系統への負荷を平準化できます。余剰電力の抑制や、電力価格が高い時間帯を狙った発電なども可能になります。
  • プロセス異常の早期検知: 実際のガス生成量が予測値から大きく乖離した場合、プロセスに何らかの異常が発生している可能性を示唆します。これにより、問題の早期発見と対処が可能になります。

機械学習モデルの精度を維持するためには、継続的に最新のデータを学習させ、モデルを更新していくことが重要です。

クラウドIoTゲートウェイを用いた遠隔データ統合

IoT技術の進展により、プラント内に設置された多数のセンサーやPLC、制御機器から得られるデータを、インターネットを介してクラウド上のサーバーに集約・統合管理することが容易になりました。このデータの通り道となるのがIoTゲートウェイです。

クラウドIoTゲートウェイを活用するメリットは以下の通りです。

  • 遠隔監視・管理の強化: インターネット環境があれば、場所を選ばずにプラントのリアルタイムデータにアクセスし、状況を把握できます。複数拠点のプラントデータを一元的に管理することも可能です。
  • データ蓄積・分析基盤: クラウドサーバーは、オンプレミス(自社設置型)サーバーに比べて、大容量データの蓄積や高度なデータ分析(AI活用など)に適した環境を提供します。スケーラビリティ(拡張性)にも優れています。
  • 外部サービス連携: 天気予報データ、エネルギー市場データ、サプライチェーン情報など、外部の様々なデータやサービスとプラントデータを連携させ、より高度な分析や最適化を行うことが可能になります。
  • 保守・運用の効率化: クラウドを利用することで、自社でサーバーを管理する手間やコストを削減できます。ソフトウェアのアップデートなどもクラウド側で提供されることが多く、運用負荷が軽減されます。

ただし、クラウドを利用する際には、サイバーセキュリティ対策が非常に重要になります。

デジタルツインと予兆保全で実現する無人運転

デジタルツイン(Digital Twin)とは、物理的なプラント(実機)の構造、状態、挙動を、リアルタイムデータに基づいて仮想空間上に忠実に再現する技術です。

総務省:デジタルツインって何?

IoTセンサーから送られてくるデータを用いて、デジタルツイン上のプラントモデルを常に最新の状態に保ちます。

デジタルツインを活用することで、バイオガスプラントの高度な運用が可能になります。

  • 運転シミュレーション: 実際のプラントに影響を与えることなく、仮想空間上で様々な運転条件(原料変更、設定値変更など)をシミュレーションし、最適な運転方法を事前に検討できます。オペレーターのトレーニングにも活用できます。
  • 予兆保全(Predictive Maintenance): デジタルツイン上で機器の稼働状況や劣化進行をシミュレーションし、実際のセンサーデータと比較することで、異常の兆候を早期に検知します。AIと組み合わせることで、「いつ」「どの部品が」故障する可能性が高いかを予測し、最適なタイミングでのメンテナンス計画立案を支援します。これにより、突発的な故障によるダウンタイムを大幅に削減できます。
  • 無人運転への貢献: 高度な状況監視、シミュレーションによる最適運転計画、予兆保全による安定稼働が実現できれば、プラントの省人化・無人運転に大きく近づきます。異常発生時にも、遠隔からの状況把握と対処指示が可能になります。

デジタルツインの構築には高度なモデリング技術と大量のリアルタイムデータが必要ですが、プラントライフサイクル全体での価値創出が期待される技術です。

安全計装システム(SIS)とリスクマネジメント

バイオガスプラントは、可燃性ガスであるメタンを取り扱い、高温・高圧になる箇所もあるため、潜在的なリスク(火災、爆発、ガス漏洩など)を伴います。

これらのリスクを許容可能なレベルまで低減し、人命、環境、設備を守るためには、通常の制御システム(BPCS: 基本プロセス制御システム)とは独立した安全計装システム(SIS: Safety Instrumented System)の構築が不可欠です。

