バイオガス発電の効率化へ 埼玉工業大学が深谷モデルを共同開発

埼玉工業大学がバイオガス発電の深谷モデルを共同開発

埼玉工業大学は2026年7月24日、埼玉県深谷市の株式会社セキネ、株式会社クリーンテックサーマルと共同で、バイオガス発電の最適化に向けた産学連携を開始すると発表しました。

秦田研究室の微生物学と、髙坂研究室の伝熱工学を組み合わせ、発酵タンク内のメタン生成菌をDNA解析で特定し、温度と栄養条件を科学的に制御する「深谷モデル」を構築します。

埼玉工業大学:バイオガス発電の最適化に向け産学連携で深谷モデルの共同開発を開始

これまで熟練者の勘に頼ってきたメタン発酵の運転管理を、データに基づく再現可能な技術へ置き換える試みとなります。

バイオガス発電が経験と勘に依存する理由

バイオガス発電は天候に左右されず、原料面でも潜在量が大きい安定電源です。

農林水産省によると、年間の家畜排せつ物は食品廃棄物(約2,400万トン)を大きく上回る約7,800万トンで、国内バイオマス資源全体(約2億4,210万トン)のおよそ3割を占めています。

農林水産省:家畜排せつ物の発生と管理の状況

しかし、バイオガス発電は資源量に見合うだけの導入には至っておらず、その理由として技術と収益の両方が挙げられます。

発酵効率がプラントごとに大きく異なる背景

発酵タンクの中で起きているのは、多様な微生物による連鎖的な生化学反応です。原料の性状が変われば菌叢のバランスも変わり、ガス発生量は日々変動します。

その調整は現場の熟練者の判断に頼らざるを得ず、同じ設計のプラントでも条件によって性能に差が生じる「ブラックボックス」となってきました。

問題は、この差が言語化されにくい点にあります。うまく回っているプラントの運転ノウハウが暗黙知のまま個人に蓄積されるため、他の施設へ移転できず、担当者の交代とともに失われるリスクがあります。

FIT買取価格35円据え置きで問われる発酵効率

収益面の環境も厳しさを増しています。FIT制度におけるメタン発酵バイオガスの買取価格は、2024年度から2026年度まで35円/kWh(全規模)で据え置かれました。

一方で建設費、機器費、人件費はいずれも上昇しており、その差は事業者が吸収する必要があります。

バイオガス発電の収支を改善する手段は限られており、今回のプロジェクトが「最適化」を正面から掲げているのは、この構造変化を踏まえたものといえます。

深谷モデルとは 微生物解析と熱制御を同時に進める手法

埼玉工業大学 深谷モデルの解説

深谷モデルは、これまで別々に語られてきた「生物学的な最適化」と「工学的な最適化」を、同一の実機プラント上で同時に進める取り組みです。

微生物DNA解析で「主役のメタン生成菌」を絞り込む

メタン生成菌は、世界で約150種以上が確認されていますが、発酵タンク内には他の微生物も多数共存しており、どの菌がガスを生産しているのかを見極めるのは容易ではありません。

メタン生成菌は酸素に触れると死滅する性質から、実験室での培養そのものが難しいという事情もあります。

そこでこの研究では、菌を個別に分離・培養するのではなく、タンク内の全微生物のDNAをまとめて解析するメタゲノム的アプローチを採用しました。

培養工程を経ずに群集構造を把握できるため、実機の状態をそのまま評価できます。

DNA解析で判明するのは「どの菌がどれだけ存在し、どんな遺伝的能力を持つか」までですが、これまで手がかりの乏しかった群集構造が可視化されれば、有力な候補を絞り込む起点になります。

主役となる菌が特定できれば、その菌が最も活発になる栄養条件を逆算して設計でき、原料の選択が経験から設計へと変わります。

メタン発酵に関わる微生物の役割はメタン発酵の仕組みと微生物の役割で詳しく解説しています。

15カ所の温度センサーで発酵タンクの熱収支を推定する

もう一方の柱が伝熱工学です。ガスを生み出すのが生き物である以上、急激な温度変化や原料の過剰投入は禁物です。

本プロジェクトではプラント内外の計15カ所に温度センサーを設置し、さらに保温・保冷用の循環水の温度と質量流量を計測することで、タンク全体の熱のやり取りを定量的に推定します。

従来の温度管理が「槽内温度を目標値に保つ」制御であったのに対し、熱収支そのものを把握する手法では、どこから熱が逃げているか、加温にどれだけのエネルギーを費やしているかまで見えるようになります。

発電機の排熱を回収して加温する構造上、その熱量が増えれば、熱として外部に販売・利用できる分が減ります。この差はプラント全体のエネルギー収支に直結します。

項目一般的な運転管理深谷モデルが目指す姿
菌叢の把握ガス量・pH・VFA/アルカリ度比などから間接的に推測DNA解析による群集構造の可視化と主役菌の絞り込み
栄養・原料管理経験則と運転実績に基づく配合解析結果に基づく成分設計
温度管理槽内温度を目標値に保つ制御15点計測+循環水計測による熱収支の推定
技術の再現性運転員の技能への依存度が高いデータ化により他地域へ展開可能

深谷市の産学連携 役割分担と地域の強み

深谷市

深谷市は首都圏にありながら農業・畜産が盛んな地域で、原料となる家畜排せつ物と、都市部由来の食品廃棄物の双方にアクセスできる立地です。

この地域特性を、4者が次のように分担して技術に変換します。

セキネは2026年5月、関越道花園インターの南エリアで建設・稼働開始したバイオガス発電事業の第4プラントを自社サイトで公表しました。

施設の一角には生物脱硫装置を併設しており、実証の舞台はこの第4プラントを指すとみられます。

セキネは養豚由来のふん尿を扱う事業者であることから、発酵後に残る消化液の農地還元まで含めた地域内循環が想定されます。

容器包装入り食品廃棄物を原料化する分離設備

4者のうち特に注目したいのが、クリーンテックサーマルが保有する分離装置です。

ペットボトル、缶、瓶、パックなどに入ったままの食品廃棄物は、異物混入リスクからメタン発酵原料として敬遠されてきました。

中身だけを効率的に取り出せる設備があれば、これまで焼却されていた食品資源を、収率の高い原料として混合消化に組み込めます。

原料の質を選べる体制が整うことは、深谷モデルが目指す菌叢制御の前提条件でもあります。どの菌を活性化させるかを設計しても、投入する原料の成分が揺らげば意図した通りには働かないためです。

今後の見通し 水素貯蔵と他プラントへの展開

両研究室の合同異分野研究会は2023年4月から始まり、続いて、企業を交えた再エネ研究会は、2024年6月に活動を開始しています。

今後はセキネが深谷市内に建設した最新プラントで、「微生物の活性を高める成分管理」と「発酵タンク内の温度制御・熱効率の最適化」をデータで実証していきます。

また、大学側は確立したモデルを、国内外の他地域へ展開する可能性にも言及しています。

さらに、余剰電力を水素として貯蔵し、水素エネルギーの地産地消を実現する構想もあります。

電力の余剰分を水素に変換して貯蔵すれば、需給調整に加え、災害時に電力インフラが途絶した場合の地域電源としても機能します。

ただし水電解と貯蔵にはエネルギー損失が伴うため、今後の検証が必要となります。

深谷モデルの核心は、水素という出口の新しさよりも、熟練者の勘に委ねられてきた運転管理を数字に置き換える点にあります。

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