経済産業省は民間企業の海外バイオ燃料事業に対し、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の出資に向け、関連法の改正を進める方針であると日本経済新聞が報じています。
日本経済新聞:脱化石燃料へ、海外のバイオマス事業に国が出資 経産省が法改正の方針
2026年2月末からの緊迫した中東情勢に伴い、原油やナフサの調達が混乱したことがその背景にありますが、バイオガス・バイオメタン業界の視点では、注目すべき論点は別にあります。
JOGMECの出資対象には水素・アンモニアや合成メタン(e-メタン)がすでに含まれている一方で、生物由来のバイオ燃料は対象外とされてきました。
今回の法改正により、この線引きがどう見直され、そして気体燃料であるバイオメタンが対象となるかが注目されます。
JOGMECの出資対象にバイオ燃料を追加へ

JOGMECの業務範囲は、資源政策の変更に合わせて法改正を重ねることで拡張されてきました。現在の支援対象を整理すると、以下のようになります。
| 分野 | 出資・債務保証 | 根拠・時期 |
|---|---|---|
| 石油・天然ガスの探鉱・開発 | 対象 | 設立時からの中核業務。2016年改正で海外資源会社の買収等にも拡大 |
| 金属鉱物(レアアース等) | 対象 | 設立時から。2022年改正で国内の選鉱・製錬を追加 |
| 水素・燃料アンモニア | 対象 | 2022年11月14日施行の改正JOGMEC法 |
| 合成燃料・合成メタン(e-メタン) | 対象 | 同上。基本方針〈水素・燃料アンモニア・合成燃料等分野〉に明記 |
| CCS(CO₂貯留) | 対象 | 同上 |
| バイオ燃料 | 対象外(今回、追加の方針) | 法改正が必要 |
公的支援の枠組みは、出資・融資・債務保証を組み合わせた「リスクマネー支援」として設計されています。今回の改正方針として報じられているのは、このうち出資業務における対象の拡大です。
上記の表で特筆すべきは、水素由来の合成メタン(e-メタン)が既に出資対象に指定されている点です。
制度面の後押しも動いており、資源エネルギー庁はOman LNGやカナデビアがオマーンで進めるe-メタン製造プラントの事業性調査を補助事業として支援しています。
つまり、e-メタンには出資・補助枠の両方が用意されている一方で、バイオメタンには出資枠がなく、同一のメタン分子でも製造手法の違いで支援制度の適用が分かれてきたのが実情です。
バイオメタンは出資の対象か

