英国のスタートアップ「BlueMethane」は、消化液や発酵残渣から溶存メタンを回収できる画期的なメタン回収装置を開発し、英国ワイト島のバイオガスプラントに設置したことを発表しました。
AgFunderNews:Bluemethane deploys first production-scale methane-capture unit at biogas plant
この装置によって消化液から溶存メタンを回収し、さらに付加価値の高い回収メタン(バイオメタン)に変換することで、メタン排出削減とバイオガスプラントの収益性向上を同時に実現できます。
画像:ReGenEarth YouTubeチャンネルより
消化液や発酵残渣に残る溶存メタン
バイオガスプラントのメタン発酵槽(ダイジェスター)から発生する消化液や発酵残渣には、未回収のメタンが多く残っており、通常は回収されずに大気へ放出されてしまいます。
この未回収メタンは環境に悪影響を及ぼすだけでなく、プラント運営者にとって収益機会の損失になります。
消化液や発酵残渣に残る溶存メタンの問題は以前から認識されていましたが、技術面やコストの問題もあり、既存のバイオガスプラントでは積極的に行われてきませんでした。
しかし、メタンは環境への影響が大きく、プラント運営者から資源を最大限に活用して収益化したいという要請も高まっており、溶存メタンの回収技術が注目され始めています。
また、メタンは二酸化炭素の28倍以上(IPCC第5次評価報告書、100年GWP)の温室効果を持つ強力なガスであり、未回収のまま排出されるメタンの削減が必要とされています。
BlueMethane 溶存メタンの回収技術
この未回収メタン問題を解決するため、英国スタートアップ企業のBlueMethane社が画期的なメタン回収装置を開発しました。
メタン発酵槽の後部に設置するこのコンパクトな装置は、従来の燃焼・フレアリングや化学吸収法とは異なり、物理的な撹拌を利用して消化液から溶存メタンを回収します。
この技術は基本的な物理原理に基づくシンプルな仕組みで、ボトルの炭酸水を振って開けると泡が噴き出すように、圧力や温度を精密制御して気泡化を促進し、効率的にメタンを気化させます。
装置は20フィートコンテナに収まるモジュール型で、既存のバイオガスプラントに容易に組み込み可能です。また、低エネルギーで稼働するよう設計され、消費電力は従来方式の数分の一に抑制されています。
Bluemethane:technology: Revolutionising methane capture at the source
バイオガス収量の増加と収益性の改善
BlueMethaneの技術は単なる環境対策に留まらず、バイオガスプラントの収益性を大幅に向上させます。
この技術を用いて溶存メタンを回収すれば、バイオガス生産量が向上すると試算されています。これは、同量の原料からより多くのエネルギーを生産できることを意味し、収益性の増加に繋がります。
また、原料投入量を削減して従来通りの生産量を維持することも可能になり、プラントの運転効率を最適化できます。
回収したメタンは温室効果ガス排出の削減とみなされるため、カーボンクレジットの創出が可能で、市場で売却すればプラント事業者にとって新たな収益の柱となります。
BlueMethaneは溶存メタン量を正確に計測するため、英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)と、Innovate UK(英国の技術革新を支援する政府系機関)からの助成金を受け、メタン計測技術を開発しています。
Bluemethane:Bluemethane wins Innovate UK grant
項目 | BlueMethane技術導入によるメリット |
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経済的メリット | ・バイオガス収量増加による売上向上 ・運転効率の改善 ・カーボンクレジット創出による新規収益 |
環境的メリット | ・温室効果ガス(メタン)排出量の大幅削減 ・資源の循環利用(サーキュラーエコノミー)の促進 |
運用的メリット | ・既存設備への容易な導入 ・EU産業排出指令(IED)などの環境規制への対応 |
英国ワイト島で溶存メタン回収の実証
BlueMethaneは英国ワイト島の再生可能エネルギー事業者 ReGenEarth と連携して、初の実証機「Stephanie」の稼働を開始しました。
ReGenEarth:Meet Stephanie | Methane-capturing system changing Biomass
Stephanie は現場の消化槽に接続され、溶存メタンや残渣からガス回収を行っています。これにより、同プラントの温室効果ガス排出削減効果は大きく高まると見込まれています。
市場へのインパクトと今後の展望
BlueMethanの技術の最大の強みは、既存のバイオガスプラントに後付けできる点です。この装置によって大規模な初期投資を必要とせずに、環境性能と経済性を大きく向上させることができます。
BlueMethaneは、著名なアグリフードテック専門のベンチャーキャピタルであるAgFunderの支援を受けており、その技術とビジネスモデルは高く評価されています。
また、BlueMethaneは今後、溶存メタン回収装置の普及拡大に加えて「メタン生成自体を抑制する技術」の研究にも注力すると発表しています。
すでに英国の水道会社4社と協業しており、排水や下水汚泥のメタン生成菌を非活性化させることで、メタン排出をさらに削減し、付加価値を生み出すかを探っています。
この研究は、バイオガス分野におけるスコープ3排出回避策として注目されます。
BioEnergy Times:UK startup Bluemethane deploys first full-scale methane capture unit to unlock biogas potential