埋立地ガス(LFG:Landfill Gas)とは、最終処分場に埋め立てられた廃棄物が、微生物によって分解される過程で発生するガスです。
主成分はメタンと二酸化炭素で、そのまま放置すると強力な温室効果ガスとして大気へ漏出しますが、適切に回収すれば発電燃料やバイオメタン、さらには水素の原料として有効活用が可能です。
埋立地ガスは処分場から恒常的に発生するため、収集や運搬の手間がかからず、原料調達リスクの低いエネルギー源として注目を集めています。
この記事では、埋立地ガスの基礎知識として、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 組成と特有の不純物
- 主な3つの活用用途
- 日本で事業化が進みにくい構造的な理由
- 回収率を大きく左右する要素
参考記事:バイオガスプラントの仕組み 基礎知識やメリット・建設コストを解説
埋立地ガス(LFG)とは

埋立地ガスとは最終処分場の廃棄物層内で、有機物が嫌気性分解されて発生するガスの総称です。
米国環境保護庁(EPA)は、埋立地ガスをおおむねメタン50%、二酸化炭素50%に少量の非メタン有機化合物を加えた組成と定義しています。
その規模は小さくありません。米国では都市ごみ最終処分場は、人が起源のメタン排出の第3位の発生源であり、2022年時点で人為起源メタン排出の約14.4%を占めています。
US EPA:Basic Information about Landfill Gas
米国バイオガス協議会(ABC)によると、2026年7月時点で598件の埋立地ガス回収システムが稼働しており、米国で回収されるバイオガス全体の約4分の3を供給しています。
2025年には20件が新たに稼働し、39.9Bcfの回収能力が加わりました。これは同年に米国のバイオガス分野全体で追加された新規容量の約75%にあたります。
American Biogas Council:Landfill Gas Continues to Drive U.S. Renewable Natural Gas Growth
まだ開発余地は大きく、ABCはEPAの埋立地メタン回収プログラム(LMOP)の分類に基づき、今後の開発に適した埋立地が約705か所残っていると推計しています。
なお、廃棄物層では埋立直後に残存酸素が消費される好気性分解が起こり、その後に酸生成、メタン生成へと移行します。エネルギー利用の対象になるのは、メタン濃度が安定する後半の段階です。
これは消化槽内で進むメタン発酵の4段階(加水分解・酸生成・酢酸生成・メタン生成)とは別の現象で、屋外の廃棄物層で数十年かけて進行する点が異なります。
参考記事:メタン発酵の仕組みと微生物の役割 バイオガス生成技術
メタン発酵ガスとの違い
同じ「バイオガス」でも、家畜ふん尿や食品廃棄物を原料とするメタン発酵ガス(消化ガス)とは、組成も扱いやすさも異なります。
| 比較軸 | メタン発酵ガス(消化ガス) | 埋立地ガス(LFG) |
|---|---|---|
| 発生場所 | 密閉された消化槽 | 屋外の廃棄物層 |
| メタン濃度 | 50〜70% | 45〜60% |
| 濃度の安定性 | 原料と運転条件で制御可能 | 埋立年数・降雨・気温で変動 |
| 窒素・酸素 | ほとんど混入しない | ガス井から空気を引き込み混入しやすい |
| 特有の不純物 | 硫化水素、アンモニア | シロキサン、塩素・フッ素化合物、揮発性有機化合物 |
| 原料コスト | 収集・運搬が必要 | 処分場で恒常的に発生 |
制御性ではメタン発酵ガスが優れ、原料調達では埋立地ガスが優れる、という関係になります。
参考記事:バイオガスの主成分とエネルギー特性
精製設備に影響する不純物