今回の議論の起点となった審議会資料の表題は「次世代液体燃料政策について」(経済産業省・脱炭素燃料政策小委員会 第21回、2026年4月)です。
経済産業省 資源エネルギー庁:次世代燃料政策について
主たる想定はバイオエタノール、バイオディーゼル、SAFなどの液体燃料であり、気体であるバイオメタンが今回の「バイオ燃料」の定義に含まれるかどうかは、現時点の公開資料からは判然としません。
一方で、オマーンのe-メタン案件を支援したのと同じ「資源国との関係強化支援事業」では、対象となる新エネルギーとして水素、アンモニア、バイオ燃料、e-メタン、SAFが並列で記載されています。
資源エネルギー庁:「資源権益・安定供給の確保に向けた資源国との関係強化支援事業」説明会資料(2026年6月)
政策文書のレベルでは、バイオ燃料とe-メタンを同列に扱う動きも見られます。
産業界の実務はすでに先行しており、三井物産は、北米で複数の埋立地ガス由来プラントを運営する米Terreva Renewablesに出資し、RNG(再生可能天然ガス)の製造・販売に参画しました。
東京ガスは2026年度から、海外産バイオメタンを原料とする都市ガスを国内供給することで合意し、大阪ガスは米国産バイオメタンの環境価値証明書を付与した都市ガスを商業施設に供給しています。
日本企業が自己資金で海外バイオメタンの上流事業に参画するフェーズにはすでに到達しており、ここに公的支援の枠組みが及ぶかどうかは、法案の条文および基本方針の策定内容にかかっています。
なぜ輸入ではなく出資なのか
単なるオフテイク(引き取り)契約ではなく資本出資を伴う支援とする理由は、前述の小委員会資料に明記されています。
バイオ燃料のオフテイク契約には定型がなく、案件ごとに個別交渉を要するため、単純な売買取引よりも出資者として参画したほうが有利なポジションを確保できるためです。
製造事業に資本参加すれば、詳細な供給コストの情報を得られ、販売に関する意思決定プロセスにも直接関与できます。
海外のバイオ燃料プロジェクトは複数社による共同事業体(JV)として推進されるケースが多く、日本企業が単独で十分な出資比率を賄うには資金面での負担が重くなります。
政府系機関が一定割合を出資してリスクを分担すれば、日本企業参入の後押しにもなります。JOGMECが原油や天然ガスの上流開発で長年果たしてきた機能を、バイオ燃料領域へ横展開する枠組みです。
中東情勢による政策判断の前倒し
政策判断の前倒しをもたらした要因は、燃料と石油化学原料(ナフサ)の調達網が同時に逼迫した経験にあります。
日本が輸入する原油の約9割は、ホルムズ海峡を通過しており、イラン情勢の悪化によって、エネルギー供給と素材産業のサプライチェーンが同時に脅かされる事態が顕在化しました。
バイオ由来製品の位置づけを「環境負荷低減のための選択肢」から「供給途絶リスクを低減する戦略的手段」へと再定義したことが、今回の法改正方針を支える根本的なロジックとなっています。
経済産業省も、バイオエタノール等について経済安全保障の観点から国内生産基盤の構築が必要だとし、中長期的な外部依存リスクの低減と経済の自律性の確保を掲げています。
経済産業省 商務・サービスグループ 生物化学産業課:バイオものづくり政策の現状について(2026年6月1日)
国内ではバイオ由来製品の増産を補助
もうひとつの柱となるのが、国内量産設備の導入補助です。日本経済新聞の報道によると、2036年度までに約20件のプロジェクトを支援対象とし、支援総額は最終的に数千億円規模に達する見通しです。
予算面では、経済産業省の令和9年度概算要求に「バイオものづくりに関する大規模生産設備整備事業」が計上され、支援の器が用意されました。
公的補助が不可欠となる背景には、依然として高いコストの壁があり、トウモロコシやサトウキビを原料とするバイオプラスチックの生産コストは、石油由来品と比べて約3倍に達すると報じられています。
割高な原料調達費に加え、生産設備の規模が小さくスケールメリットが発揮しにくい構造が要因です。
一方、燃料分野に目を向けると、第7次エネルギー基本計画は、2030年度までに最大濃度10%の低炭素ガソリン(E10)の供給開始を目指しています。
また、2040年度からは対応車両の普及状況などを見極めつつ、最大濃度20%(E20)の供給開始を追求する方針を示しています。
実務はさらに前倒しで進んでおり、資源エネルギー庁は2028年度を目途としたE10相当の先行導入を掲げ、沖縄本島での実施が候補に挙がっています。
エタノールはAlcohol-to-Jet(ATJ)プロセスを経由することでSAFの原料にも転用できるため、限られたバイオ原料を複数の需要先が奪い合う構図が生じつつあります(日本のSAF供給義務化)。
バイオメタンとe-メタン 法案で確認すべき5つの論点

バイオメタンとe-メタンの主成分は同じメタンですが、JOGMECの出資対象という一点で両者の扱いは分かれています。
法案の提出時期や条文案はまだ公表されていません。実務として確認すべき点は次の5つです。
- 「バイオ燃料」の定義に、気体のバイオメタンが含まれるか
- 出資比率の上限と、JOGMECが取得する議決権の範囲
- 製造設備だけでなく、原料の集荷・前処理設備が対象に含まれるか
- 持続可能性基準(GHG削減率など)をどの水準で課すか
- 国内補助の補助割合と、対象となる製品カテゴリの線引き
海外バイオメタンの調達コスト競争力と確保可能な調達量は、今回の制度改正によって大きく左右されるため、法案の動向が注目されます。
既に出資対象とされているe-メタンについては、大阪ガス・東邦ガス・伊藤忠が参画する米国のLive Oakプロジェクトが2026年に基本設計(FEED)を開始し、2030年度中の商業運転開始を目指しています。
e-メタン・バイオメタンを詳しく知る

メタネーション技術の基本
メタネーションとは? 仕組みと種類・実用化
e-メタンとバイオメタンの違い
e-メタン(合成メタン)とは? 作り方や課題
メタネーションのデメリット
エネルギー変換効率の限界とコストの課題
日本企業の技術開発動向
企業のメタネーション実用化事例と技術比較バイオガスプラントのご相談はお気軽に

プロジェクトの事前調査
事業実現性を検証するため、事業性評価(FS)や各種規制、FIT・FIP、補助金の調査を行います。
バイオガスプラントの設計施工
バイオガスプラントの設計から施工まで、プラント工事に関する関連業務を支援します。
設備・CHPの保守メンテナンス
バイオガスプラントを安定的に運転するため、設備機器やCHPの保守メンテナンスを行います。

