ドイツのReverion(レバリオン)が、可逆型固体酸化物形セル(rSOC)を用いたコンテナ型設備の量産に入りました。
この設備は、発電と電解を1分以内で切り替えられる設計となっており、売電が成り立たない時間帯を水素や合成メタンの製造で補い、さらに発電時には高純度のCO₂を回収できます。
2026年8月には、韓国の斗山(トゥサン)フューエルセルと約1,087億ウォンのスタック供給契約を締結し、本格的な量産体制が整いつつあります。
Reverion:Reverion and Doosan Fuel Cell: Partnership for Large-Scale Fuel Cell Supply
可逆型SOFC(rSOC)とは 発電と電解を1分以内で切り替える

可逆型SOFC(rSOC)は、1つのセルスタックで発電と電解を切り替える技術です。同じ設備を用いて、バイオガス発電と余剰電力による水素・合成メタン製造の両方をこなせます。
セルの原理と発電側の経済性はバイオガスで燃料電池は動く?SOFCの効率と課題で扱っていますので、ここでは事業として成り立つかどうかに絞ります。
斗山フューエルセルが供給するスタックは、英Ceres Powerのライセンスに基づく作動温度620℃前後の中低温型です。一般的なSOFCと比べて動作温度が低いため、使用できる材料の選択肢が広がり、部品の長寿命化に有利とされています。
電解時の受電量が発電出力の2.5倍という非対称設計
| 項目 | M-100/250 | M-500/1250 |
|---|---|---|
| 発電出力 | 100kW | 500kW |
| 電解時の電力入力 | 250kW | 1,250kW |
| 電気効率(カタログ値) | 最大80% | 最大80% |
| 発電モードの燃料消費 | 20〜25Nm³/h | 100〜125Nm³/h |
| 発電モードのCO₂発生量 | 40〜50kg/h | 200〜250kg/h |
| 筐体 | 20フィートコンテナ・約20t | 40フィートコンテナ・約35t |
上表のとおり、電解時の受電量は発電出力の2.5倍に設定されています。
これは、この設備が単に発電機へ電解機能を付加したものではなく、系統の余剰電力を集中的に吸収する受け皿として設計されていることを裏付けています。
欧州委員会の公表資料でも、モード切り替え時間は1分未満と明記されています。
売電・水素・CO₂除去 3つの収益源を1台でカバー

売電が止まる時間帯をどう埋めるか
可逆運転が事業として意味を持つ理由は、ドイツの買取制度にあります。
2025年2月に成立した「バイオマスパッケージ」により、入札対象のバイオガスプラントは、卸電力価格が2セント/kWh以下となる時間帯においてEEGの買取適用を受けられなくなりました(EEG2023 §51b)。
価格の安い時間帯での売電を抑制し、自家消費やエネルギー貯蔵へ誘導することが法改正の狙いです。
ドイツでは2026年4月の全720時間のうち、123時間で卸売価格がマイナスに沈みました。買取が停止する2セント/kWh以下の時間帯は、これよりさらに拡大します。
可逆運転は単なる追加機能にとどまらず、売電収入が途絶える時間帯を補う代替の収益源として機能します。
水素はどこへ売るのか
電解モードの生成物は水素・合成メタン・バイオメタンの3種ですが、Reverionの公表資料に水素の具体的な販売先の記載はありません。
顧客事例で示されているのは、生成したメタンを自家消費して化石燃料を置き換える使い方です。売電とCO₂除去が制度や契約に裏づけられているのに対し、水素の商流だけは出口が見えていません。
トン当たり約427ドルのCO₂除去クレジット
2025年11月、GoogleやH&Mなどが参加する炭素除去購入連合Frontierの買い手は、2027年から2030年にかけて9万6,000トンのCO₂除去に対し、4,100万ドルを支払う契約をReverionと結びました。
Frontier:Frontier facilitates $41M offtake agreement with Reverion
単純計算でトン当たり約427ドルとなり、年換算では約2万4,000トンです。ただしこの単価は、CO₂を回収した時点で受け取れるものではありません。
Frontierによれば、対価には回収したCO₂を液化して地層に永久貯留する工程と、各トンの貯留を検証するMRV(測定・報告・検証)の費用までが含まれます。貯留先へのアクセスが確保できなければ成立しない収益源です。
前掲の表のとおり、100kW機の発電モードにおけるCO₂発生量はメーカー公表値で40〜50kg/hです。
出力1kWあたり年8,000時間で換算すると、後述する年産13MWの計画能力が1年分で生むCO₂は年4万トンを超えます。Frontierが押さえた年約2万4,000トンは、その半分程度にあたる計算です。
このクレジット契約は単なる副次収入ではなく、量産初期の出荷分について、炭素除去側の販売先を事前に確保しておく需要保証の役割を担っているとみられます。
rSOCの構造的特徴 バイオガス中の全炭素を回収
Reverionの設備が高純度のCO₂を回収できるのは、rSOCの構造的特徴によるものです。
燃料を空気と直接混合して燃焼させるのではなく、酸素イオンが固体電解質(セラミック膜)を透過して反応するため、排ガス中に大気由来の窒素が混入しません。同社によると、回収されるCO₂の純度は99%を超えます。
ただしFrontierが評価しているのは、純度よりも回収できる炭素の範囲です。バイオガス精製でアミン吸収法などを用いる従来方式が回収できるのは、体積比で5割に届かないバイオガス中のCO₂分だけです。
これに対しrSOCはメタン由来の炭素も回収するため、同じバイオガス量から得られる除去量が実質的に2倍になります。
カーボンネガティブに関する算定・評価基準は、環境効果とGHG削減効果で解説しています。
狙いは新設ではなく既設2万基のレトロフィット