埋立地ガスが扱いにくい要因は、主成分よりも微量成分にあります。
- シロキサン:シャンプーや化粧品、洗剤などのパーソナルケア製品に由来する有機ケイ素化合物。燃焼するとシリカとなってエンジン内部に堆積し、改質触媒や燃料電池では被毒の原因になる
- 塩素・フッ素化合物:塩化ビニルやトリクロロエチレンなどのハロゲン化合物。燃焼時に酸性生成物を生じるため除去が必要になる
- 硫化水素:水分と反応して硫酸を生成し、配管や熱交換器を腐食させる
- 窒素・酸素:ガス井から空気を引き込むために混入する。窒素は約1〜17%、酸素は1%未満の範囲で検出される
このうち埋立地ガス特有の課題として窒素の混入があり、バイオメタン化のコストを直接押し上げています。
窒素分離工程とコストの問題
メタン発酵ガスであれば、水スクラビングや膜分離で二酸化炭素を除去すればバイオメタンになります。
しかし、窒素はメタンと分子の大きさが近く、吸着材や膜での選択性を確保しにくい成分です。ゴム状膜でのCH₄/N₂選択性は2〜4程度にとどまり、一般的なCO₂除去プロセスでは分離できません。
そのため、埋立地ガスをバイオメタン化する場合、CO₂除去とは別に窒素分離工程が必要になります。
現在の主流は平衡型PSAで、メタンロスは1.5〜4%程度です。超大型案件では深冷分離、窒素濃度がやや高い案件では膜分離が用いられます。この工程が設備費と消費電力を押し上げます。
PSAは窒素10%程度までを想定して設計されるため、これを超えるとサイクル時間の短縮や製品ガスの再循環が必要になり、電力消費が増えます。電力費は埋立地ガス精製における最大の投入コストです。
ただし、吸引圧を弱めて空気の引き込みを抑えればよい、という単純な話ではなく、臭気対策と規制順守のために十分な負圧をかけることが、かえって窒素濃度を押し上げるという関係にあります。
回収の運転管理と精製の採算性は、このトレードオフの上で連動しています。
参考記事:バイオガス精製技術 脱硫・CO₂除去からバイオメタン製造まで
埋立地ガス 精製水準で変わる用途

回収した埋立地ガスの使い道ですが、要求される精製水準によって大きく3つに分かれます。
| 用途 | 必要な精製水準 | 特徴 |
|---|---|---|
| 発電(ガスエンジン等) | 脱硫・除湿・シロキサン除去 | 最も一般的。設備が安価で、ガス品質の変動にも比較的強い |
| バイオメタン(RNG) | 上記に加えCO₂除去・窒素分離 | 都市ガス導管注入や車両燃料に利用。精製コストは上がるが販売価格も高い |
| 水素 | 改質触媒の被毒を防ぐ高度前処理 | バイオメタンを水蒸気改質(SMR)等で水素化。要求水準が最も厳しい |
米国では発電が主流、新規案件はRNGへ
米国では、現在も埋立地ガス施設の約4分の3(73%)が、発電または熱利用を続けています。
ただし新規案件の潮流は明確にバイオメタンへ傾いています。2025年に稼働した20件の新規埋立地ガス事業は、すべてRNG製造でした。埋立地ガスは今や米国のRNG生産の64%を占めています。
American Biogas Council:Landfill Gas Continues to Drive U.S. Renewable Natural Gas Growth
その先にある水素利用
さらにその先の用途として、埋立地ガス由来の水素が動き始めています。
インドネシア・西ジャワ州のサリムクティ埋立地では、プルタミナと現代自動車グループが埋立地ガスをバイオメタンへ精製し、水蒸気メタン改質によって低炭素水素を製造する事業を進めています。
なお、バイオガスから水素を得る経路は水蒸気改質だけでなく、EUのTITANプロジェクトのように、メタン分解とCO₂ドライリフォーミングを組み合わせて水素と固体炭素を得る経路も研究されています。
改質ではCO₂が発生するのに対し、TITANの経路ではCO₂も原料として消費し、炭素を固体として取り出せる点が異なります。
なぜ日本では埋立地ガス事業が広がらないのか
米国やヨーロッパ、オセアニアでは埋立地ガスが主要なバイオガス供給源のひとつになっている一方、日本では埋立地ガス発電の事例がほとんどありません。
これは海外と日本で埋立の仕組み自体が違っており、事業として成立する回収量が見込めないためです。
嫌気性埋立と準好気性埋立の違い

