画像出典:首相官邸ホームページより
高市早苗首相は、2026年7月2日にモディ首相と日印首脳会談を行い、インド全土にバイオガスプラントを1000基導入するための政府間枠組み「日印CBGイニシアティブ」立ち上げに合意しました。
外務省:日印首脳会談及び昼食会
これまで未活用だったインドの牛ふんや稲わら、サトウキビといった農村資源を、自動車燃料のCBG(圧縮バイオガス)や有機肥料に変える取り組みで協業します。
日本は円借款でバイオガスプラントの建設を支援し、まず500基を対象に約4000億円規模を投じる計画です。
日印両政府は、この枠組みを通じてインドのエネルギー安全保障を強化するとともに、日本が強みを持つCNG車の約250万台規模という新市場の創出を目指します。
日印CBGイニシアティブとは 2030年までにバイオガスプラント1000基
高市早苗首相とモディ首相は、2026年7月2日にインドの首都ニューデリーで約90分間の首脳会談(第16回日印年次首脳会談)を行い、「日印首脳共同声明」や「経済安全保障協力に関する日印共同宣言」などの成果文書を発表しました。
エネルギー分野の成果として打ち出されたのが、「日印CBGイニシアティブ(Cooperative Biogas for Growth)」です。
インド側が掲げるバイオガス・有機肥料プラント1000基の整備目標を、日本の資金と技術で後押しする枠組みで、目標年次は2030年とされています。
これは、モディ首相が長年推進してきた「協同組合を活用して農村資源をエネルギーに転換する」構想を、企業単位の取り組みから両政府の協力枠組みへ引き上げるものです。
合意内容と支援スキーム 円借款4000億円・500基先行
枠組みは経済産業省とインド協同組合省の間で協力覚書(MOC)として署名され、首脳会談で発表された成果文書のひとつに位置づけられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 枠組み(名称) | 日印CBGイニシアティブ(Cooperative Biogas for Growth) |
| 署名主体 | 経済産業省・インド協同組合省 |
| 目標 | バイオガスプラント1000基を新規導入 |
| 資金 | 円借款を活用し、まず500基を対象に約4000億円の円借款を投じる計画 |
| 原料 | 牛ふん・稲わら・サトウキビなどの農村資源 |
| 生産物 | 自動車用バイオガス(CBG)と有機肥料 |
| 技術協力 | メタン発酵技術の研究開発、有機肥料製造、プラント製造の人材育成 |
| 第1号案件 | スズキ・NDDB・アッサム州合弁会社による覚書締結 |
技術面では、日本側がメタン発酵技術の研究開発や、有機肥料(消化液)製造の技術協力を行い、プラント製造に関わる人材育成支援も合わせて実施する方針です。
なお、円借款の実施機関や供与条件、調達の枠組みといった具体的なスキームは、発表時点では公表されておらず、日本企業がどの段階で受注機会を得るのかは、今後の詳細設計を待つ必要があります。
なぜ「Cooperative(協同組合)」なのか NDDBと酪農ネットワーク
枠組み名に「Cooperative(協同組合)」が入っている点が、この構想の性格をよく表しています。
インドには酪農協同組合の全国ネットワークがあり、その中核を担うのが政府系機関のNDDB(全国酪農開発機構)です。
原料である牛ふんは、農家一戸あたりの排出量が小さく、収集網がなければ事業が成立しません。既存の酪農協同組合網に乗せることで、原料調達と農家への還元を同時に解決する設計になっています。
生産されたバイオガスはCBG(圧縮バイオガス)として自動車燃料に、発酵後の残渣は有機肥料として販売されるため、農村の所得向上と資源循環を両立させる分散型モデルが想定されています。
参考記事:インドで家庭用の牛糞バイオガスが急増 LPG不足を受け
インドがCBGを推進する理由 エネルギー安全保障と牛ふん資源

