三井物産は2026年6月26日、100%子会社の三井ガスを通じて、ブラジル南東部のミナスジェライス州でバイオメタン製造事業に参画すると発表しました。
三井ガスの現地合弁会社GEOMITと、砂糖・エタノール大手CMAAが提携して、州西部のウベラバ市に日量約5万m³のプラントを建設し、2028年5月の操業開始を目指します。
三井物産:ブラジル・ミナスジェライス州におけるバイオメタン製造事業への参画
この事業は、日本企業がブラジルで大規模なバイオメタン生産を行う初の試みとなります。
三井物産のバイオメタン製造事業 現地GEOMIT・CMAAと提携
三井物産は2024年に三井ガスを通じて、ブラジルで19年以上にわたる商用バイオメタンの製造実績を持つ Geo bio gas&carbon と、合弁会社のGEOMITを設立しました。
GEOMITはバイオメタン製造に向け、ミナスジェライス州で砂糖・エタノールを手がけるCMAA(Companhia Mineira de Açúcar e Álcool)の子会社と新たに合弁会社を設立します。
Geo bio gas&carbon:GEOMIT and CMAA Sign MOU to Develop Biogas and Biomethane Projects
CMAAは年間1,000万トン超のサトウキビを処理する有力企業で、このプロジェクトはミナス・トライアングル地域の Vale do Tijuco(ヴァレ・ド・チジューコ)案件として進められます。
日本企業がブラジルで行うバイオメタン大規模生産は初めてとされ、総事業費は100億円弱に上ります。
バイオメタン事業の概要とGasmigの販売スキーム
バイオメタンの製造能力は日量約5万m³で、同州のガス配給事業者であるGasmigが10年間にわたって全量を販売する契約となっています。
これはGasmigが同地域で見込んでいる需要の約2割に相当し、現在重油やディーゼル、LPGを使用している周辺の産業需要家へと供給されます。
バイオメタンはディーゼル燃料と比較して、ライフサイクルベースで約90%のGHG(温室効果ガス)削減効果があるとされます。
バイオメタンの原料には、製糖・エタノールの製造工程で発生するヴィナス(廃液)や、フィルターケーキ(搾りかす)、バガス(さとうきびの繊維)を用います。
バイオメタン製造後に残った消化液は、農業用肥料としてサトウキビ畑へ戻して、資源循環を実現します。
| 企業/主体 | 本事業での役割 |
|---|---|
| 三井物産(三井ガス) | 出資・事業推進。2006年からブラジルで天然ガス配給事業を展開 |
| Geo bio gas&carbon | バイオメタン製造の技術・運営ノウハウ(19年超の商用実績) |
| CMAA | 原料となる砂糖・エタノール製造の副産物を供給 |
| Gasmig | 製造したバイオメタンを周辺の産業需要家へ配給 |
ブラジルのバイオメタン生産ポテンシャル

ブラジルはサトウキビの生産量が世界第1位であり、バイオメタン製造の原料となる搾りかす(バガス)や、エタノール製造時の廃液(ヴィナス)を、大規模かつ効率的に確保できます。
そのため、ブラジルはバイオメタンの生産ポテンシャルが極めて高い国とされています。
業界団体ABiogásによると、その潜在量は日量約1億2,000万m³に達し、国内のディーゼル消費のおよそ60%を代替し得る規模になると試算されています。
ABiogas-Nota_tecnica:MAPEAMENTO DE PLANTAS DE BIOMETANO ATÉ 2032
一方で、実際のバイオメタン生産は約12プラント・日量80万m³規模にとどまっており、需要に供給が追いついていないのが現状です。
ブラジル 未来の燃料法(Lei dos Combustíveis do Futuro)とは
ブラジルでは2024年10月に、世界最大規模の輸送部門脱炭素化プログラムとされる「未来の燃料法(Fuel of the Future Law、法律第14,993号)」が制定されました。
ブラジル政府:Lula enacts Fuel of the Future law: “Brazil will drive the world’s largest energy revolution”
また、2025年にはその運用を定めた政令12,614号も制定され、天然ガスの生産者・輸入者にGHG排出削減を義務づけています。
未来の燃料法では、2037年までに7億500万トンのCO₂排出削減を目標としており、2026年の削減率1%から始まり、段階的に約10%まで引き上げられる計画です。
事業者はバイオメタンの利用か、原産地証明「CGOB」の取得で、CO₂削減の義務を果たします。
目標未達の場合は、最大5,000万レアルの罰金が科されるため、確実に需要を生み出す制度設計となっており、これがバイオメタン投資を後押ししています。
WBC Industry news:Brazil advances with a new regulatory framework for biofuels
三井物産 今後のバイオメタン事業構想
三井物産は、中期経営計画2029で掲げる「Global Energy Transformation 2.0」の一環として、ブラジルのバイオメタン事業を進める方針です。
また、2006年からブラジルで運営してきたガス配給事業(約25%のシェア)を、川上に当たるバイオメタン製造へと広げて、自社パイプラインで販売することも構想しています。
ブラジルは「未来の燃料法」による需要創出と、豊富な原料・既存インフラという条件が揃っており、世界有数のバイオメタン生産地となる可能性を秘めています。
- 制度:未来の燃料法が2026年から段階的な需要を創出
- 原料:世界一のサトウキビ生産が大規模・安定供給を支える
- 展開:単一プラントから多拠点・多原料へスケールアップ
今後はGEOMITが主体となり、ブラジル全土で15〜20カ所程度のバイオメタン拠点の新設を検討し、将来は日量100万m³規模の製造を目指します。
また、三井物産は国際的サプライチェーン構築の実証試験として、2024年3月に東京ガスと共同で米国産バイオメタンを日本に輸入しています。
参考記事:三井物産と東京ガスが国内初の海外産バイオメタン輸入
将来はブラジル産バイオメタンの日本向け輸出も想定され、日本の商社・エネルギー事業者にとって、この事業は注目すべき先行事例といえます。










