農林水産省は2026年7月、政策資料「バイオマスの活用をめぐる状況」を令和8年7月版に更新しました。
今回の改訂範囲は限定的で、メタン発酵ガス発電の数値は、令和8年4月版から動いていません。運転を開始した容量は約12万1,000kW・320件にとどまり、年間の新規導入量も1万kW前後で伸び悩んでいます。
農林水産省:バイオマスの活用をめぐる状況
バイオマス全体でも、年間産出量に対する利用率は約77%、バイオマス産業の市場規模は5,952億円で、いずれも2030年目標にはまだ距離があります。
この記事では、令和8年7月版の要点3点を解説します。
- バイオマス利用率は約77%、2030年目標は約80%
- メタン発酵ガス発電は約12万1,000kW・320件、5年間ほぼ横ばい
- 認定済みで未稼働の容量が約3.6万kW、新規導入量の3年分以上が滞留
「バイオマスの活用をめぐる状況」とは 農水省の政策資料
「バイオマスの活用をめぐる状況」は、農林水産省大臣官房環境バイオマス政策課が作成する資料です。
バイオマス活用推進基本法(平成21年法律第52号)と、その下で閣議決定されたバイオマス活用推進基本計画(第3次・令和4年9月6日)について、進捗を統計データと事例でまとめています。
農林水産省:バイオマス活用推進基本計画
更新は不定期に行われ、今回は令和8年4月版から3か月での改訂となりました。改訂範囲を要約すると、以下のようになります。
令和8年4月版からの変更点 技術ロードマップは据え置き
掲載ページで新着表示が付いているのは、分割版2(第Ⅱ章「基本計画の進捗状況」)と分割版6(第Ⅴ章「バイオマス関連施策」)の2点だけです。
変更点は限られており、技術ロードマップを収めた第Ⅲ章と、事例集の第Ⅳ章はほぼ据え置かれています。
前回版との変更点
| 項目 | 令和8年4月版 | 令和8年7月版 |
|---|---|---|
| バイオマスマテリアル産業(令和6年値) | 未掲載 | 市場規模460.7億円/生産量192,315トン |
| 農林漁業施設資金の貸付利率 | 2.60% | 3.10% |
| バイオマス利用率 | 約77% | 約77%(据え置き) |
| メタン発酵ガス発電の導入容量 | 約12万1,000kW | 約12万1,000kW(据え置き) |
動いたのはマテリアル産業のグラフと貸付利率だけで、利用率と導入容量は、いずれも4月版のままです。
メタン発酵ガス発電の導入量は約12万kW・320件
FIT(固定価格買取制度)を活用したバイオマス発電は、令和7年3月末時点で運転開始容量が約611万kWに達しており、RPS制度分を含めると約842万kWが稼働しています。
このうち固定価格買取制度による買取電力量は、令和6年度で約284億kWhでした。
メタン発酵ガス(バイオマス由来)は、運転開始済みで約12万1,178kW・320件です。バイオマス発電全体に占める比率は、FIT運転開始容量611万kWに対して2%程度にすぎません。
年度別の導入量は年1万kW前後で頭打ち
より重要なのは、伸びのペースです。資料から年度別の新規導入量を抜き出すと、次のようになります。
| 年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|---|---|---|
| メタン発酵ガス | 8.3千kW | 9.8千kW | 6.6千kW | 11.0千kW | 11.0千kW |
| 一般木質バイオマス・農作物残渣 | 298.0千kW | 581.9千kW | 1,252.2千kW | 377.9千kW | 776.7千kW |
メタン発酵ガスは5年間で、年6千〜1万1千kWの範囲で推移しており、増加傾向が見られません。
これに対し一般木質は、同じ期間に年間30万〜125万kWのペースで増えており、新規導入量の差は5年合計で約70倍に達します。
認定容量15.7万kW ギャップは約3.6万kW
一方、メタン発酵ガスの認定容量は約15万7,200kWで、運転開始済み容量との差は約3.6万kWあります。認定を受けながら稼働に至っていない案件が、2割強を占めるという計算です。
年間の新規導入量が1万kW前後であることを踏まえると、この滞留分は3年分以上に相当し、その背景には、建設コストの上昇、系統接続の制約、原料調達に時間を要するという構造があると考えられます。
また、事業化の初期投資と資金調達の見通しが立たないまま認定期限を迎える案件も、この差に含まれている可能性があります。
1件あたり平均379kW 北海道に集中する小規模プラント
容量を件数で割ると、メタン発酵の構造がより明確になります。
| 区分 | 運転開始容量 | 件数 | 1件あたり平均 |
|---|---|---|---|
| メタン発酵ガス | 121,178kW | 320件 | 約379kW |
| 一般木質バイオマス・農作物残渣 | 4,971,315kW | 125件 | 約39,800kW |
※ 表記は認定出力にバイオマス比率を乗じた推計値
メタン発酵は1件あたり平均379kWで、木質の100分の1程度の規模です。件数では木質の2.5倍あるにもかかわらず、容量ベースの統計では小さく見えてしまう構造がここにあります。
政策評価が容量(kW)を軸に行われる限り、メタン発酵は過小に評価されやすい点も押さえておくべきです。
地域別の偏りも顕著です。資料の都道府県別データによると、北海道はメタンガス111件・25,372kWで、全国320件の約35%を占めます。
