下水汚泥バイオガスを車両燃料に 湖西市とスズキが実証

バイオガスを車両燃料に 湖西市とスズキが実証

静岡県湖西市は2026年8月25日の市長定例記者会見で、下水汚泥などの地域バイオマスから作ったバイオガスを圧縮・充填し、実際の車両を走らせる実証にスズキが参画すると発表しました。

実証は令和8年度から令和10年度までの3か年で、湖西浄化センターを拠点に実施されます。市はこれまでバイオガス生産の実証に取り組んできましたが、今回は出口を車両燃料に定めました。

市は「地域で生み出したバイオガスを燃料とした日本初となる公道での車両走行」を掲げています。

湖西市:記者会見資料

バイオガスを「車両燃料として使う」実証の概要

湖西市バイオガス車両燃料実証の概要

会見資料2で明示された内容は、以下のとおりです。

項目内容
実証期間令和8年度から令和10年度まで
実証場所湖西浄化センター内(湖西市吉美950番地の28)
参画者湖西市、スズキ、豊橋バイオマスソリューションズ
検証項目(1)小規模自治体での活用を想定したコンパクトな設備による、メタン発酵・ガス精製の効果検証
検証項目(2)小型充填機を活用した車両への充填および実証走行による安全性・運用性・実用性の検証
直近の手続き令和8年9月議会に補正予算を上程予定、令和8年度下期に3者協定を締結予定

会見資料の実証イメージには、基本計画・詳細設計、関係機関や法令との調整、規制確認などの手続き、原料性状分析を含む試験準備が並んでいます。

令和8年度は、設計と法令手続きが中心になる見込みです。静岡新聞は11月にも3者協定を結び、来春の実証走行を目指すと報じています。

静岡新聞:バイオガスのモビリティ利用 湖西市実証にスズキが参画 来春の走行目指す

一方で公表されていない項目もあります。使用する車種と調達方法、メタン発酵槽・精製設備・小型充填機の方式と処理能力、原料の構成比と年間ガス発生量、そして事業費と財源です。

とくに事業費は、9月議会に上程される補正予算の額が示されれば、設備規模を推し量る材料になります。

バイオガス燃料「日本初」はどこまでを指すのか

日本国内では、神戸市が下水汚泥由来のバイオガスで自動車を走らせた例があり、バイオガスで車が走ること自体は初ではありません。湖西市が掲げる日本初は、条件付きで読む必要があります。

神戸市は2008年4月から、市内最大の東灘処理場に併設した「こうべバイオガスステーション」で、精製ガスを天然ガス自動車の燃料として充填・販売してきました。

この取り組みは第1回「循環のみち下水道賞」の国土交通大臣賞(資源のみち部門)を受けており、同賞の紹介資料は「平成20年4月から日本で初めて自動車燃料への供給を本格的に開始した」と記しています。

これに対し、湖西市の実証は小規模処理場、コンパクトな設備、小型充填機という三つの制約のもとで、公道走行まで到達できるかがポイントです。

設備を小さくしたまま、燃料品質と充填を成立させられるかどうかが先行事例との違いです。神戸市の取り組みは、神戸市東灘処理場の混合消化で解説しています。

バイオガスを車両燃料にするには何が必要か

小型充填機(昇圧供給装置)と急速充填所の違い

小型充填機(昇圧供給装置)と急速充填所の違い

小型充填機は業界では昇圧供給装置と呼ばれる設備で、事業所などに設置して1台または2台の車両に数時間かけて充填することができます。

小型充填機は家庭等へ供給されている低圧ガスで充填できるため、設置や取り扱いが容易とされます。

一方の急速充填所は、中圧導管のガスを25MPa程度まで昇圧し、蓄ガス器を備えて短時間で充填する大がかりな設備です。

普及台数はどちらも地域によって大きく偏っており、2025年3月31日現在、急速充填所は全国130か所、昇圧供給装置は166台あります。

このうち、昇圧供給装置は東海・北陸に64台(38.6%)が集中しており、関東に次ぐ規模となります。ただし、車両燃料に使うには、発電用途より厳しいガス品質が求められます。

硫化水素やシロキサンの除去、水分管理、メタン濃度の確保が前提です。方式ごとの原理はバイオガス精製の方式と原理、機器構成や消耗品は精製・脱硫装置の選び方で整理しています。

車両をどう調達するのか CNG自動車は5年間横ばい

日本ガス協会の統計によると、天然ガス自動車の国内導入台数は2024年度末で49,386台となっており、このうち乗用車は1,628台で、2020年度以降まったく増えていません。