斗山フューエルセルは2026年8月5日、Reverion GmbHとSOFCスタックの供給契約を結んだと発表しました。同社の創業以来最大の輸出案件にあたります。
翌6日には、斗山へ基盤技術をライセンス供与している英Ceres Power Holdingsが、投資家向けにこの契約を開示しました。スタックの供給は2027年下期にかけて順次実施される予定です。
Ceres Power Holdings plc:Doosan Fuel Cell SOFC order with Reverion GmbH
この量産体制を財政面から支えるのが、EUのイノベーション基金プロジェクト「RESILIENCE」です。
European Commission:RESILIENCE: Revolutionizing Energy: Scaling manufacturing of Innovative, reversibLe, hIghly EfficieNt, Carbon-nEgative power plants
欧州委員会CINEAの公式資料によると、助成総額は1,945万ユーロで、Reverionは2026年3月末までに年産50台・発電出力ベースで計13MWの生産能力を確立する計画を掲げていました。
同資料中では、欧州全域で稼働する約2万基の既存バイオガスプラントが、レトロフィットの有力な対象先として挙げられています。
この設備はコンテナ型のパッケージとなっており、既設のガスエンジンCHPをプラグ&プレイ方式で置き換えられる仕様です。
Reverionが最初の市場と位置づけているのは既存のバイオガス事業者で、同社CEOは規制対応のためのレトロフィット要求が農家の負担になっていると説明しています。
継続助成を求めて入札に参加すれば、前述の§51bが適用されます。新設ではなく既設プラントのリパワリングが主戦場となる理由はここにあります。
同じ既設転換であっても、精製設備を追加導入してバイオメタン(RNG)化を進める欧州の主要エンジニアリング企業とは、異なる出口を選んでいます。
日本のバイオガスプラントに応用できるか

JEPXにマイナス価格は存在しない
日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場には0.01円/kWhという下限価格があり、制度上マイナス価格は発生しない構造になっています。
2026年春には、九州のように太陽光の多いエリアで、晴天日の日中に下限価格の0.01円へ張り付く事象が頻発しました。
日本では価格がマイナスまで沈まない以上、マイナス価格を回避するために電解へ切り替えるというドイツ型の収益ロジックは成立しません。
日本の優先給電ルール上、バイオマス発電は太陽光・風力よりも先に出力制御を受けます。
太陽光が余る時間帯に真っ先に止められるのはバイオガス側であり、その時間を電解に振り向けられるかどうかは、日本でも収支に直結します。
そのため、日本国内ではガスエンジンCHPの単純な代替というよりも、系統側の出力制御への対応や、敷地内での自家消費比率向上を目的とした導入が現実的な選択肢になると考えられます。
国内企業によるメタネーション関連技術の進展については、日本企業のe-メタン・メタネーション技術開発と実用化事例で整理しています。
可逆運転は劣化を伴う NEDOの試験結果
もう一つの論点が耐久性です。NEDOのカーボンリサイクル技術の共通基盤技術開発では、電力中央研究所が国内メーカー製のSOFCセルを用いて、1,000時間を超える可逆運転の連続試験を実施しています。
電解8時間と発電16時間を繰り返した結果、発電モードの性能変化率は、SOFC単独運転の基準値(-0.34%/kh)の約4.4倍に達しました。
NEDO:「CO2電解リバーシブル固体酸化物セルの開発」成果報告会資料
劣化は電解モードでさらに大きく、発電モードの約3倍でした。ただし、試験条件は750℃でのCO2共電解であり、620℃でバイオガスを扱うReverionの運転条件とは異なります。
数値をそのまま当てはめることはできませんが、可逆運転が追加の劣化負荷を伴うことは事実です。
モード切り替えに伴うストレスを前提とした設備設計と、スタックの定期更新費用を含めたトータル保有コスト(TCO)での見極めが必要になります。
FIT期間満了に伴い設備の更新や再稼働を検討する際の実務手順は、停止したバイオガスプラントの再生で詳しく解説しています。
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