米国でバイオメタン(RNG)事業が成立するかどうかは、天然ガスの卸価格ではなく環境価値の水準でほぼ決まります。収益を支えるのは、主に次の3つの制度です。
- D3 RIN:連邦の再生可能燃料基準(RFS)に基づき発行
- 低炭素燃料基準(LCFS)クレジット:カリフォルニア州などが発行
- 45Zクリーン燃料生産税額控除:2025年からスタート
このページでは、3つの制度がどのように積み上がるのか、そして原料の違いによって収益がどれほど変わるのかを整理します。
米国RNG案件の評価や、海外からのバイオメタン調達を検討する際の基礎知識としてご活用ください。関連する用語はバイオガス・バイオメタン用語集もあわせてご参照ください。
米国RNGの収益は3階建て ガス代金は土台にすぎない
RNGは天然ガスと同等の品質まで精製されるため、ガスそのものは通常の天然ガス価格でしか売れません。
米国の天然ガス卸価格はMMBtuあたり数ドル程度で推移しており、精製設備の投資をこれだけで回収するのは困難です。そこに環境価値が積み上がって、初めて事業が成立します。
| 階層 | 内容 | 決まり方 |
|---|---|---|
| 土台 | 天然ガスとしての販売価格 | 市場価格(ヘンリーハブ等) |
| 1階 | D3 RIN(連邦・RFS) | 義務量と供給量の需給で変動 |
| 2階 | LCFSクレジット(州) | 基準CIとの差×供給量×クレジット単価 |
| 3階 | 45Z税額控除(連邦・税制) | CIに応じて算定、2029年末まで |
土台の販売価格が市場で決まるのに対し、1階から3階までは、いずれも政策によって設計された価値です。
1MMBtuあたりの収益イメージ
金額の感覚をつかむために、1MMBtuあたりで考えてみます。
土台となる天然ガスの販売価格は、年平均で数ドル程度であるのに対し、2025年の一般的な家畜ふん尿由来RNGはCIスコアが−31となり、45Zの控除価値だけで約14ドル/MMBtuに相当したとされます(Capstone試算)。
このように、環境価値がガス本体の価格を桁で上回っていることが分かります。ただし、D3 RINとLCFSについては、単価だけを見ても収益は確定しません。
D3 RINによる収益は「RIN単価×発行枚数」で決まり、その発行枚数はEPAが定める等価値係数に基づいて熱量から換算されます。LCFSクレジットも「基準CIとの差×供給熱量×クレジット単価」で算出されます。
つまり単価が同じでも、原料や用途が違えば収益額は大きく変わるのです。
RFSとD3 RIN 収益の柱となる連邦制度
RINはどのタイミングで発行されるのか
RFS(Renewable Fuel Standard)は、米国環境保護庁(EPA)が製油業者や燃料輸入業者に対して、一定量の再生可能燃料の使用を義務づける制度です。
この義務量をRVO(Renewable Volume Obligation)と呼び、義務を果たしたことを示す証票がRIN(Renewable Identification Number)です。
埋立地ガスや消化ガスに由来するRNGは、最も価値の高いD3(セルロース系バイオ燃料)に区分されます。
ただし、RINが発行されるのは、そのRNGが輸送用燃料として使われた場合に限られる点に注意が必要です。
都市ガス導管に注入して熱利用に回すだけでは、D3 RINは発生しません。つまりCNG車両やLNG車両への供給インフラが、そのままRIN発行量の上限になります。
米国のLFG事業がこの制度に支えられている構図については、双日が米国バイオメタン市場に参入でも触れています。
価格変動とRVOの関係
D3 RINの価格は需給で決まるため、年によって変動します。RNG大手OPAL Fuelsの開示によると、D3 RINの平均価格は2024年の3.13ドル/1RINから、2025年には2.45ドルへと約22%下落しました。
その背景にあるのは、供給の伸びに対して需要側の義務量が追いついていない構図です。
American Biogas Council(ABC)の推計では、D3燃料の生産は2020年以降、年20〜30%のペースで伸びています。