日本ガス協会:天然ガス自動車の普及状況 – 日本ガス協会

この数字は、国内で新車のCNG乗用車がほぼ供給されていない実情を映しており、改造車を用意するのか、既存の商用車を転用するのか、海外向けCNG車を持ち込むのかで、実証の性格は変わります。

スズキ参画の意味 CBG(圧縮バイオガス)の実績

SUZUKI banas biogasplant

ここにスズキが参加する意味があります。スズキはインドで全国酪農開発機構やBanas Dairyと組み、牛糞を原料とするCBG(圧縮バイオガス)の製造・供給事業を進めてきました。

すでに2025年12月にアグサラ、2026年1月にブカラでプラントを開所しています。日本国内では富士山朝霧Biomassに出資しており、燃料側と車両側の双方を持つ事業者は希少です。

また、スズキは湖西市内に国内最大の生産拠点である湖西工場を構えており、同工場では2022年末から、再生可能エネルギー由来の水素を燃料とする燃料電池荷役運搬車を運用しています。

自治体が原料と処理場を持ち、地元企業のスズキが車両と実運用の知見を持つという組み合わせによって、燃料側と車両側が同一市内にそろう構図となります。

参考記事:スズキのバイオガスへの取り組み

小規模処理場の下水汚泥が使われない理由

湖西市は基本合意の公表資料で、小規模処理場では資源量の確保や事業効果などの課題があり、下水汚泥の活用が遅れていると述べています。

汚泥の発生量が少なければ発酵槽も精製装置も稼働率が上がらず、投資回収が難しくなります。湖西市の場合、市内の下水道普及率は4割程度にとどまります。

湖西市は2024年4月、豊橋バイオマスソリューションズと国立大学法人豊橋技術科学大学の3者で基本合意書を結び、小規模処理場向けの次世代型メタン発酵システムの実証に着手しました。

豊橋バイオマスソリューションズは同大学発のベンチャー企業です。

株式会社豊橋バイオマスソリューションズ:バイオマス発電・メタン発酵設備なら|株式会社豊橋バイオマスソリューションズ

豚ぷんをバイオガス原料に 地域バイオマスの受け皿

豚ぷんをバイオガス原料に投入 地域バイオマスの受け皿に

2025年1月から2月にかけての「つくる」実証では、下水汚泥に加えてし尿、浄化槽汚泥、市内で盛んな養豚業から出る豚ぷんを原料に投入しました。

国土交通省の下水道応用研究委託費(約3,000万円)を活用した取り組みです。足りない原料を一つの施設に集めて規模をつくる発想であり、下水処理場を地域バイオマスの受け皿として使い直す設計です。

東愛知新聞:【湖西市】豊橋技科大などとバイオガス生成の実証実験スタート 資源循環の拠点目指して

湖西市は豚の飼養頭数が静岡県内で最も多く、臭気対策が長年の課題とされてきました。

豚ぷんは窒素分が高くアンモニア阻害を起こしやすい原料ですが、豊橋バイオマスソリューションズは特許技術のアンモニア除去・回収システムを持っています。

この技術を活用して、バイオガスを効率よく生み出す技術を検証します。また、発酵後の消化液は、露地栽培向けのバイオ液肥として利用される予定です。

なお、小規模処理場という同じ空白を、メタン発酵ではなく別の変換技術で埋める動きもあり、出口が電気か燃料かで設計は分かれます(ライノフラックスと水ingの下水汚泥発電実証)。

下水処理場のバイオガス利用については、下水処理場のバイオガス活用をご覧ください。

3者協定で何が明らかになるのか 確認したい5つの論点

湖西市のバイオガス3者協定 5つの論点

湖西市の実証は、規模の小さい自治体が自前の資源で燃料をつくれるかという課題に、設備の小型化という側から答えようとする試みです。

同じ課題は、し尿・浄化槽汚泥由来の余剰汚泥を原料の3分の2に据えた南三陸BIOにも共通します。

  • 車種と調達方法:改造か、既存車転用か、海外向けCNG車の導入か
  • 精製・充填設備の方式と処理能力:メタン濃度の目標値と充填圧力
  • 原料構成と年間ガス発生量:下水汚泥・し尿・浄化槽汚泥・豚ぷんの比率
  • 事業費と財源:9月補正予算額、国費や交付金の有無、3者の費用分担
  • 法令手続きと役割分担:高圧ガス保安法、道路運送車両法などの適合確認

令和8年11月にも締結が見込まれる協定について、上記の5点がどこまで開示されるかが注目点となります。

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