インドは人口約14億人を抱え、中国・米国に次ぐ世界3位のエネルギー消費国ですが、原油の大半を輸入に頼っており、エネルギー自給率の向上が国家的な課題となっています。
そこで注目されるのが、国内に豊富な牛ふんをメタン発酵によって燃料化するバイオガスです。
インド政府は化石燃料からの脱却を目指し、牛ふんなどをバイオガスや有機肥料に転換する国家プロジェクト Gobar Dhan(ゴバルダン)を推進しています。
また、関連する国家バイオエネルギープログラム(NBEP)にも多額の予算を計上しています。
インドCNG車と脱炭素マルチパスウェイ戦略
インドでは新車販売の2割超をCNG車が占めており、その燃料を化石燃料由来の天然ガスから、牛ふん由来のCBGへ切り替えれば、既存の車両やインフラを活用しながら、走行時のCO₂を削減できます。
これはEV一辺倒ではなく、地域の事情に応じて複数の脱炭素技術を使い分ける「マルチパスウェイ(全方位)戦略」の中核に位置づけられます。
CBGはCNGとほぼ同じ性状のため、燃料側だけを置き換えられる点が最大の利点です。
インドのCBG政策 SATAT・CBG混合義務
インド政府は以前からCBGの普及を進めてきました。2018年のSATATでは、2023年度までに5,000基のプラント設置を掲げましたが、実際の設置は数十基にとどまりました。
さらに需要側の措置として、自動車用CNGおよび都市ガスへのCBG混合を義務づけるCBO(CBG混合義務)を導入しました。2025-26年度の1%を起点に、2026-27年度は3%、2027-28年度は4%、2028-29年度以降は5%へと引き上げる計画です。
CBG混合義務は、CBGの供給網が広がるほど実需が積み上がる構造になっています。
CBG供給のボトルネック 登録1,908件に対し稼働は217基
SATATが掲げた5,000基に対し、2023年時点の稼働は数十基(約50基)にとどまっていました。
その後、CBG関連の制度は統合登録ポータルに一本化されます。同ポータルによれば、2026年8月6日時点で全国で1,908件が登録され、うち稼働は217基、建設中は339件です。
数としては着実に増えていますが、登録済みでも着工に至らない案件が約7割を占めており、需要を生む制度は整いつつあるのに、肝心の生産設備が追いついていない構図は変わっていません。
インド政府はこの状況を踏まえ、2026年8月に買取価格の保証と資本補助を一体化した新制度GOBARdhanを閣議承認しました。
参考記事:インドがCBG統合制度GOBARdhanを閣議承認 SATAT停滞解消へ
今回の1000基構想は、このCBG供給のボトルネックを、日本の資金(円借款)と技術(メタン発酵・精製技術)で一気に埋める狙いがあります。
第1号案件はスズキのアッサム州事業

この枠組みの第1号となるのが、インドの乗用車市場で約4割のシェアを持つスズキの案件です。
スズキはNDDBおよびアッサム州との合弁会社と、同州でのバイオガス事業を検討する覚書を締結しました。
今回のアッサム州案件は、西部グジャラート州に集中していたスズキのバイオガス事業を、気候も産業構造も異なる北東部へと広げる転機になります。
参考記事:スズキがアッサム州でバイオガス覚書 日印CBGイニシアティブ始動
日本企業のビジネス機会 プラント・精製・O&Mのパッケージ輸出
日本にとっての狙いは明確で、インドでCBG車の利用が広がれば、バイオガス燃料で走るCNG車約250万台規模の新市場創出につながります。
EVで先行する中国に対し、日本は新興国市場で「CNG車+国産燃料」という組み合わせで対抗する構図です。
また、日本企業は自動車本体だけでなく、以下の各レイヤーで、バイオガスプラントの製造や精製技術・運転保守(O&M)・人材育成まで含めたパッケージ輸出の機会が生まれます。
| レイヤー | 想定される事業機会 |
|---|---|
| プラント設計・建設(EPC) | 発酵槽・前処理設備を含むプラント一式の設計施工 |
| 精製設備 | 脱硫・CO₂除去などCBG化に必要な精製装置 |
| 運転保守(O&M) | 設備機器の保守メンテナンスと遠隔監視 |
| 原料マネジメント | 原料収集網の設計と供給管理 |
| 人材育成 | 運転技術者の育成、技術移転プログラム |
インド市場の主要プレイヤーや設備メーカーの動向は、以下にまとめています。
首脳会談に合わせた日印経済フォーラムでは、日本企業150社以上、インド企業80社以上が参加し、半導体やバイオガスなど約129件の協力文書が結ばれています。日本側の事業総額は約2兆円規模とされます。
外務省:日印経済フォーラム
1000基構想の課題と今後の焦点
インドでは、Reliance Bioenergyが単独で850基、JBM Renewablesも単独で500基のCBGプラント建設計画を掲げており、市場自体の拡大が見込まれます。
日印のバイオガスプラント1000基構想も、この競争環境のなかで進むことになります。
参考記事:インドRILアンバニ会長が圧縮バイオガス工場に大規模投資
その一方で、稼働217基(2026年8月時点)から1000基へ拡大するには、実務面の課題が残ります。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 原料収集網 | 小規模農家に分散する牛ふんを、採算に乗る形で集める物流の設計 |
| 資金回収 | CBGの引取価格と混合義務の実効性が、投資回収期間を左右する |
| 安定運転 | 季節変動する原料性状への対応と、現地技術者の確保・育成 |
| 制度の持続性 | 混合率の引き上げスケジュールが計画どおり進むかどうか |
このうち引取価格と資金回収については、2026年8月の新制度GOBARdhanで、統制価格2,110ルピー/MMBTUを最低10年保証する枠組みが導入されました。
ただし、費用分担の詳細は決まっておらず、原料収集網と安定運転の課題も残ります。
首脳外交で描かれた青写真を、いかに現場の稼働実績へ落とし込めるかが、このイニシアティブの真価を左右する最大の焦点となります。
参考記事:インドのバイオガス・バイオメタン関連記事
バイオガスプラントのご相談はお気軽に

プロジェクトの事前調査
事業実現性を検証するため、事業性評価(FS)や各種規制、FIT・FIP、補助金の調査を行います。
バイオガスプラントの設計施工
バイオガスプラントの設計から施工まで、プラント工事に関する関連業務を支援します。
設備・CHPの保守メンテナンス
バイオガスプラントを安定的に運転するため、設備機器やCHPの保守メンテナンスを行います。

