環境省は2026年9月1日、令和8年度「公共施設を主体とした地域での炭素循環事業モデル実証事業」の採択結果を公表しました。
今回の採択は1件のみで、川崎重工業が代表実施者を務める「郡山市における一般廃棄物処理施設を主体とした炭素循環事業モデル実証事業」を選んでいます。
郡山市:一般廃棄物処理施設を主体とした炭素循環事業モデル実証事業
この構想では、福島県郡山市の富久山クリーンセンターでごみ焼却排ガスからCO₂を回収し、水素と反応させて合成メタン(e-メタン)を製造、地域の工場や都市ガスでの利用を目指します。
実施期間は4年間で、回収・輸送・製造・利用の4工程を民間4社が分担する体制となっています。
原料となるCO₂に生ごみや紙類などの生物由来の炭素が含まれており、その比率をどう算定・証明するかも注目されます。
環境省が採択したのは1件のみ 郡山モデルの全体像

公募は令和8年6月12日から7月10日にかけて実施され、採択されたのは本件のみでした。
郡山市と川崎重工は2023年3月に実証試験の協定を締結し、令和5〜6年度の評価試験を経て、2025年8月には郡山市・川崎重工・エア・ウォーター東日本・東部ガス・日東紡績の5者による連携協定へと発展させました。
同年11月にCO₂回収設備の建設を開始し、2026年5月に完成、6月に完成披露式典を開催しています。
今回の採択は、「CO₂を回収できるか」を検証する段階から、「回収したCO₂で事業モデルを成立させられるか」という実証フェーズへの移行を意味します。
川崎重工のリリースでは「はこぶ・つくる・つかう」の3工程で全体の枠組みを示していますが、各社の役割分担を一覧で示しているのは、2025年8月の連携協定時の郡山市の発表です。
川崎重工業:環境省「令和8年度 公共施設を主体とした地域での炭素循環事業モデル実証事業」に採択
| 主体 | 役割 | 担当する工程 |
|---|---|---|
| 郡山市 | 場と原料 | 富久山クリーンセンターの焼却排ガスを提供 |
| 川崎重工業 | とる | KCCによるCO₂の分離・回収(代表実施者) |
| エア・ウォーター東日本 | はこぶ | 回収したCO₂の輸送 |
| 東部ガス | つくる | CO₂と水素から合成メタンを生成 |
| 日東紡績 | つかう | 産業用燃料としての分析・評価 |
この事業で特筆すべきは、設備の着工前から利用者となる地元製造業が参画している点です。
日東紡績は富久山クリーンセンターと同じ富久山地区内に事業センターを構えており、2026年9月4日のリリースでも「つかう」役割を担う旨を公表しています。
日東紡績:環境省「令和8年度 公共施設を主体とした地域での炭素循環事業モデル実証事業」に採択
出口戦略が定まらないまま技術開発が先行しがちな事業が多いなか、同じ地区にガラス繊維を製造する需要側が早い段階から加わっている点は、このモデルの強みといえます。
あわせて、一般家庭向け都市ガス原料としての活用も並行して検討されています。
固体吸収法(KCC)が60℃で回収できる理由

川崎重工が採用するKCC(Kawasaki CO₂ Capture)は、多孔質担体にアミンをコーティングした固体吸収材を用いる方式です。
川崎重工業:固体吸収材を用いたCO₂分離回収技術(KCC)
アミン水溶液を循環させる従来の化学吸収法では、再生熱に120~150℃程度が必要とされますが、KCCは約60℃という低温でCO₂を脱離できます。
従来は活用が難しかった未利用低温排熱を再生熱として充当できるため、低温排熱が余剰となりやすいごみ焼却施設において、親和性の高いアプローチとなります。
元々は潜水艦などの閉鎖環境で、呼気中のCO₂を除去するために開発された技術ですが、これはバイオガス精製のように未燃焼ガスからCO₂を分離・除去する工程ではなく、燃焼排ガスからCO₂を抽出する燃焼後回収(PCC)に分類されます。
CO₂回収量は1日300kg 試算でみる実証規模
現在稼働している試験設備の回収能力は、1日あたり約300kgにとどまります(日本経済新聞2026年6月3日付)。
日本経済新聞:川崎重工、ごみ焼却排ガスからCO2回収 福島県郡山市で実証
富久山クリーンセンターの焼却処理能力は1日300トンです。フル稼働してごみ1トンの焼却につき、約1トンのCO₂が排出されると仮定した場合、その回収率は約0.1%に過ぎません。
そのため、この試験設備による検証は回収量を追求するのではなく、連続運転に伴う吸収材の劣化状況や、排ガス中の不純物がプロセスに及ぼす影響など、運用上の問題点を洗い出す位置付けとなります。
4年間の実証事業では、その知見をもとに輸送・製造・利用までを含めた事業モデルの成立性が検証されます。
全量メタン化の試算 水素はCO₂の4倍が必要

