米国バイオガス協会(ABC)は2026年9月28日、米国の下水処理場における嫌気性消化の全国調査結果を公表しました。
日量100万ガロン(約3,785m³)以上を処理する約5,000施設のうち、嫌気性消化を導入しているのは1,213施設、約24%で、近年は新設と廃止がほぼ同数となりました。
調査では、大規模な処理場ほど導入率が高く、ガス量の少ない小規模な処理場では、設備投資を回収しにくい実態が示されました。
ABCは、未導入の施設すべてに嫌気性消化が広がれば、バイオガス回収量は約1.7倍に増えると試算しています。
この記事では、米国の嫌気性消化の導入状況と拡大余地、日本の下水処理場との共通点を整理します。
American Biogas Council:New ABC Report Finds More Opportunities to Put Wastewater Plants to Work
米国下水処理場の嫌気性消化 導入率と回収量
ABCの調査では、2026年9月時点で嫌気性消化を導入している米国の下水処理場は1,213施設です。全米にある約2,600か所のバイオガス施設のうち、下水処理場が約47%を占めます。
ただし、バイオガス回収量は下水処理場の割合が約13%と低く、年間約1,008億立方フィート(約28.5億m³)にとどまります。
農業系や埋立地のバイオガス施設と比較して、1施設あたりの規模が小さいことが背景にあります。
※ 以下参照リンクはABC報告書の全文で、名前・企業名・メールアドレスを入力すると入手できます。
American Biogas Council:2026 Wastewater Report
処理規模で導入率に大きな差

嫌気性消化の導入率は、概ね規模が大きいほど高くなります。日量3,000万ガロン(約11.4万m³)を超える処理場では75%以上が導入している一方、500万ガロン(約1.9万m³)未満では30%を下回ります。
施設数では24%にとどまるものの、嫌気性消化を導入した施設は、全米の下水処理量の約63%を担っています。大規模処理場ではすでに導入が進み、未導入施設の多くは中小規模の処理場です。
| 日量処理量(MGD) | 導入率 |
|---|---|
| 1未満 | 13% |
| 1〜2 | 22% |
| 2〜5 | 31% |
| 5〜10 | 48% |
| 10〜20 | 55% |
| 20〜30 | 58% |
| 30〜40 | 80% |
| 40超 | 76% |
※ MGDは日量100万ガロン(約3,785m³)、1MGD未満は調査対象外の参考値。出典:ABC報告書(2026年9月)
未導入施設まで広がれば回収量は約1.7倍

ABCは、未導入の3,787施設が嫌気性消化を導入した場合、年間のバイオガス回収能力は約1,718億立方フィート(約48.6億m³)まで拡大すると試算しています。
現在の約1,008億立方フィートから約1.7倍となり、ABCの換算では、発電に利用した場合は年間約121億kWh、最大190万世帯分に相当します。
ただし、これは日量100万ガロン以上の未導入施設すべてに設備を設置する前提の潜在量です。実際の導入には、処理規模や設備費、バイオガスの利用方法などを施設ごとに検討する必要があります。
小規模処理場で進まない嫌気性消化 新設と廃止が拮抗
小規模の処理場で嫌気性消化が広がらない理由として、回収できるバイオガス量が少なく、消化槽やガス利用設備への投資を回収しにくいことが挙げられます。
米国では1960~1990年に多くの消化槽が整備されましたが、2020年末以降に新設されたのは29施設でした。一方、2020年以降に26施設が嫌気性消化を廃止しており、新設と廃止がほぼ拮抗しています。
廃止理由は好気性消化への切り替えが最も多く、脱水機や濃縮機の導入、水熱炭化への移行、処理場の閉鎖も挙げられています。
回収したバイオガスの主な用途は、施設数ベースで発電・CHP(熱電併給)が55%と最も多く、熱利用が26%、フレアによる燃焼処分が13%です。
特にフレアを続けている施設は比較的小規模な処理場が多く、既存設備から回収済みのバイオガスを有効利用する余地も残されています。
RNG(再生可能天然ガス)は4%で、RNG化の比率は農業系の66%、埋立地の29%と比べて低い水準です。
参考記事:米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組み
既設消化槽を生かす混合消化とガス利用

ABCが今後の拡大策として挙げているのが既設消化槽の活用で、その一つが「混合消化」です。
混合消化は下水汚泥だけでなく、食品廃棄物やFOG(飲食店などから発生する油脂類)を外部から受け入れ、同じ消化槽で処理します。
ABCによると、外部の有機物を受け入れている下水処理場は全米で139施設です。報告書の詳細調査では、回答した308施設のうち92施設、約30%が受け入れていました。
報告書は、混合消化が多くの場合、消化槽の性能やバイオガス収量の改善につながるとしています。処理場側は廃棄物の受入料金を得られる点も利点です。
また、現在フレアでバイオガスを燃焼処分している施設のうち9施設では設備更新が進められており、4施設がRNG化、5施設がCHPへの転換を予定しています。
消化液(発酵後の残さ)は、回答339施設の74%が少なくとも一部を農地に還元しています。肥料として販売する29施設(8.6%)は、平均処理量が日量67〜80MGDの大型施設です。
米国の下水処理場では、新しい消化槽を増やすだけでなく、既設消化槽の活用拡大と、回収したガスや消化液の用途の高度化が進んでいます。
日本の下水処理場との比較 中小規模の採算が共通の壁
日本でも、嫌気性消化を導入している下水処理場は一部に限られています。
日本下水道協会によると、嫌気性消化槽を持つ処理場は全国で300か所程度で、近年は大きく増えていません。また、国土交通省によると、2024年度の下水汚泥エネルギー化率は約31%です。
公益社団法人 日本下水道協会:下水汚泥のエネルギー利用の課題
国土交通省:上下水道:脱炭素化/資源・エネルギー利用
国交省は、採算性を考慮したバイオガス発電のポテンシャルを処理水量2万m³/日以上の処理場で試算しています。これは約5.3MGDで、米国で嫌気性消化の導入率が30%を下回る「5MGD未満」と近い規模です。
国土交通省:資料3 下水道が有するポテンシャルと現状の取り組みについて
制度や設備費などの条件は異なるため単純比較はできませんが、一定規模を下回るとバイオガス設備の採算確保が難しくなる点は日米に共通しています。
一方、米国では日量100万ガロン未満でも嫌気性消化を運用する施設が103か所あります。
報告書は、地域の条件次第で小規模でも成立しうるとしており、混合消化による受入料金やガス量の確保は、その条件の一つになりえます。
参考記事:下水処理場のバイオガス発電 下水汚泥のエネルギー化
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