IEAがバイオガス適地マップ公開 地理空間モデルBioGRAMとは

IEAのBioGRAM バイオガス適地マップ

国際エネルギー機関(IEA)は2026年7月16日、バイオガス・バイオメタンの開発適地を地図上で確認できるインタラクティブマップを公開しました。

このマップの基盤となるのが、地理空間モデルのBioGRAM(Biogases Geospatial Resource Assessment Model)です。

マップ上に原料の分布密度や、道路やガス導管といったインフラ条件を重ね合わせることで、地域単位の生産ポテンシャルや供給コストを推計できるようになっています。

IEA(国際エネルギー機関):Where in the world is biogas? A new IEA tool maps its potential – Analysis – IEA

※ 記事内画像はIEA「Interactive map of global biogas and biomethane potential」より引用

BioGRAMとは 0.125度メッシュで資源を積み上げ

BioGRAMマップ

マップはIEAサイト上で公開されており、CC BY 4.0のもとで利用できます。基本操作は次の3ステップで、基幹網(送電網・ガス導管)との近接性といった地域指標も参照できます。

IEAインタラクティブマップ:Interactive map of global biogas and biomethane potential

  1. 国または地域を選択し、地図を対象エリアまで拡大する
  2. 任意の範囲を地図上に描画し、対象エリアを確定する
  3. 原料区分別の生産ポテンシャルと、開発コストの推計値を確認する

これにより、国単位の平均値では見えなかった「原料はあるが導管から遠い」といった地域差を、初期段階で把握できるようになります。

BioGRAMが既存のポテンシャル評価と異なるのは、国単位の平均値ではなく、0.125度四方(緯度経度)のメッシュで資源を積み上げる点です。

実際のマップを拡大すると、メッシュ状の点が規則的に並んでおり、資源量は色の濃淡で表記されます。

IEAインタラクティブマップ BioGRAM

対象となるのは、作物残渣・家畜ふん尿・バイオ廃棄物(都市ごみ、下水汚泥)の3区分、40種類超の原料です。マップ上で選択して表示することができます。

原料を選択 作物残渣・家畜ふん尿・バイオ廃棄物

ただし、算入されるのは食料や飼料と競合しないものに限られ、森林残渣は対象外となっています。

BioGRAMの使用データ

BioGRAMの入力データには、以下の統計や情報が使われています。

  • FAOの作物33種・家畜6種の地理空間データ
  • World Bankの廃棄物統計「What a Waste 3.0」
  • 下水処理場データベース「HydroWASTE」
  • Global Energy Monitorのガスインフラ情報

持続可能性の制約もモデルに織り込まれており、作物残渣については土壌保全のため、地上部の6割を圃場に残す前提としています。

また、家畜ふん尿については放牧や分散を考慮して、発生量の65%のみを回収可能としています。

世界ポテンシャルは約9,000億m³に修正

IEAの推計によると、世界の持続可能なポテンシャルは、天然ガス換算で年間約9,000億m³にのぼります。

これは現時点で、世界の天然ガス需要の2割超に相当する規模となります。その7割超が新興国・途上国で、なかでもインド、ブラジル、中国に集中しています。

なお、IEAが掲げる2035年の生産目標6EJは、単純に熱量換算するとこのポテンシャルの2割弱に留まります。

この推計値は前回から見直されており、2025年5月公開の報告書では「約1兆m³・新興国が約80%」とされていた数値が、今回のコメンタリーでは「約9,000億m³・70%超」に改められました。