SISは、危険な状態を検知し、プラントを自動的に安全な状態に移行させるための最後の砦となるシステムです。リスクアセスメントに基づいた適切な設計・運用が求められます。

プラントにおける重大事故の多くは、制御システムの故障やヒューマンエラーが原因となっています。

国際規格であるIEC 61508およびIEC 61511は、機能安全の考え方に基づき、リスクアセスメントからSISの設計、運用、保守に至るまでのライフサイクル全体にわたる要求事項を定めています。

これらの規格に準拠することは、プラントの安全性を客観的に証明し、規制当局や社会からの信頼を得る上で重要です。米国化学工学会(AIChE)のデータによると、適切に設計・運用されたSISは、重大事故の発生確率を大幅に低減させる効果があることが示されています。

バイオガスプラントにおいても、メタンガス漏洩検知器、緊急遮断弁、火炎検知器などをSISの構成要素として組み込み、多重の安全対策を講じることが一般的です。

SIL評価とフェイルセーフ設計のポイント

SISの設計において中心的な概念となるのがSIL(Safety Integrity Level:安全度水準)です。

SILは、SISが危険事象の発生を防止または軽減するために、要求される機能(安全機能)をどの程度の信頼性で実行できるかを示す指標です。

  • SIL評価(SILアセスメント): プラントに潜むハザード(危険源)を特定し、その発生頻度と影響の大きさからリスクを評価します。そして、そのリスクを許容可能なレベルまで低減するために、各安全機能が達成すべきSILレベル(SIL 1~SIL 4、数値が大きいほど要求信頼性が高い)を決定します。LOPA(Layer of Protection Analysis)などの手法が用いられます。
  • SIL検証: 設計されたSIS(センサー、ロジックソルバー、最終操作要素の組み合わせ)が、目標とするSILレベルを達成できる確率(PFD: Probability of Failure on Demand)を計算し、検証します。
  • フェイルセーフ設計: SISの構成要素(センサー、コントローラー、バルブなど)が故障した場合でも、必ず安全側に動作する(例:異常時にバルブが閉じる)ように設計する考え方です。これにより、故障時でもプラントが危険な状態に陥ることを防ぎます。冗長化(二重化、三重化)設計も、システムの信頼性を高める上で重要です。

SIL評価に基づき、認証された機器を選定し、フェイルセーフの原則に従ってSISを設計・構築・維持管理することが、プラントの機能安全を確保する上で不可欠です。

防爆エリアにおける計装機器の選定

バイオガスプラント内、特に発酵槽周辺、ガスホルダー、ガス配管周辺、精製設備、ガス利用設備などは、可燃性ガスであるメタンが存在する可能性があるため、防爆エリア(危険場所)として指定されることが一般的です。

これらのエリアに設置する計装機器(センサー、伝送器、アクチュエータなど)は、着火源となることを防止するための防爆構造を備えている必要があります。

防爆構造にはいくつかの種類があり、危険場所の種類(ガスの種類、存在する可能性)に応じて適切な構造を選定する必要があります。

主な防爆構造の種類

  • 耐圧防爆構造 (Ex d): 機器内部で爆発が発生しても、その圧力が外部に伝わらず、かつ外部の可燃性ガスに引火させない構造。
  • 本質安全防爆構造 (Ex i): 回路のエネルギー(電圧、電流)を、可燃性ガスに点火できないレベルまで低く抑える構造。
  • 安全増防爆構造 (Ex e): 正常運転中にアークや火花、高温部を発生させないように、構造上の安全度を高めた構造。
  • 内圧防爆構造 (Ex p): 機器内部に保護ガス(空気など)を圧入し、外部の可燃性ガスが侵入しないようにする構造。

選定のポイント

  • 設置場所の危険場所分類(Zone 0, 1, 2)ガスグループ(対象ガスの種類)に適合した防爆構造・等級の機器を選定する。
  • 国内では労働安全衛生法に基づく型式検定に合格した機器、国際的にはIECExATEX指令などの認証を取得した機器を選定することが一般的です。
  • 設置工事や配線も、防爆に関する規定(例:電気設備技術基準)に従って行う必要があります。