これに対し、EPAが2026年3月に確定させたSet 2最終規則では、2025年から2026年で12%、2026年から2027年で5%の成長が見込まれており、実績との間に乖離があります。
なお最終規則は、提案段階よりもセルロース系の義務量を引き上げた一方、2025年分については13.8億RINから12.1億RINへの部分免除も確定させました。
増産しても単価の下落で相殺されうる構造であり、数量計画と同じくらい、価格前提の置き方が重要になります。
LCFS 州制度が評価するのは炭素強度(CI)
LCFS(Low Carbon Fuel Standard)はカリフォルニア州が先行した州レベルの制度で、燃料の炭素強度(CI、gCO₂e/MJ)を基準値と比較し、下回った分をクレジットとして発行します。
オレゴン州やワシントン州、カナダにも同種の制度があります。
家畜ふん尿に由来するRNGは、本来なら大気へ放出されていたメタンを回収したとみなす「回避メタン(avoided methane)」の考え方により、CIが大幅なマイナスになります。
同じRNGでも、埋立地ガス由来とふん尿由来でクレジット収入が桁違いになるのは、このためです。
2025年7月改正 回避メタンクレジットに期限が設定
CARB(カリフォルニア州大気資源局)は2025年7月に施行した改正で、2020年以降では最大規模の変更を行いました。2030年のCI削減目標は20%から30%へ引き上げられ、新規申請にはCA-GREET 4.0が適用されます。
なかでもRNGへの影響が大きいのは、回避メタンクレジットに期限が設けられた点です。
- 2025年7月1日より前に認証されたパスウェイ:10年間の計上期間を3回まで
- 2025年7月〜2029年12月に認証:10年間を2回まで
- 2030年以降に着工する案件:回避メタンクレジットは2040年まで(水素原料用途は2045年まで)
つまり、長期の事業計画では着工時期そのものが、収益期間を左右することになります。
なお、州外プロジェクトのブック&クレーム会計について、2030年より前に着工する案件は、物理的な輸送要件(デリバラビリティ)の対象外とされ、2029年より後に着工する案件は、2041年1月から適用されます。
一方、改正そのものの適法性を争う訴訟が2025年に提起されており、制度の安定性には不確実性も残ります。
45Z 生産ベースの連邦税額控除(2025〜2029年)
45Zクリーン燃料生産税額控除は、インフレ削減法(IRA)で創設され、2024年12月31日より後に生産され、2030年1月1日より前に販売された輸送用燃料に適用されます。
従来の混和業者向け控除と異なり、燃料を生産した事業者自身が、炭素強度に応じて受け取る点が特徴です。
控除額はどう計算されるのか
控除額は、1ガロン相当あたりの基準額20セントに「排出係数」を乗じて算定します。
排出係数は(50 − 排出率)÷ 50(単位はkgCO₂e/MMBtu)で求められ、賃金・徒弟要件を満たす場合は基準額が5倍になります。
ここで重要なのは、排出率がゼロであれば1ガロン相当あたり1.00ドルであるのに対し、排出率がマイナスであれば排出係数が1を超えるため、控除額は1.00ドルを上回るという点です。
ただし後述のとおり、2026年以降にマイナスの排出率が認められるのは家畜ふん尿由来の燃料に限られます。
なお、適用の前提は、排出率が50を下回ることです。
OBBBAによる4つの変更点
2025年に成立したOBBBA(One Big Beautiful Bill Act)により、次の変更が加えられました。原料と排出率に関する変更は、2025年12月31日より後に生産される燃料から適用されます。
- 適用期限を2029年12月31日まで2年延長
- 原料は米国・カナダ・メキシコ産に限定
- 排出率のマイナス値を原則禁止(家畜ふん尿由来の燃料のみ例外)
- 間接的土地利用変化(ILUC)の算入を廃止
このほか、特定の外国関係者に関する制限、関連者経由の販売帰属の拡大、SAF特別レートの廃止など計7項目の変更があります。
詳細は米国45Z税額控除とOBBBAによるバイオガス・RNG投資への影響で解説しています。
