大阪市では、大野・海老江・住之江・放出の4つの下水処理場で、民間の資金とノウハウを使った「民設民営方式」による消化ガス発電と、FIT制度を活用した売電を行っています。
下水汚泥の処理過程で発生する消化ガス(バイオガス)で発電しており、4施設合計の発電能力は約4,090kW、年間発電量は約2,580万kWh(一般家庭約7,100世帯分)に達します。
自治体が初期投資のリスクを抑えながら、未利用エネルギーを収益化した事例であり、FIT制度を活用した国内最大規模の消化ガス発電事業といえます。
ページ内画像:大阪市より
大阪市が下水消化ガス発電に取り組む背景
下水処理場では、汚泥の量を減らすために消化(発酵)処理が行われ、その過程で発生するのが、メタンを主成分とする消化ガスです。
消化ガスは都市ガスの半分ほど(55%~56%)の熱量を持つ再生可能エネルギーですが、消化槽の加温など、場内利用だけでは使い切れず、未利用のまま処理されるケースが少なくありません。
国土交通省の調査では、全国334の処理場で年間約5,300万m³もの未利用バイオガスが存在し、下水汚泥のエネルギー化率は26%(令和4年度)にとどまっています。
国土交通省:下水道技術開発会議エネルギー分科会 資料
大阪市でも、大野・海老江・住之江・放出の4処理場で、一部の消化ガスが活用されていませんでした。
大阪市は2007年(平成19年)から、津守下水処理場でPFIによる消化ガス発電を先行して進めており、その知見を活かして、未利用ガスの活用と循環型社会への貢献を目的に、この事業へ踏み出しました。
民設民営方式とは FITを活用した事業スキーム

この事業の最大の特徴は、民間事業者が主体となって発電事業を行う「民設民営方式」にあります。
発電事業者は自己資金で発電設備を建設し、FIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を活用して、発電した電力を電力会社へ売電します。
Daigasエナジー:「大阪市大野下水処理場消化ガス発電事業」の開始について
設計・建設から、維持管理・運営、事業終了後の撤去まで、必要な経費はすべて事業者が売電収入で賄う独立採算型の仕組みとなっています。
大阪市は事業者に消化ガスを売却した収益と、土地の占用料を受け取って収入を得ます。
従来のPFI方式(津守下水処理場の事例)は、市が費用(サービス対価)を支払いますが、民設民営方式は、自治体が初期投資のリスクを負わない点が大きな違いです。
また、発電時に発生する廃熱を消化槽の加温に再利用することで、エネルギーを無駄なく使い切る工夫も取り入れられています。
大阪ガス・月島グループ3社による役割分担
この事業は、大阪ガスグループ(OGCTS)と、月島グループ(月島機械・TTMS)の計3社が20年間にわたって担います。契約は2015年(平成27年)5月に締結されました。
- Daigasエナジー(旧OGCTS):発電事業全体の運営
- 月島機械(TSK):発電設備の設計・建設
- 月島テクノメンテサービス(TTMS):設備の保守・修繕
4処理場の発電規模と環境効果
4つの処理場で発電に利用される消化ガスは、年間約1,380万Nm³に上り、これは4処理場で発生する消化ガスの合計量(約1,800万Nm³)の大部分にあたります。
発電に使われない残りのガスは、消化槽の加温などに活用されます。主な指標は以下のとおりです。
| 項目 | 数値(4処理場合計) |
|---|---|
| 発電能力 | 約4,090kW |
| 年間発電量 | 約2,580万kWh(一般家庭 約7,100世帯分) |
| 消化ガス利用量 | 約1,380万Nm³/年 |
| 温室効果ガス削減量 | 約13,000t-CO₂/年 |
| 大阪市の収益(税抜) | 約3.3億円/年(土地占用料を含む) |
最初に稼働したのは大野下水処理場で、2016年(平成28年)8月に発電を開始しました。その後、2017年(平成29年)4月には4処理場すべてで発電が始まりました。
2018年7月には発電機を増設し、現在は全30台体制で運用されています。
環境面での効果も大きく、年間で約13,000トンのCO₂削減効果が見込まれており、温室効果ガスの削減量は、1年間に大阪城公園およそ16個分の森林が吸収する量に相当します。
他にも、津守下水処理場の消化ガス発電や、平野下水処理場の汚泥固形燃料化、脱水分離液処理事業の寄与分を合わせると、年間で約31,000トンのCO₂削減、経済効果は約7億円まで向上しています。
生産技術振興協会「生産と技術」:大阪市における下水道エネルギー・資源の利用の取り組みと経済的効果について
下水バイオガス活用 全国自治体への波及
下水道事業の経営環境は、人口減少や施設の老朽化によって厳しさを増しており、全国で年間約5,300万m³発生する未利用バイオガスの有効活用は、避けて通れないテーマになっています。
その中で、大阪市の事例は自治体が大きな財政負担を負わずに、未利用エネルギーの収益化を実現しており、全国の下水道事業者にとって有意義な参考事例となっています。
また、神戸市の玉津処理場や東灘処理場の消化ガス発電事業でも、大阪市と同様の民設民営方式が採用されており、FIT制度を軸とした官民連携モデルは、各地へ広がりつつあります。
参考記事:神戸市が東灘処理場で食品廃棄物受入 下水汚泥との混合消化へ
今後は、FIT買取期間の終了後(卒FIT)を見据えた電力の自家消費に加え、消化ガスを精製して都市ガス導管へ注入するバイオメタン化など、売電に依存しない展開も期待されます。
参考記事:下水処理場のバイオガス発電 下水汚泥のエネルギー化