不適切な機器の選定や設置は、重大な爆発事故に繋がる可能性があるため、専門知識に基づいた慎重な対応が求められます。

サイバーセキュリティ対策とIEC 62443準拠

IoTやクラウドの活用が進むにつれて、バイオガスプラントの制御システムもサイバー攻撃の脅威に晒されるリスクが高まっています。

制御システムへの不正アクセスは、誤操作によるプラント停止、機密情報(運転データなど)の漏洩、さらには安全機能の無効化による重大事故を引き起こす可能性があります。

そのため、物理的な安全対策(SISなど)に加えて、サイバーセキュリティ対策を講じることが不可欠です。産業用制御システムのセキュリティに関する国際規格シリーズであるIEC 62443は、そのための包括的なフレームワークを提供しています。

IEC 62443の主な要求事項

  • リスクアセスメント: 制御システムに対するサイバー脅威と脆弱性を評価し、リスクレベルを決定します。
  • ゾーンとコンジット: 制御システムをセキュリティレベルに応じてゾーン(区画)に分割し、ゾーン間の通信経路(コンジット)を定義してアクセス制御を行います。
  • セキュリティレベル(SL): 各ゾーンに対して達成すべきセキュリティレベル(SL 1~SL 4)を定義します。
  • 技術的対策: ファイアウォール設置、不正侵入検知システム(IDS/IPS)導入、アクセス権管理、パスワード強化、データの暗号化、脆弱性対策(パッチ適用)、マルウェア対策などを実施します。
  • 組織的対策: セキュリティポリシー策定、従業員教育、インシデント対応計画策定、サプライチェーン管理などを実施します。

制御システムは、一般的なITシステムとは異なり、可用性(止まらないこと)が最優先されるなどの特性があるため、制御システム特有のセキュリティ対策が必要です。

IEC 62443に準拠した対策を導入することで、サイバーリスクからプラントを保護し、安全かつ安定した操業を維持することができます。

PwC Japanグループ:IEC 62443シリーズの概要と近年の動向

国内外の計装・自動化導入事例

計装・制御システムと自動化技術は、世界中のバイオガスプラントで導入が進んでおり、それに伴ってより高度な自動化・最適化技術への需要が高まっています。

特に欧州では、FIT(固定価格買取制度)の見直しなどを背景に、既存プラントの効率改善や運転コスト削減が重要な課題となっており、AIやIoTを活用したソリューションが注目されています。

また、アジア地域では、急速な経済成長に伴うエネルギー需要の増加と廃棄物処理問題への対応として、新規プラント建設が進んでおり、クラウドベースの監視システムなどが導入されています。

これらの事例は、技術導入の目的や効果が地域やプラントの特性によって異なることを示唆していますが、いずれも計装・制御・自動化がプラントの効率性、経済性、安定性、安全性の向上に不可欠であることを示しています。

日本:中温連続式プラントの省エネ型自動制御

日本のバイオガスプラントは、家畜ふん尿や食品廃棄物を主原料とする中規模の中温連続式(投入と排出を連続的に行う)が多いという特徴があります。

これらのプラントでは、安定した発酵状態の維持省エネルギー運転が重要な課題となっています。

プラント制御のポイント

  • 精密な温度・pH制御: 複数のセンサーで発酵槽内の状態を詳細に把握し、PID制御を最適化することで、加温エネルギーのロスを最小限に抑えつつ、安定した温度(例:38℃±0.5℃)とpH(例:7.0±0.2)を維持します。
  • 原料投入量の自動調整: 投入原料の性状(TS、VS濃度など)をオンラインで計測し、そのデータに基づいて投入ポンプの運転時間や速度を自動調整することで、発酵槽への有機物負荷を一定に保ち、発酵不良を防ぎます。
  • 省エネ型撹拌制御: 発酵槽内のVFA濃度やガス発生量に応じて、撹拌機の運転時間や強度を自動で最適化します。不要な撹拌を減らすことで、電力消費量を削減します。
  • 統合監視システム: PLCとSCADA/HMIを連携させ、プラント全体の運転状況(温度、pH、ガス量、電力消費量など)をリアルタイムで監視。異常発生時には自動でアラームを発報し、遠隔からの状況確認や一部操作も可能です。

