大阪ガス・東邦ガス・伊藤忠商事が参画する米国ネブラスカ州のe-メタン製造事業「Live Oakプロジェクト」で、基本設計(FEED)が始まりました。
2026年8月28日の発表によると、FEEDは米国のKBRとスペインのTécnicas Reunidas(テクニカス・レウニダス)の2社が並行して実施し、2案のうち1案を最終案として採用します。
大阪ガス:米国ネブラスカ州におけるe-メタン製造事業(Live Oakプロジェクト)の基本設計(FEED)開始について
2027年度内にFEEDを完了してEPCへ移行し、2030年度中の商業運転開始を目指します。製造能力は年約7.5万トン、水電解装置は250MW級となります。
参考記事(2025年12月の参画発表時の詳報):大阪ガス・東邦ガス・伊藤忠が米国eメタン事業に参入
KBRとテクニカス・レウニダスのFEED2社体制

FEED(Front-End Engineering Design)は、主要機器の仕様と概算工事費・工期を固める工程です。ここで出た数字が、最終投資判断(FID)の根拠になります。
今回のFEEDを担うのは、米国のKBRとスペインのTécnicas Reunidasの2社です。
いずれも天然ガスをはじめとするエネルギーインフラや、大規模産業プロジェクトを手がける大手エンジニアリング会社で、コンソーシアムによる競争入札を経て選定されました。
LNG Prime:TotalEnergies, TES launch FEED for US e-methane project
事業を2023年に立ち上げたのは、TES(Tree Energy Solutions)とTotalEnergiesの2社です。2025年12月に日本3社が加わり、現在はTESとTotalEnergiesが各33.35%、日本3社が合計33.3%を保有しています。
2025年12月の共同開発契約時点から、今回新たに確定した項目は次のとおりです。
| 項目 | 2025年12月(契約締結時) | 2026年8月(FEED開始時) |
|---|---|---|
| 立地 | ネブラスカ州 | ネブラスカ州ノーフォーク |
| FEED実施者 | 未定(準備段階) | KBR+Técnicas Reunidasの2社並行 |
| 2027年度の節目 | FID実施 | FEED完了およびEPC開始 |
なお、2026年8月の発表はFIDに言及していませんが、2025年12月に示された「2027年度内のFID」が撤回されたわけではありません。
なぜ2案を並行して進めるのか
2社に同じ設計を発注すれば、その分の費用は単純に増えます。それでも並行方式を採ったのは、この規模のe-メタン製造プラントに前例がないためと思われます。
250MW級の水電解装置と、年7.5万トンのメタン化設備を組み合わせた商用プラントは、世界的にも初期の事例となります。
現在、世界最大級のINPEX長岡メタネーション実証設備は年約2,500トン規模であり、Live Oakの規模は約30倍です。参照できる類似設備がなければ、工事費の見積りや工期の見通しが1社の設計思想に左右されます。
2案を突き合わせれば、コストの妥当性を相対的に評価でき、片方が技術的な壁に当たっても、もう一方でFIDの時期を守れます。
FID前に最も避けたいのは「1案しかないまま数字が悪化する」状況であり、並行FEEDはそのための保険といえます。
原料はどこから来るのか バイオエタノールCO₂と250MWの水電解
Live Oakは、水の電気分解でつくるグリーン水素と、バイオエタノール工場から回収するバイオマス由来のCO₂を原料にe-メタンを製造します。
立地に選ばれたノーフォークには、年産5,500万ガロン規模のバイオエタノール工場(CIE Norfolk GNS)が稼働しており、州全体では24のバイオリファイナリーが稼働する全米2位のエタノール生産州です。
Nebraska Ethanol Board:Nebraska’s Ethanol Industry : Ethanol Production : Ethanol 101
エタノール発酵で出るCO₂はもともと高純度で、しかも連続的に発生するため、燃焼排ガスから回収する場合より分離工程の負担が小さく、回収コストを抑えられます。
各社は立地選定の理由として、このバイオマス由来CO₂の豊富さに加え、米国で拡大を続ける再生可能エネルギーを挙げています。
250MWの水電解が意味すること