この300kg/日のCO₂を全量メタン化した場合の試算値は以下のとおりです(化学量論比に基づく概算)。
- 合成メタン:1日あたり約150Nm³(年間約5.5万Nm³)
- 必要な水素:1日あたり約610Nm³(同約55kg)
体積換算において、水素は原料CO₂の4倍の量が必要となります。一次情報では水素の具体的な調達ルートについて詳述されておらず、日経報道で「グリーン水素」と触れられているにとどまります。
本実証における最大の不確実要素は、CO₂の回収可否そのものではなく、地域内で調達可能な水素の調達コストにあります。
水素価格が製造単価に与える影響については、メタネーションのデメリットとコスト面の課題で詳しく解説しています。
自治体が原料を供給 需要家まで地域でつなぐ郡山モデル
清掃工場の排ガスに含まれるCO₂を活用したe-メタンの製造実証は、郡山市が初の事例ではありません。
横浜市では2023年7月、鶴見工場の排ガスから三菱重工グループがCO₂を分離・回収し、東京ガス横浜テクノステーションへ輸送して、12.5Nm³/h規模の設備でメタネーションに利用する実証が始まっています。
東京ガス:ごみ焼却工場の排ガスからのCO2回収とメタネーションへの利用実証の開始
自治体が原料を供給し、回収と製造を別の事業者が担う点は、郡山モデルと共通しています。
郡山モデルが異なるのは、製造した合成メタンの利用者として地元の製造業が着工前から参画し、回収・輸送・製造・利用の4工程すべてに担い手がそろっている点です。
ごみ焼却CO₂の生物由来分をどう証明するか

ごみ焼却排ガス中のCO₂には、紙や生ごみなどの生物由来(バイオジェニック)炭素と、廃プラスチックなどの化石由来炭素が混在しており、物理的に分離して回収することはできません。
そのため、回収したCO₂から製造した合成メタンの環境価値を示すには、生物由来分の比率をどのように算定・証明するかが、商用化に向けた重要な論点となります。
この課題に対する先行事例として、佐賀市は2024年9月、清掃工場由来のCO₂を対象に国際認証「ISCC PLUS(マスバランス方式)」を取得したと公表しています。
佐賀市:世界初!清掃工場由来の二酸化炭素について国際認証(ISCC PLUS認証)を取得
物理的に分けられない原料の持続可能性を帳簿上で配分して示すこの手法は、郡山の回収CO₂にも応用が考えられます。
令和11年度までの実証で問われる課題
- 回収設備の大型化:300kg/日から商用規模へのスケールアップ
- 水素の調達方法と価格:地域内で製造するか、外部から運ぶか
- 合成メタンの供給方法:都市ガス導管への注入か、日東紡績への直送か
- 環境価値の証明:回収CO₂の生物由来分の算定方法
- 排熱の活用:ごみ焼却の低温排熱を再生熱にどこまで充当できるか
鹿児島のバイオガス都市ガス化との補完関係
鹿児島市が清掃工場のメタン発酵バイオガスを都市ガス原料として供給している事例と比較すると、郡山市の取り組みは、ごみ焼却排ガスから回収したCO₂を直接原料とする点で根本的なアプローチが異なります。
メタン発酵には適さない不適物が混入した廃棄物からも、合成メタンの炭素源を回収できるという観点において、両者は二者択一の競合ではなく、互いの適用領域を補完し合う関係にあります。
また、地域内にe-メタンの製造基盤と需要家が根付けば、バイオガス精製施設でメタンと分離される高純度のバイオジェニックCO₂にも、新たな供給先が生まれることになります。
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