米Infiniumは2026年9月21日、RNG(再生可能天然ガス)やバイオガスなどのメタンからSAF(持続可能な航空燃料)を製造する「mSAF」を発表しました。
電気で加熱する水蒸気メタン改質器「Reform」でメタンを合成ガスに変え、同社のeSAFと共通するフィッシャー・トロプシュ(FT)合成技術で液体燃料を製造します。
Infinium:Infinium Launches mSAF Platform, Extending Its Commercial Product Offerings to Methane Feedstocks
mSAFを製造する個別商業案件の立地や、生産能力、製造コストはまだ公表されていません。
この記事では、Infiniumの電化改質の特徴、バイオガスからSAFを製造するCircularity FuelsやSyzygyとの違い、RNGとして販売する場合との比較軸、日本企業の出資を整理します。
Infiniumが発表したmSAFとは

mSAFは、メタンを合成ガス(一酸化炭素と水素)へ改質し、FT合成を経てSAFを製造するInfiniumの新たな製品ラインです。
Infinium:Infinium mSAF — sustainable aviation fuel from methane
原料にはRNGのほか、埋立地ガス、消化槽や下水処理施設の生バイオガス、油田で焼却・放散されるフレアガスなどを想定しています。
電気式改質器(eSMR)でメタンを合成ガスへ

mSAFの特徴の一つが、電気式水蒸気メタン改質器(eSMR)「Reform」です。
一般的な水蒸気メタン改質(SMR)は、原料ガスの一部を燃焼させて反応に必要な熱を得ます。これに対しReformは、再生可能電力で反応熱を供給します。
Infiniumは、原料ガスを加熱用燃料として消費しないため、より多くの原料炭素を最終製品へ回せるほか、改質工程に伴う燃焼排出も削減できると説明しています。
原料費が事業性を左右するRNG案件では、こうした収率の向上が採算の改善につながります。
eSAFと同じFT合成基盤を利用
改質後の合成ガスは、Infinium独自のFT触媒・反応器「Synthesize」で液体燃料へ変換します。
Synthesizeは、回収CO₂と再生可能電力由来水素を原料とする同社のeSAFでも使われており、mSAFとeSAFはFT合成技術、触媒製造、製品仕様、認証経路を共有します。
InfiniumのProject Pathfinderはテキサス州で2023年から稼働しています。また、同州で建設中のProject Roadrunnerは2027年の稼働開始が予定されています。
JOGMEC:Infinium Holdings, Inc.による米国におけるe-Fuel製造2号案件の最終投資決定について
生バイオガスから直接SAFを作れるのか
実証段階では、生バイオガスから直接SAFを作れることが示されています。
Circularity Fuelsは2026年6月、カリフォルニア州の酪農場で、生バイオガスからジェット燃料までを一貫して製造する6か月間の実証を完了しました。
現在は日量10ガロンの実証設備を建設しており、2029年初頭に年産100万ガロン規模の初号商業設備を目指しています。
参考記事:精製不要でSAF製造 米Circularity Fuelsが生バイオガスから世界初の直接変換に成功
Infinium、Circularity Fuels、Syzygyはいずれも、メタンを合成ガスに変え、FT合成で液体燃料を製造する点では共通しています。
重要なのは「RNGを使うか、生バイオガスを使うか」だけではなく、生バイオガスに含まれるCO₂や不純物をどのように処理するかという違いです。
Infiniumも生バイオガスへの対応を明記していますが、バイオガス中のCO₂を改質反応の炭素源として、どこまで利用するのかは公表していません。
一方、Circularity Fuelsは、生バイオガスを電化改質器「Ouro Reactor」に投入し、水蒸気改質とドライリフォーミングを組み合わせたバイリフォーミングで合成ガスに変換しています。

