株式会社クボタと三菱ガス化学株式会社(MGC)は2026年8月31日、稲わら由来のバイオガスを原料にバイオメタノールを製造する共同試験を実施し、化学製品原料としての有用性を確認したと発表しました。
試験は2026年3月9日から8月1日まで、秋田県大潟村の実証施設で発生したバイオガスをMGC新潟工場へ運んで行われました。
株式会社クボタ:クボタと三菱ガス化学、稲わら由来バイオガスのバイオメタノール原料としての利用可能性を確認
クボタの稲わら実証は、これまでバイオ燃料とバイオ液肥を出口としてきましたが、ここに化学製品原料という選択肢が加わります。
クボタが進める稲わら資源循環システム

クボタは2022年度から、環境省の実証事業において京都大学・早稲田大学と連携し、稲わらからバイオ燃料とバイオ液肥を製造する「稲わら資源循環システム」の研究を進めてきました。
実証の舞台となっているのが秋田県大潟村で、2024年5月にメタン発酵設備が本格稼働しています。事業の全体像と産学連携の体制は、「クボタが稲わらからバイオ燃料製造」にまとめています。
稲わらは国内で年間約800万トン発生し、そのうち約650万トンが農地にすき込まれています。
すき込まれた稲わらは肥料として働く一方、湛水した水田ではメタン生成菌の基質となり、大量のメタンを発生させます。クボタは今回のリリースで、メタンの温室効果をCO₂の28倍としています。
大潟村からMGC新潟工場へ バイオガスを運んで試験

画像:クボタ ニュースリリースより
共同試験ではトレーラーを用いて、大潟村で発生した稲わら由来バイオガスをMGC新潟工場(新潟市北区)まで輸送し、バイオメタノール製造の原料として投入しました。
両社は、化学製品原料としての有用性を確認できたとしています。
試験が成立した背景として、すでに受け入れ側に実績があったことがあります。
MGC新潟工場は2024年6月から、新潟県の新井郷川浄化センターで発生する下水汚泥由来の消化ガスを原料にバイオメタノールを製造しており、これは国内初の取り組みでした。
三菱ガス化学株式会社:国内初、消化ガスからのバイオメタノール製造を開始
その受け入れ口に、下水汚泥ではなく農業系バイオマス由来のガスを流し込んだのが今回の試験です。MGCが既存設備を活用して製造しているバイオメタノールに、新たな原料を投入して適合性を確かめた形です。
なぜ燃料ではなく化学品原料なのか

では、化学品原料という出口は、これまで主流だった発電や、今後拡大が見込まれるバイオメタンと何が違うのでしょうか。三つを並べると、バイオガスに含まれるCO₂の扱いが分かれます。
| 出口 | 変換先 | バイオガス中のCO₂の扱い | 主な収益源 |
|---|---|---|---|
| 発電 | 電気・熱 | 燃焼時の希釈成分(発熱量を下げる) | 売電収入、熱利用 |
| バイオメタン | 都市ガス・車両燃料 | 分離・除去が必要 | ガス販売、環境価値 |
| 化学品原料 | メタノール・誘導品 | 原料として利用できる | 化学品販売、認証品としての価値 |
バイオメタノールやe-メタノールの区分はバイオガス・バイオメタン用語集にまとめています。
メタノールは合成樹脂などの基礎原料であり、近年は船舶燃料としての用途も広がっています。
メタンとCO₂の両方が使える原料構成

技術面で重要なのは、メタノール合成がバイオガスの主成分であるメタンとCO₂の両方を原料に使える点です。
MGCは、消化ガスの主成分であるメタンと二酸化炭素の両方を原料としてバイオメタノールを製造すると説明しています。
都市ガス導管注入や車両燃料を狙う場合はCO₂の分離除去が欠かせませんが(バイオガス精製の方式はこちら)、メタノール合成ではCO₂が除去の対象ではなくなります。
ただし、水素との比率で使える量が決まるため、CO₂がすべて原料になるわけではありません。
前処理に求められる条件が変わることは、規模の小さい発生源にとって、選べる出口の広さに直結します。
化学品として売るための原料認証
MGCはバイオメタノールと誘導品のDMEでISCC PLUS認証を取得しており、原料となる消化ガスについても新潟県が認証を取得しています。
三菱ガス化学株式会社:バイオメタノールおよびDMEでISCC PLUS認証を取得
持続可能な原料であることをサプライチェーン上で担保する仕組みが必要になる点は、燃料用途との大きな違いです。稲わら由来バイオガスが商用の原料になるとすれば、同じ枠組みへの適合が課題になります。
バイオガスを化学品にする他のルートとの違い
バイオガスから化学品を作る研究は、国内でも複数の方向から進んでいます。早稲田大学とクラサスケミカルは、バイオガスを200℃以下で改質し、メタノールなどの原料となる合成ガスを取り出す技術を開発しました。
大阪府泉南市では、光オンデマンド技術で廃棄物由来バイオガスから化学品を合成する実証も行われています。水素酸化細菌がCO₂を取り込むガス発酵も、CO₂側からの出口にあたります。
これらが新しい変換技術そのものを作る方向であるのに対し、今回の共同試験で確認したのは、すでに動いているメタノールプラントに新しい原料を流せるかどうかでした。
技術の新規性よりも、既存設備への原料適合性を先に押さえたわけです。実装までの距離は短くなりますが、その代わり、原料ガスの品質と量を工場側の運転条件に合わせられるかが制約になります。
稲わらの持ち出しとJ-クレジットの排出係数

見落とされがちですが、稲わらを農地から持ち出すことは、すでに制度の計算式に組み込まれています。
J-クレジット制度の方法論AG-005「水稲栽培における中干し期間の延長」では、メタン排出係数を決める際に稲わらのすき込み割合を用います。
この割合は、10アール当たりの稲わら発生量(平年収量に1.2を乗じた値)と作付面積、そして実際の持ち出し量から算出されます。
ただし、稲わらを持ち出すとベースラインが下がるため、同じ水田で得られるクレジットは小さくなります。
J-クレジット制度:方法論 AG-005 水稲栽培における中干し期間の延長
クボタ自身も、中干し期間の延長によるCH₄削減プロジェクトのJ-クレジット登録者です。同社は水管理と原料化という二つの経路から、水田のメタンに関与していることになります。
株式会社クボタ:稲わら秋すき込みによる温室効果ガス排出量削減
今後の展開と未公表の論点
クボタは、今回得られたデータをもとに、化学製品原料としての利用可能性をさらに検証するとしています。
ただし公表されているのは有用性の確認までで、処理量、メタノール収量、原料ガスの品質規格、輸送を含めた採算性は明らかにされていません。
バイオガスをトレーラーで運ぶ方式が商用規模でも成り立つのかは、次の検証の焦点になるでしょう。
稲わらは季節性が強く、かさが大きく、収集と保管のコストが重い原料です。それでも単価の高い出口が見えれば、収集の仕組みに投資する理由が生まれます。
今回の試験は、その入口を確かめた段階と位置づけられます。