その理由として、より精度の高いデータへの更新と、対象原料の再設定が背景にあるとみられます。

欧州バイオメタンマップとの違い 実績と潜在量

欧州バイオガス協会(EBA)の欧州バイオメタンマップが「稼働中の施設」を示すのに対し、BioGRAMが示すのは「建設できる可能性」です。

この両者は実績と潜在量という違いがあり、併用が前提のツールといえます。

収集半径とコスト前提が適地判断を左右する

実務で最も使えるのは、BioGRAMが置く収集半径とコスト前提です。日本の案件検討でも、自社の想定値と突き合わせる基準として参照できます。

ただし、都市ごみの150kmは、一般廃棄物の区域外搬出の制約がある日本ではそのまま適用できません。

原料区分想定収集半径原料調達費代表的メタン収率(Nm³/t-VS)
農業残渣40km約30ドル/乾燥トン小麦180/トウモロコシ247
家畜ふん尿10km約5ドル/トン牛257/豚491/家禽185
都市ごみ150kmゼロ(逆有償を想定)253
下水汚泥処理場単位(集約不要)ゼロ272

出典:IEA「Biogases Geospatial Resource Assessment Model Documentation」(2026年7月)

家畜ふん尿の収集半径が10kmと短いのは、含水率の高さによるものとみられます。同モデルの前提値でも牛は95%、豚は90%と高く、輸送効率が悪いためです。

大規模な発酵槽では、輸送費が原物1トン・1kmあたり0.03〜0.12ドルで加算されます。

これに対して都市ごみは150kmまで広く集められる前提となっており、集中型プラントが成立しやすいことを示しています。

また、総技術ポテンシャルの約9%は、原料が分散しすぎて事業が成立しない資源量として除外されています。「資源量はあるが集められない」という現場感覚を、BioGRAMは定量的に織り込んでいます。

供給コストの算出方法 先進国と新興国で何が変わるか

BioGRAMの主要な出力は供給コスト曲線で、基準となる「プラントゲート価格」(=プラント出口までの費用)は、割り当てられた発酵槽の資本コストと原料調達費から算出され、そこに精製費が加算されます。

発酵槽は37.5〜2,500Nm³/hの7区分に標準化されており、クラスターごとに最適な組み合わせが選ばれる仕組みです。先進国向けの前提値は次のとおりです。

  • CAPEX:15,600〜26,000ドル/(Nm³/h)※小規模ほど割高の傾向、精製設備は別途8,000ドル
  • OPEX:0.09〜0.19ドル/Nm³(精製で+0.03ドル)
  • 耐用年数20年、建設期間1.5年、資本コスト(WACC)6〜8%
  • 所内消費電力:0.20〜0.37kWh/Nm³(精製で+0.10kWh)

1ドル158円(2026年8月時点)で換算すると、CAPEXは約246万〜411万円/(Nm³/h)となります。

一方、新興国のWACCは10〜14%と、先進国の6〜8%より高く設定されています。同じ資源量であっても、金融条件によって供給コストが変わることが可視化されています。

モデルに含まれない費用に注意

BioGRAMが示すプラントゲート価格には、次の費用が含まれていません。試算を読む際の前提として押さえておく必要があります。

  • ガス導管への接続費(IEA試算で約1ドル/GJ、地形や規制で大きく変動)
  • 発電・熱利用のための設備投資(コージェネ追加で総事業費が40〜70%増)
  • 下流の供給インフラ全般

精製(アップグレーディング)費は一律約3ドル/GJ、消化液処理は3〜5ドル/トンとして計上されています。

関連記事:バイオガス精製技術 脱硫・CO₂除去からバイオメタン製造まで

BioGRAMの今後の更新と国別レポートへの反映

BioGRAMは、すでに「India Bioenergy Market Report 2026」や「Southeast Asia Energy Outlook 2026」およびウクライナに関するコメンタリーで分析基盤として使われています。

IEAは、今後もBioGRAMにデータと分析機能を追加する方針を示しています。

また、国別レポートへの反映が進めば、政策設計の場でも「どこに、いくらで、どれだけ」という地域別の議論が標準になっていくでしょう。

日本でも都市ガスのカーボンニュートラル化や、バイオマス産業都市構想の議論において、資源量の総量だけでなく、原料の集約度と輸送距離が前提となる段階に入りつつあります。

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