東京ガスは2026年6月、東京都と共同で進めるe-メタン製造実証の運転を、東京都下水道局の森ヶ崎水再生センター(東京都大田区昭和島)で開始しました。
8月17日には報道公開が行われ、設備構成と製造能力が明らかになりました。製造されるe-メタンは、1時間あたり約260軒分が消費するガス量に相当します。
日刊建設工業新聞:東京ガス/消化ガスとグリーン水素でeメタン製造/脱炭素社会の実現後押し
現地に設置されたのはメタネーション装置とバイオガス精製装置の2つで、同じ消化ガスを2つのルートで処理し、その結果を比較検証する構成が採られています。
都の公募事業として採択 事業費は最大3億円
この実証は、東京都が公募した「東京都産グリーン水素と下水汚泥由来の二酸化炭素によるグリーンメタン製造(合成)事業」に東京ガスが採択されたものです。
2025年5月に都と協定を締結した段階の内容は、下水汚泥由来のCO₂とグリーン水素でe‑メタン製造実証 東京ガスと東京都で解説しています。都の事業費負担は最大3億円、実証期間は2026年度末までです。
協定から約1年を経て、実機が動き出しました。まず注目すべきは、その装置構成です。
設置された2つの装置 合成メタン製造とバイオガス精製

森ヶ崎に新設されたのは、合成メタン製造装置(メタネーション装置)とバイオガス精製装置の2種類です。
メタネーション装置はIHI製のサバティエ方式小型標準機で、e-メタンの製造能力は1時間あたり12.5Nm³です。
日本経済新聞:東京ガス、下水汚泥から都市ガス主成分を製造 CO2排出実質ゼロに
この装置の特徴は、消化ガス中のCH₄とCO₂を分離せず、消化槽から配管で連続供給しながら合成する点にあり、国内初とされています。
分離工程を省ける理由は、サバティエ反応の性質にあります。この反応ではCO₂だけが水素と反応してメタンに変わり、もともと混ざっているCH₄は反応せずにそのまま通過します。
つまり、CO₂を取り出す前処理を挟まなくても合成は成立し、その分の分離装置と設備費を削れるという設計です。反応の基礎は、メタネーションとは? その仕組みと種類・実用化をご覧ください。
もう一方のバイオガス精製装置は、消化ガスからCO₂を分離してメタンを取り出す従来型の設備で、能力は1時間あたり0.8Nm³です。
メタネーション装置の15分の1以下という能力差から、実用供給ではなく比較検証を目的とした設備です。精製方式の原理はバイオガス精製とは? 脱硫・CO₂除去の方式と原理を解説で解説しています。
2つのルートを同じ原料で比べる構成
2つの装置を併設した狙いは明快で、同一の消化ガスを原料として、「分離してバイオメタンにする」従来ルートと、「分離せず水素を足してe-メタンにする」新ルートを、同じ条件で並べて評価できます。
| 比較項目 | バイオガス精製ルート | 混合ガス直接メタネーションルート |
|---|---|---|
| 本実証での能力 | 0.8Nm³/h | 12.5Nm³/h |
| CO₂分離装置 | 必要 | 不要 |
| 外部水素の要否 | 不要 | 必要(グリーン水素) |
| CO₂の行き先 | 分離後に排出または別用途へ | メタンに転換される |
| 主なコスト要因 | 分離装置とメタンロス | グリーン水素の調達 |
製造したe-メタンはどこへ行くのか
製造されたe-メタンは、都市ガス導管へ注入されるわけではなく、消化ガス系統に戻され、同センターで稼働中の消化ガス発電の燃料として使われます。
施設の外へ出さずに内部で循環させる設計であり、下水処理で生じたCO₂を場内で使い切る形になっています。
水素はどこから来るのか 京浜島から週2回の輸送

水素の供給元は、2025年10月23日に開所した東京都京浜島グリーン水素製造所です。
第1期工事で設置された500kW級の水電解装置1基の製造能力は1時間あたり120Nm³、年間約20トンです。2027年度には装置を増設して能力を3倍にする計画が示されています。
東京都産業労働局:東京都京浜島グリーン水素製造所
製造所と森ヶ崎水再生センターは約1.5km離れており、水素は週2回、カードルでメタネーション装置の近くまで運ばれています。
必要な水素は製造所能力の約4割

この供給体制にどれだけ余裕があるのか、反応の量論から試算してみます。サバティエ反応はCO₂1に対して、水素4を消費するため、e-メタンを12.5Nm³/h合成するには水素が約50Nm³/h必要です。
京浜島の製造能力120Nm³/hに対して、およそ4割を占める計算になります。
ただし、これは最大能力どうしの比較にすぎません。京浜島の水電解装置は1時間あたり100Nm³が常用で、120Nm³は最大値です。常用ベースで見れば、必要な水素は製造能力の約半分に相当します。
Circular Economy Hub 東京:なぜ“東京都産グリーン水素”をつくるのか。水素供給量は10年弱で100倍超へ【京浜島グリーン水素製造所】
一方、原料ガス側の負担は対照的に小さくなります。消化ガスのCO₂濃度を約40%とすると(バイオガスの主成分とエネルギー特性)、必要な消化ガスは約31Nm³/h、日量にして約750Nm³です。
森ヶ崎の消化ガス発生量は日最大47,900Nm³ですから、施設全体のわずか1.6%程度にとどまります。
- CO₂側:施設が生む消化ガスの約1.6%しか使わず、配管直結で常時供給される
- 水素側:製造所の常用能力の約半分を占め、週2回の輸送に依存する
- 装置規模:12.5Nm³/hは商用規模ではなく、課題抽出のためのスケール
仮に連続運転すれば、水素は1日あたり約1,200Nm³必要になり、週2回の輸送で賄うには1回で4,000Nm³超を運ぶ計算です。
圧縮水素カードルの容量は1台あたり最大約260Nm³ですから、16台以上を一度に運ぶ規模になります。現在の供給体制で連続運転を賄える水準ではありません。
水素の供給頻度が製造ペースを規定する構造であり、下水処理場を都市部のCO₂供給拠点として使う発想は成り立ちますが、律速となるのは水素側です。
実証で問われるコストとe-メタンの実用性
東京ガスは、2026年度末まで生産効率などを検証しながら、ごみ焼却工場の排ガス由来CO₂を使う横浜テクノステーションでの実証と、今回の森ヶ崎での実証で得た知見を突き合わせる方針です。
吉田範行東京支社長は、将来的に革新的なメタネーション技術を導入し、さらなる効率化とコストダウンを目指す考えを示しました。同社はアジアをはじめとする海外展開も視野に入れています。
同社は2030年に、都市ガス供給量の1%をe-メタンに置き換える目標を掲げています。
業界として注視すべき論点は次のとおりです。
- 混合ガスを直接供給した場合の触媒性能と、不純物による影響
- 精製ルートと比較した設備費・運転費の実測差
- 水素の供給形態をカードル輸送から何に切り替えるか
- 12.5Nm³/hから商用規模へのスケールアップ経路
- 下水汚泥由来CO₂を用いたe-メタンの環境価値の位置づけ
CO₂を分離しないという設計思想は、原料側の設備投資を削る現実的な工夫です。
ただし、削減できた分がグリーン水素の調達コストを上回るかどうかは、メタネーションのデメリットとコスト面の課題で整理したとおり、依然として最大の論点になります。
実証期間を通じた約10か月の実測データが、その答えを出すことになります。

















