米カリフォルニア州のクリーンテック企業Circularity Fuelsが2026年6月15日、未精製バイオガスを持続可能な航空燃料(SAF)へ直接変換する実証実験に世界で初めて成功したと発表しました。
従来のSAF製造に必要なガス精製設備を省くことで、商業プラントの建設費を欧州の同規模施設の約5分の1に抑え、化石燃料由来のジェット燃料に匹敵する価格競争力の実現を目指します。
Business Wire:Circularity Fuels Converts Raw Dairy Biogas to Jet Fuel in World First End-to-End Pilot
世界初の生バイオガスを精製せずSAF化実証
今回の実証は、カリフォルニア州マデラ近郊にある5,000頭規模の酪農場で行われました。
家畜ふん尿由来のバイオガスを原料とし、約6ヶ月・数千運転時間にわたる連続運転を行い、未精製の生ガスから国際規格に適合するジェット燃料を製造しました。
この地域は全米最大級の酪農地帯ですが、家畜から発生するメタンの大半は大気へ放出されています。
Circularity Fuelsはこのメタンを燃料に変えて、酪農家に新たな収益源をもたらすことを狙っています。
これまでほとんど廃棄されていた酪農バイオガスを活用すれば、低コストでSAFを製造できるため、SAF業界はこの実証に注目しています。
しかし、生バイオガスにはCO₂が約35%含まれており、メタン精製のために数億円規模のガス精製(アップグレード)設備を必要とする点が、普及を妨げる一因となっていました。
参考記事:バイオガス精製技術 脱硫・CO₂除去からバイオメタン製造まで
なぜガス精製が不要なのか CO₂を不純物から原料へ
今回の技術の核心は、CO₂を「除去すべき不純物」ではなく「反応原料」として活用する点にあります。
生ガス中のメタンとCO₂を精製せずに反応器へ直接投入し、両方を燃料合成に使うことで、ガス精製工程そのものを不要にしました。
モジュール型反応器 OuroとAion
システムは2つの反応器で構成され、前段の電化バイリフォーミング反応炉「Ouro」が、生バイオガスから単一工程でメタン98%超、CO₂90%超を合成ガス(syngas)に変換します。
続いて、後段の小型フィッシャー・トロプシュ合成炉「Aion」が、合成ガスからジェット燃料を生成します。
両反応器ともスキッド搭載型のモジュール構造で、バイオガスが実際に発生する小規模・分散型の現場に合わせて設計されている点が特徴です。
得られた燃料はASTM D7566 Annex A1(FT-SPK)規格に適合し、現行の商用機で従来のJet-Aに最大50%まで混合して使用できます。
なお同社は2025年8月に、生バイオガスから合成ガス(SAF前駆体)への変換を従来型リフォーマーの100分の1のコストで実証したと発表していました。
今回はこの前駆体段階から、完成品のジェット燃料までを一貫して実証しており、大きく前進しています。
カーボンネガティブ評価の試算
同社の社内ライフサイクル分析によると、この燃料のカーボンインテンシティはカリフォルニア州の制度枠組みでマイナス350.7 gCO₂e/MJと算定されています。
マイナス評価となるのは、本来大気へ放出されていたメタンを原料として消費するためです。
メタンはCO₂よりはるかに強力な温室効果ガスであり、その放出を回避する効果が、燃料の製造・燃焼で生じる排出を上回ると同社は説明しています。
ただし、この数値はあくまで同社独自のモデルによる社内試算であり、第三者認証や実際の制度上のスコア確定とは区別して読む必要があります。
SAF市場の現状 なぜコストが下がらないのか

SAF市場は供給の伸び悩みが続いています。IATAの推計では、2026年の世界のSAF生産量はジェット燃料需要全体のわずか0.8%にとどまります。
主流のHEFA方式は廃食用油(UCO)の供給制約という構造課題を抱えており、これまで廃棄されてきた農業バイオガスが有力な代替原料として浮上しています。
SAFの製造経路ごとの違いや原料の課題は「バイオガス由来SAFとは? 製造方法・原料・コストを解説」で詳しく整理しています。
同社は、この低コスト化により、初号機となる商業プラントの段階から化石ジェット燃料と同等の価格競争力を実現できると見込んでいます。
燃料は米環境保護庁(EPA)の再生可能燃料基準(RFS)やカリフォルニア州のLCFS(低炭素燃料基準)といった既存の優遇制度の対象となり、再生可能天然ガス(RNG)やエタノールが商業規模へ拡大したのと同じ道筋をたどれる点も、事業性の裏付けとされています。
バイオガス由来SAFの開発競争は、米Syzygy Plasmonicsによるウルグアイ・ブラジルでのプロジェクトなど、世界各地で進んでいます。
各社の取り組みは「バイオガス由来SAFの主要プロジェクト一覧」にまとめています。
今後の商業展開と日本のバイオガス事業への示唆
Circularity Fuelsは、フィールドでの技術実証を経て、2027年に最初の商業プラント建設を計画しています。
当面は米国・中南米・欧州の農業系バイオガス資源を対象としており、航空燃料と長距離トラック向け燃料の脱炭素化に注力する方針です。
同社は、米国内の利用可能な廃棄物拠点すべてに展開すれば、日産4,200万ガロン、米国ジェット燃料需要の約70%を満たせると試算しています。
日本への示唆も小さくありません。北海道などの大規模酪農地帯では、パイプライン接続や高額な精製設備がボトルネックとなり、バイオガス利用が熱・発電にとどまっている例が多くあります。
生ガスを精製せずに、高付加価値な液体燃料へ直接変換し、トラック輸送できる分散型モデルが確立すれば、FIT/FIP後の出口戦略として新たな収益源になり得ます。
また、日本では2026年7月の第9回SAF官民協議会で、ジェット燃料供給事業者にSAF供給を義務付ける制度案を示しており、需要の立ち上がりが期待されます。