しかも、北海道の1件あたり数値は、全国平均を下回る約229kWで、酪農・畜産由来の小規模プラントが数多く並ぶ構図が読み取れます。
湧別バイオガスプラント 平均の3倍規模
資料には、令和7年10月に本格稼働した湧別バイオガスプラント(北海道・オホーツク湧別バイオガス株式会社)が掲載されています。
小規模プラントが多い中、発電能力は1,056kWで、メタン発酵ガス平均379kWの3倍近くにあたります。
個別農家型ではなく、地域の家畜ふん尿を集める集中型で規模を確保するアプローチが、事業性を成立させる一つの型として示された形です。
バイオマスの利用率は約77% 2030年目標約80%との差
第3次基本計画は、2030年度までに以下4つを国の目標に掲げています。
- バイオマスの年間産出量の約80%を利用
- 国産バイオマス産業の市場シェアを1%から2%へ倍増
- 全都道府県での活用推進計画の策定
- 全市町村でのバイオマス関連計画の活用
これに対し、令和8年7月版が示す現状値は利用率が約77%(令和7年7月時点)、活用推進計画の策定が20道府県、関連計画の活用が1,048市町村となっています。
バイオマス産業市場規模は5,952億円
市場規模は5,952億円(令和4年度時点)で、計画策定時点の約5,300億円から積み上がっています。
ただし、比較の分母となる製品・エネルギー市場は約57兆円(平成27年度)とされ、比率は依然1%台にとどまります。2%への到達には市場規模をおよそ倍にする必要があり、目標達成は容易ではありません。
バイオマス種類別の利用率 進捗にばらつき
種類別に見ると、進捗のばらつきが鮮明です。以下は資料本体の数値に、農林水産省が別途公表する「バイオマス種類別の利用率の推移」の2019年値を並べたものです。
| バイオマスの種類 | 年間発生量 | 現在の利用率(2023年) | 2019年の利用率 | 2030年目標 |
|---|---|---|---|---|
| 家畜排せつ物 | 約8,037万トン | 約87% | 約86% | 約90% |
| 下水汚泥 | 約7,682万トン | 約78% | 約75% | 約85% |
| 食品廃棄物等 | 約2,070万トン | 約60% | 約58% | 約63% |
| 農作物非食用部 | 約1,094万トン | 約33% | 約31% | 約45% |
| 林地残材 | 約1,131万トン | 約40% | 約29% | 約33%以上 |
他のバイオマス利用率は、黒液(約100%)・紙(約83%)・製材工場等残材(約99%)・建設発生木材(約96%)となっています。
家畜排せつ物はほぼ横ばい
家畜排せつ物の利用率は約87%で、2019年の約86%からほとんど動いていません。目標の90%まで3ポイントを残したまま、足踏みが続いています。
この数値は堆肥化を含めた「利用」であり、母数が大きいために動きにくい面はあります。とはいえ、メタン発酵への転換が全体を押し上げる段階には至っていません。
下水汚泥は利用率が回復もリサイクル率は停滞
下水汚泥については、上記の利用率とは別に、エネルギー・緑農地利用の比率を示す「下水道バイオマスリサイクル率」という指標が設定されています。
下水汚泥の利用率は、2019年の約75%から78%へ回復しましたが、下水道バイオマスリサイクル率は、次のとおりほぼ横ばいです。
| 指標 | 対象量 | 現在(2023年) | 2019年 | 2030年目標 |
|---|---|---|---|---|
| 下水道バイオマスリサイクル率 | 約186万トン | 約37% | 約35% | 約50% |
つまり、量としての利用は進んでいるものの、エネルギー化・肥料化という質的な転換は遅れています。
今後の展開 次期基本計画と技術ロードマップ改定
第3次基本計画は2030年度を目標年次としており、おおむね5年ごとに見直されてきた経緯を踏まえると、次期改定の検討は近い将来に始まります。
今回の更新で示された「家畜排せつ物87%の停滞」と「下水道バイオマスリサイクル率37%の据え置き」は、次期計画で施策の重点がどこに置かれるかを占う材料になります。
農林漁業バイオ燃料法の税制特例
農林漁業バイオ燃料法に基づく生産製造連携事業計画の認定は、令和8年3月時点で36件です。うち家畜排せつ物等を原料とするものが22件と、最多を占めます。
認定を受けたメタン発酵設備には、固定資産税の軽減措置が用意されていますが、対象となる設備の取得は、令和10年3月末の期限が設けられています。
詳細については、バイオガスプラントの事業化 初期投資コストと資金調達をご参照ください。
技術ロードマップは令和4年9月版のまま 改定時期に
「バイオマス利用技術の現状とロードマップ」は令和4年9月版のまま据え置かれています。おおむね2年ごとの見直し方針に照らせば、すでに改定時期に入っています。
現行版では、家畜排せつ物からのメタノール・ギ酸製造は研究・実証段階、メタン発酵によるガス・熱・電気は実用段階と整理されています。
バイオメタンの導管注入やSAF関連技術の位置づけが次回どう更新されるかは、中期的な事業計画の前提に直結します。
統計は結果の記録ですが、どの数値を「現状」として掲げるかは政策の意思表示でもあります。今回の更新で足踏みが可視化された領域こそ、今後の支援が向かう先だと見ておくのが妥当でしょう。