導入効果

  • メタン発酵効率の安定化・向上
  • 加温や撹拌に必要なエネルギー消費量の削減(例:10~15%削減)
  • オペレーターの監視・調整作業の負担軽減
  • 安定したバイオガス生産による売電収入や熱利用の安定化

JFEエンジニアリング株式会社:デジタルツインによるプラント操業最適化

農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構):家畜ふん尿を利用したバイオガス プラントの長期的稼働の実証

欧州:AI自律制御で運転コストを20%削減した事例

バイオガス先進地域である欧州、特にドイツなどでは、プラントの大型化や原料の多様化が進んでいます。

FIT価格の低下などにより、運転効率のさらなる向上とコスト削減が求められており、AIを活用した高度な自動制御(自律制御)の導入が進んでいます。

プラント制御のポイント

  • AIによるプロセス最適化: 過去の膨大な運転データ、原料データ、気象データ、エネルギー市場価格データなどをAI(機械学習)で解析。ガス生成量予測、最適な原料配合・投入タイミングの決定、発電計画の最適化などをAIが自律的に行います。
  • リアルタイム適応制御: センサーデータをリアルタイムでAIが分析し、発酵槽の状態変化や外部環境の変化(気温、電力価格など)に即座に対応して、制御パラメータ(温度設定、撹拌強度、原料投入量など)を自動で微調整します。
  • 予兆保全との連携: AIが機器の異常兆候を検知し、メンテナンスが必要な箇所や時期を予測。メンテナンス計画の最適化により、突発的な故障による損失を防ぎます。
  • クラウドベースのプラットフォーム: AIモデルの学習や推論、大量のデータ処理はクラウド上で行われ、常に最新のアルゴリズムを利用できます。

導入効果

  • 運転コストの大幅削減 原料コストの最適化、エネルギー消費量の削減、メンテナンスコストの削減、人件費の削減など。
  • バイオガス収量の最大化と安定化。
  • オペレーターの高度な専門知識への依存度低減。
  • プラントの収益性向上。

フラウンホーファー IKTS:AI-controlled biogas production

アジア:クラウドSCADAで複数サイトを統合監視

アジア地域では、都市部での廃棄物処理や地方での再生可能エネルギー導入を目的として、中小規模のバイオガスプラントが各地に建設されるケースが増えています。

これらの分散したプラントを効率的に管理・運用するために、クラウドベースのSCADAシステムが活用されています。

プラント制御のポイント

  • 複数拠点の統合監視: 各プラントのPLCやセンサーデータをIoTゲートウェイ経由でクラウドサーバーに集約。中央監視センターや担当者のPC、スマートフォンから、全てのプラントの運転状況(ガス発生量、稼働状況、アラームなど)を地図上やリスト形式で一元的に監視できます。
  • 遠隔診断・サポート: 専門技術者が遠隔地からプラントデータにアクセスし、運転状況の分析やトラブルシューティング、現地スタッフへの技術サポートを行うことが可能です。
  • データ共有と比較分析: 複数プラントのデータをクラウド上で比較分析し、優良事例の共有や、特定のプラントにおける問題点の早期発見に繋げます。ベンチマーキングによる効率改善も可能です。
  • 低コスト・短期間での導入: クラウドサービスを利用するため、自社で大規模なサーバー設備を用意する必要がなく、比較的低コストかつ短期間で遠隔監視システムを構築できます。

導入効果

  • 分散したプラントの効率的な集中管理体制の実現。
  • 移動時間や人件費の削減。
  • 迅速な異常検知と対応によるダウンタイムの削減。
  • 各プラントの運転ノウハウの共有と標準化。

atvise®:Biogas Plant Automation with atvise® scada

ESI:Biogas Plant SCADA Systems


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