トヨタ自動車の欧州統括会社Toyota Motor Europe(TME)は2026年10月1日、英国北ウェールズのディーサイド・エンジン工場でカーボンニュートラル生産を開始したと発表しました。
トヨタの工場では、日本国外で初めての移行となり、隣接するメタン発酵(嫌気性消化、AD)施設から、バイオメタンを地下配管で、電力をケーブルで受け取ります。
Toyota (GB) PLC:Toyota to start carbon-neutral production at its UK engine plant – Toyota Media Site
ただし、この施設はトヨタ専用ではありません。ガスは英国のガス導管網にも販売し、精製時に分離したCO₂も液化して販売する計画です。
トヨタの引取量は公表値をもとにした試算で、施設生産量の1割弱となります。
トヨタ英国工場がカーボンニュートラル生産 天然ガスを置換

ディーサイド工場は、カローラやC-HR向けの1.8Lハイブリッド・ガソリンエンジンを生産しています。
同工場では、カーボンニュートラル生産を推進するため、天然ガスを隣接施設のバイオメタンに切り替え、電力も同じ施設から受け取ります。
TMEによると、バイオメタンへの転換でCO₂排出を年約3,000t削減することが可能です。
同工場はこれまで、再生可能電力の利用と廃棄物の埋立ゼロを進めてきました。AD施設の稼働は、残っていた排出ギャップを埋める最後の施策です。
また、トヨタのカーボンニュートラル生産の基準に沿う設備と運用を整えており、ISO 14068(カーボンニュートラルの達成と主張の要件を定めた国際規格)の達成を目指しています。正式認証は2027年の予定です。
トヨタで工場単位のカーボンニュートラルを最初に達成したのは、愛知県の田原工場です。TMEは2030年までに、欧州全製造拠点での達成を目指します。
隣接するメタン発酵施設 食品廃棄物からガス・電力・CO₂を生産

施設では食品廃棄物などをメタン発酵させ、精製したバイオメタン、CHP(熱電併給)の電力、精製時に分離したCO₂を販売します。消化物は肥料として利用します。
トヨタによると、この施設は民間資金による2億8,200万ポンドの事業で、廃棄物の処理能力は年約18万tです。一方、開発主体のTCED(The Circular Economy Development)は、原料処理能力を年12.4万t超と公表しています。
施設にはAberdeenのインフラファンドが出資し、独BioConstructが建設を担いました。
Aberdeen Investments:Delivering innovative energy solutions for the UK’s energy transition – Deeside Anaerobic Digestion Project
参考記事:バイオガス精製とは? 脱硫・CO₂除去の方式と原理を解説
Aberdeenによると、バイオメタンは英国のガス導管網と隣接する産業需要家に販売し、CHPの電力も系統と近隣の需要家へ供給します。分離したCO₂は液化して販売します。
フリントシャー州議会は2026年8月に液化設備を許可しました。Bioenergy Insightによると、施設で発生するCO₂は年1.6万tで、液化したCO₂はAir Liquideが搬出します。
Bioenergy Insight Magazine:Deeside anaerobic digestion plant approved to become UK’s largest waste-to-energy facility – Bioenergy Insight Magazine
トヨタの引取量は施設生産量の1割弱

TCEDは、施設のグリーンガス生産量を年180GWh超と公表しています。トヨタのCO₂削減量約3,000tを、英国政府の2026年天然ガス換算係数(総発熱量基準で約0.18kgCO₂e/kWh)で単純に割り戻すと、引取量は年約17GWhで、施設生産量の1割弱と試算されます。
トヨタという大口需要を確保しつつ、導管、隣接する産業需要家、電力、CO₂へ販売先を分散した事業構造です。
TCED Feedstock:Deeside Clean Energy Plant
Department for Energy Security and Net Zero:Greenhouse gas reporting: conversion factors 2026 – GOV.UK
事業化を支えた条件 原料確保と大口需要家
ウェールズでは2024年4月6日から、すべての事業所に紙・ガラス・金属などの分別回収が義務づけられました。食品廃棄物は、週5kg超を排出する事業所が対象です。
あわせて、食品廃棄物の下水への投入や、分別回収した廃棄物の焼却・埋立も禁止されました。
分別された食品廃棄物は焼却も埋立もできないため、メタン発酵施設から見ると、原料を安定的に集めやすい制度環境が整えられた形です。
Welsh Government:Getting workplace recycling sorted | GOV.WALES
TCEDは、トヨタとの提携を2023年第2四半期、資金調達の完了を2024年第3四半期としています。資金調達の前に、ガスと電力の大口需要家を確保していたことになります。
英国では、アストラゼネカもFuture Biogasと15年契約を結び、研究開発・製造拠点向けに年100GWhのバイオメタンを確保しています。
ただし、供給は国のガス導管網経由で、Future Biogasの施設(リンカンシャー州Gonerby Moor)の全量を同社が引き取ります。配管で直結し、引取が試算で1割弱のディーサイドとは対照的です。
日本の参考点 専用配管と導管供給の違い

ディーサイドは、天然ガスを使う工場が、隣接するメタン発酵施設からバイオメタンを配管で直接調達する事例です。
日本では都市ガス導管を経由し、証書・証明書で利用を裏付ける方式が中心です。
日立製作所と東京ガスは2026年8月、海外産バイオメタンを原料とした都市ガスの利用を、ガス空調設備の単位で証明する実証を発表しました。
| 項目 | ディーサイド(英国) | 国内の導管経由型 |
|---|---|---|
| 供給経路 | 専用の地下配管 | 都市ガス導管 |
| 利用の裏付け | 施設から工場への物理的な直送 | 証書・証明書 |
| 立地の条件 | 工場の隣に発酵施設 | 製造拠点と需要家が離れていても利用可能 |
参考記事:バイオメタン利用を設備単位で証明 日立と東京ガスが実証
国内の食品廃棄物メタン発酵は、主にFIT・FIPを利用した発電で事業化されてきました。工場へガス供給する場合は、売電との採算比較と原料の安定確保が条件になります。
参考記事:食品リサイクル法とフードロス発電とは? 食品廃棄物バイオガス発電による資源循環
今後の確認点 供給条件の開示と2027年の正式認証
ディーサイドの事例が示しているのは、バイオメタンの製造技術よりも、「安定した廃棄物原料」「大口需要家」「複数の販売先」を事業開始前から組み合わせることの重要性です。
現時点でトヨタへの供給量、価格、契約期間は公表されておらず、引取比率も公表値からの試算です。そのため、このモデルの経済性を直接評価することはできません。
今後は2027年の正式認証と、供給条件や運用実績の開示が確認点になります。
参考記事:バイオメタンの環境価値とは? 証明方法と制度を横断整理
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