| 比較軸 | 嫌気性埋立(衛生埋立) | 準好気性埋立(福岡方式) |
|---|---|---|
| 採用地域 | 世界的に主流 | 日本の新設処分場の標準 |
| 構造 | 廃棄物層に空気が入らない | 集排水管から外気が自然対流で流入する |
| 分解の様式 | 嫌気性分解が支配的 | 好気性分解が進む |
| メタン発生量 | 多い | 抑制される |
| 浸出水の水質 | BOD・CODが長期間高いまま | 急速に改善する |
| ガス回収事業への適性 | 高い | 低い |
準好気性埋立は、福岡大学と福岡市が共同開発し、1975年に新蒲田埋立場で実用化された日本発の技術です。1979年には旧厚生省(現環境省)の最終処分場指針で、日本の標準構造として採用されました。
福岡市:廃棄物処理に係る国際環境技術協力
現在は国内約200か所の埋立地のうち、85%がこの構造を採っており、埋立地内に張り巡らせた集排水管から浸出水を排除し続けることで、管を通じて外気が流入します。
この酸素によって好気性分解が進むため、浸出水の水質が急速に改善する一方、メタンの発生そのものが抑制されます。
国立環境研究所:ニッポンの埋立地「準好気性埋立地」
加えて、日本では家庭ごみの大半が焼却処理され、埋め立てられるのは主に焼却灰です。分解対象となる有機物が最初から少ないため、この点でもガス発生量は限られます。
日本の処分場はメタン回収ではなく「元から発生させない」という設計思想で作られており、方法の優劣ではなく、目的が異なる並行した選択肢だと捉えるのが実態に近いといえます。
この考え方は国際的にも認められています。国連CDM理事会は2011年に、福岡方式による既存埋立場の改善をメタンの発生自体を抑制する手法として、カーボンクレジットの対象に認定しました。
実際に準好気性埋立技術は、途上国の廃棄物問題への対策として国際的に展開され、メタン発生の抑制に貢献しています。1991年のマレーシアを皮切りに、現在は21か国で採用されています。
そのため、日本企業が埋立地ガス事業に関わる場合、国内案件ではなく海外案件が主戦場になります。実際に、日本の総合商社が米国での埋立地ガス由来バイオメタン事業へ参入しています。
参考記事:双日が米国バイオメタン市場に参入 埋立地ガス(LFG)活用で事業拡大へ
埋立地ガスの回収方法と回収率

埋立地ガスの回収は、廃棄物層に垂直または水平のガス井(集ガス管)を打設し、ブロワで負圧をかけて吸引する方式が基本です。
集められたガスは、配管網を通じて凝縮水を分離する設備へ送られ、そこから利用設備へ供給されますが、ここで問題になるのが吸引の強さです。
負圧を強めすぎると、廃棄物層の表面から空気を引き込み、窒素・酸素濃度が上がってガス品質が低下します。また、地下に酸素が入ることで、内部の燻焼を招く危険もあります。
逆に弱すぎればメタンが大気へ逃げます。この調整が、埋立地ガス回収の運転管理の中心になります。
キャッピングが回収率と削減量を決める
ガス井を打てば回収が完結するわけではありません。回収率をほぼ決定づけるのは、廃棄物層表面のキャッピング(覆土封鎖)です。
不透水性のシートや覆土でガスの逃げ道を塞がなければ、吸引をかけても表面から大気へ漏出し続けます。
この差は数字にも表れており、EPAの排出量算定では、覆土の種類が不明な場合に回収率75%が既定値として用いられてきました。
しかし、衛星観測に基づく研究では、ロサンゼルスを除く44の埋立地について、事業者の報告値が平均70%(範囲40〜87%)であるのに対し、実測に基づく再計算では平均38%(範囲5〜90%)にとどまりました。
一方で、閉鎖済みかつ覆土と集ガス系統が適切に設計された処分場では85%以上、逆にオープンダンプでは約10%まで低下するとの分析もあります。
回収率が設計と維持管理によってこれほど開くという事実が、この分野の要点です。
また、メタンの温室効果は20年間の指標で二酸化炭素の約80倍とされるため、回収率の改善分はそのまま温室効果ガス削減量として計上できます。
既定値と実測値の乖離は、クレジットの信頼性にも影響します。実際にEPAは、回収効率の過大評価が排出量の過小評価を招いているとして、2025年1月から想定回収効率を10%引き下げる改正を提案しました。
事業性を改善する打ち手として、ガス利用設備の増設よりも、覆土の補修や集ガス系統の見直しのほうが、費用対効果に優れる場面が少なくありません。
埋立地ガス事業の採算性は、ガス利用設備の性能よりも先に、処分場側の土木工事の品質で決まる部分が大きいということです。
埋立地ガスを事業として成立させる条件
埋立地ガスは、処分場で恒常的に発生し収集・運搬を必要としない点で、原料調達リスクの低いエネルギー源です。
一方でメタン濃度が低く変動しやすく、窒素・酸素の混入やシロキサン・ハロゲン化合物を伴うため、メタン発酵ガスよりも精製の難易度は高くなります。
事業の成否を分けるのは、ガス利用設備よりもキャッピングと集ガス系統の設計です。回収率が販売量と削減量の双方を直接左右するためです。
日本国内では準好気性埋立が標準でガス発生量が限られるため、埋立地ガス事業の舞台は海外に移っています。
参考記事:ヨーロッパの主要バイオガス・RNGデベロッパー・設備メーカー
参考記事:オーストラリア・オセアニアの主要バイオガスプラントメーカー・プロバイダー

