| 項目 | Infinium(mSAF) | Circularity Fuels | Syzygy(NovaSAF-1) |
|---|---|---|---|
| 原料 | RNG、生バイオガス、フレアガス等 | 酪農由来などの生バイオガス | 農業系バイオガス |
| 改質方式 | 電気式水蒸気メタン改質 | 電化バイリフォーミング | 光駆動の電化反応器 |
| 生バイオガス | 対応。組成により前処理が必要 | CH₄とCO₂を直接利用 | 生バイオガスを利用 |
| バイオガス中CO₂ | 詳細未公表 | 改質原料として利用 | 改質原料として利用 |
| 段階 | mSAF製品ラインを発表 | 6か月実証を完了、実証設備を建設中 | 商業案件を開発中 |
SyzygyはウルグアイでNovaSAF-1を計画しており、Trafiguraと6年間の全量引き取り契約を締結しました。初回供給は2028年を予定しています。
Trafigura:Trafigura signs offtake agreement for advanced sustainable aviation fuel produced from biogas
RNGで売るかSAFにするか mSAFの事業性
バイオメタンをRNGとして販売する場合と、さらにSAFへ変換する場合のどちらが有利かは、現時点では判断できません。
InfiniumがmSAFの原料ガス必要量、SAF収率、設備費、製造コストを公表していないためです。
事業性を比較するには、RNGの販売価格や環境価値に対し、SAFへ変換した場合の販売価格、追加設備費、電力費、FT合成までの収率を含めて評価する必要があります。
45ZではSAFの特別レートが廃止
米国のクリーン燃料製造税額控除「45Z」は、2025年に成立したOBBBAによって改正されました。
2025年までSAFには、一定の賃金・職業訓練要件を満たす場合、1ガロン当たり1.75ドルの特別な基準額が設定されていましたが、2026年以降はこの特別レートが廃止されました。
SAFも他の輸送用燃料と同じく、要件を満たす場合で1ガロン当たり1.00ドル(満たさない場合は0.20ドル)が基準額となります。
実際の控除額は、この基準額に燃料の排出係数などを反映して算定されます。また、2026年以降は原則として排出率をゼロ未満にできませんが、家畜ふん尿由来燃料には例外が設けられています。
したがって、RNGをSAFへ変換するだけで45Z上の大きな上乗せが得られる構造ではなく、SAFの販売価格や長期引き取り契約、変換コストを含めた評価が重要になります。
IRS:Section 45Z Clean Fuel Production Credit
参考記事:米国45Z税額控除とOBBBAによるバイオガス・RNG投資への影響
CIはメタン源と電源によって変わる
Infiniumは、mSAFに一律のCI(炭素強度)を設定していません。
ライフサイクル排出量は、メタンの由来、メタン漏洩率、製造に使う電力などのエネルギー構成、チェーン・オブ・カストディによって変わるためです。
同社は案件ごとにCIを算定し、該当する制度や認証枠組みに基づいて第三者認証を受ける方針です。
特にReformは電力で熱を供給するため、同じRNGを原料としても、再生可能電力を使う場合と化石電源比率の高い電力を使う場合ではCIが変わります。
日本企業との関係 三菱商事・JOGMEC・三井物産が出資
Infiniumには日本企業や政府系機関も出資しています。三菱商事とJOGMECは2025年1月、Infiniumの資金調達ラウンドへの参加を発表しました。
三井物産も同年4月に出資しており、三菱重工も2021年、米国子会社の米国三菱重工を通じてInfiniumに出資しています。
JOGMECと三菱商事による出資は、Infiniumが進めるe-fuel事業を対象としたものです。
今回mSAFが追加されたことで、同じFT技術基盤を使いながら、CO₂と水素を原料とするeSAFに加え、RNGやバイオガスを原料とするSAFへ事業領域が広がったことになります。
三菱商事・JOGMEC:米国e-fuel事業会社Infinium Holdings, Inc.への出資参画について
JOGMECでは出資対象にバイオ燃料を加える動きもあり、e-fuelとバイオ由来燃料の両方を扱うInfiniumの事業拡大は、日本側の支援の枠組みにも関わる論点になります。
参考記事:JOGMECの出資対象にバイオ燃料追加へ バイオメタンも対象か
mSAFで今後確認すべきポイント
Infiniumは、eSAFで培ったFT合成基盤に電気式メタン改質を組み合わせることで、CO₂だけでなくメタンをSAF原料として利用できる範囲を広げました。
一方、mSAFは製品ラインを発表した段階であり、実際の競争力を評価するための情報はまだ限られています。
今後は次の点が焦点になります。
- 最初のmSAF商業案件の立地と原料
- 生バイオガス利用時のCO₂と不純物の処理方法
- 原料ガス量に対するSAF収率と電力消費量
- 設備費と1ガロン当たりの製造コスト
- 案件ごとのCIと取得する認証
- RNG販売とSAF転換後のネットバック(手取り収益)の差
6項目のうち、技術方式の比較に直結するのは、生バイオガスに含まれるCO₂の扱いです。
Infiniumがこの点を明らかにすれば、RNGへの精製を経る方式と、生バイオガスから直接SAFを作る方式の設備構成や炭素利用効率を、具体的に比較できるようになります。
参考記事:バイオガス由来SAFとは? 製造方法・原料・コストを解説
e-メタン・バイオメタンを詳しく知る

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