サバティエ反応(CO₂+4H₂→CH₄+2H₂O)の量論から逆算すると、年7.5万トンの製造にはCO₂が年約20万トン、水素が年約3.7万トン必要です。
この水素を250MWの水電解装置でまかなうには、電力原単位を55kWh/kg-H₂として年約2,070GWh、設備利用率にして約95%の稼働が要ります。
太陽光や風力の直結では届かない水準で、系統電力やPPAの組み合わせが前提とみられます。
工程が2027年度で区切られる理由 米国45V税額控除の期限

工程表が2027年度で区切られている背景には、米国の税制上の事情があります。
インフレ削減法(IRA)で創設されたクリーン水素生産税額控除(45V)は、水素1kgあたり最大3ドルを10年間受けられる制度です。
当初は2033年1月1日までに着工すれば対象でしたが、2025年7月に成立したOBBBA(One Big Beautiful Bill Act)により、着工期限が2028年1月1日へ5年前倒しされました。
この日までに着工していない水素製造設備は、45Vの適用を一切受けられません。Live Oakが掲げる「2027年度内のFEED完了およびEPC開始」は、この期限とほぼ重なります。
なお税制上の「着工」は、物理的工事の開始か総工事費の5%以上の支出のどちらかで判定されます。
250MW級の設備なら、EPC移行時の機器発注と支払いだけで5%に届く可能性があり、「EPC開始」という表現はこの要件を意識したものとも読めます。
大阪ガス自身がe-メタンの製造コストのうち、約8割を水素の調達費用が占めると説明しており、45Vの有無は採算を直接左右します。
実際、三菱商事・東京ガスらが米ルイジアナ州で計画していた年13万トンのe-メタン事業は、2025年11月に撤退が発表されました。
東京ガスはコスト上昇を理由に挙げており、報道では税額控除の縮小も影響したとされています。
参考記事:三菱商事・東京ガスらが米国e-メタン事業撤退 北米・カナダで生産へ
この前例を踏まえれば、2027年という時期は社内スケジュールではなく、制度の締切から逆算された日程とみるのが自然です。
参考記事:米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組み
日本のガス供給1%にどこまで届くのか

大阪ガスと東邦ガスは、この事業の主要オフテイカーとなる計画で、両社が掲げる2030年度のe-メタン等導入目標(各社のガス供給量の1%)の達成に寄与するとしています。
Daigasグループは、この1%を年6,000万m³という具体的な数量で示しています。東邦ガスの都市ガス販売量(2023年度33.7億m³)から1%を試算すると約3,400万m³で、両社合計はおよそ9,400万m³です。
対してLive Oakの年7.5万トンを都市ガスの体積に換算すると、45MJ/m³基準でおよそ9,200万m³になります。1件のプロジェクトで、両社の2030年度目標をほぼ満たす規模です。
ただしFEEDが終わっても、プロジェクトが確定するわけではありません。FIDまでに詰めるべき論点は次の5つです。
- 設計案の選定と工事費:2案のどちらを採用し、工事費がいくらで着地するか
- 水素コストと45V:着工要件を満たせるか、税額控除の運用がどう固まるか
- カウントルール:米国で製造したe-メタンの燃焼時排出を日本側でどう扱うか
- クリーンガス証書:国内での環境価値取引の枠組みにどう接続するか
- オフテイク条件:価格・期間・数量の柔軟性と、LNGスポット価格や為替の変動リスク
なかでもカウントルールは、e-メタンの環境価値そのものを左右します。
原料CO₂がバイオマス由来である点は、産業由来CO₂を使う案件に比べて整理が容易とされており、この事業がバイオエタノール工場のCO₂を選んだ理由の一つでもあります。
参考記事:e-メタン(合成メタン)とは? 作り方や課題・バイオメタンとの違い