さらに2026年2月に公表された財務省・IRSの規則案では、RNGにおける「生産者」の定義も明確化されました。
生の埋立地ガスや消化ガスから水分・CO₂・不純物を除去し、天然ガスと互換の品質にする事業者が生産者であり、その先の圧縮工程だけを担う事業者は該当しません。
オフテイク契約や設備所有をどう設計するかによって、控除の帰属先が変わりうる点には注意が必要です。
原料で収益が分かれる 埋立地ガス・ふん尿・食品廃棄物
3つの制度を重ねると、米国RNG事業の収益は原料によって大きく分岐することが分かります。
American Biogas Councilの解説では、CIが−250 gCO₂e/MJの酪農ふん尿由来RNG案件の場合、LCFSクレジットの価値だけでMMBtuあたり50ドルを超え、当時の天然ガス価格3ドル/MMBtuの15倍以上に達したとされます。
クレジット価格は変動するため現在値は異なりますが、原料の違いが収益を桁で変えることを示す例です。
45Zでも同じ分岐が起きます。ただし、その仕組みは差がつくというより「上限で頭打ちになる」というほうが正確です。
45Zは家畜ふん尿だけが上限を外れる
2026年以降、排出率のマイナスが認められるのは家畜ふん尿由来のみです。
そのため、埋立地ガスや下水汚泥に由来するRNGは、排出率をゼロまで下げたとしても排出係数は1.0で最大化され、控除額は1ガロン相当あたり1.00ドル(賃金・徒弟要件を満たした場合)が上限となります。
これに対し家畜ふん尿由来の燃料はこの上限を免除され、CIが低いほど排出係数が1.0を超えて伸びます。つまり酪農・養豚案件では、控除価値の天井が事実上なくなる形です。
| 比較軸 | 埋立地ガス(LFG)由来 | 家畜ふん尿由来 | 食品廃棄物由来 |
|---|---|---|---|
| 1件あたりの規模 | 大きい(数千scfm級) | 小さい(集約が必要) | 案件により幅あり |
| LCFSのCI | 正の値にとどまりやすい | 大幅なマイナスになりうる | 原料構成に左右される |
| 45Zの排出係数 | 1.0が上限 | 1.0を超えられる(例外規定) | 1.0が上限 |
| 主な収益源 | D3 RINへの依存度が高い | LCFS・45Zの比重が高い | RIN+廃棄物処理料(LCFSは小規模) |
食品廃棄物由来のRNGは、環境価値に加えて、排出事業者から受け取る処理料収入があり、収益源の性格そのものが異なります(実例は三菱商事が米国Divertと提携 北米の食品廃棄物RNG事業を拡大)。
一方、埋立地ガス由来のRNGは規模の経済が働きやすい半面、45Zの控除額に上限がかかるうえ、LCFSでも大きなクレジットを見込みにくいため、収益がD3 RIN価格に集中しやすい構造にあります。
RIN市況が下落したとき、それを吸収する余地が小さいということです。
2026年に英BPが米国最大のLFG-RNG事業者Archaea Energyの売却を決めた背景にも、こうした収益構造の変化があります。
日本の調達側が押さえるべき3つの視点
日本の都市ガス事業者や商社が米国産バイオメタンを調達する場合、RIN・LCFSクレジットは発生しません。
日本向けには、北米の追跡システムM-RETS(運営組織はCleanCounts)が発行する再生可能熱証書(RTC)が環境価値の受け皿となり、証書の移転という形で日本側へ渡ります。
二重計上を防ぐため、同じ分子の環境価値を米国内と日本の双方で主張することはできません。
実際の調達事例は大阪ガスが海外産バイオメタンを商業施設に供給をご覧ください。
契約を検討するにあたっては、次の3点が実務上の確認事項になります。
- 調達するRNGが、輸送用燃料としてRIN・LCFSクレジットを生む選択肢と競合していないか(価格の下限がそこで決まります)
- 供給元プロジェクトの着工時期と認証時期(LCFSの計上期間に直結します)
- 原料種別(埋立地ガスか、ふん尿か、食品廃棄物か)による事業者の収益安定性
米国のRNG市場は、制度改正の頻度が高い分野です。この記事の数値や期限も、改正の対象となりえます。










