富士フイルム・東京ガス・東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)の3社は2026年6月、南足柄市で海外産バイオメタンを原料とした都市ガスを供給すると発表しました。
東京ガスによると、国内の化学業界で海外産バイオメタン由来の都市ガス利用は初となります。
東京ガス プレスリリース:化学業界初となる海外産バイオメタンを原料とした都市ガス供給に関する合意について
都市ガスは富士フイルムの神奈川事業場足柄サイトへ供給され、製造拠点の脱炭素化に活用されるとともに、制度面での取り扱いや、コスト、供給安定性などを検証します。
化学業界初の海外産バイオメタン都市ガスとは 足柄サイトで実証

今回の合意では、東京ガスが調達する海外産バイオメタンを原料とした都市ガスを、富士フイルムの主力生産拠点である足柄サイト(神奈川県南足柄市)の一部で活用します。
バイオメタンは、生ごみや家畜のふん尿などの有機物から発生する有機性メタンを回収・精製し、天然ガスと同程度までメタン濃度を高めたガスで、米国ではRNG(再生可能天然ガス)と呼ばれます。
主成分は都市ガスと同じメタンのため、既存のLNG・都市ガスインフラをそのまま使える点が特徴です。
富士フイルムと東京ガスは、2022年に南足柄市と「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結しており、以前から足柄サイトでメタネーション(合成メタン)の実証に取り組んできました。
東京ガス プレスリリース:富士フイルム、東京ガス、南足柄市が「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結
TGESは、同サイトへ電力・水・空気などのユーティリティをオンサイトで供給する関係にあり、今回のバイオメタン供給はその延長線上に位置づけられます。
なぜ化学業界初なのか 高温熱プロセスとHard-to-abate産業

化学・素材産業では、製造プロセスで大量の熱を必要とするため、脱炭素が難しいとされています。
電化が難しい高温熱は、鉄鋼・セメント・化学といったHard-to-abate(削減困難)産業に共通する課題であり、富士フイルムも、化学品の高温製造プロセスにおける燃料の脱炭素化が不可欠だとしています。
既存インフラが使えるドロップイン燃料の強み
バイオメタンは、設備を入れ替えずに化石燃料を置き換えられるドロップイン燃料です。
富士フイルムは、2040年までに自社のエネルギー起因CO₂を実質ゼロにする目標を掲げており、達成のためには省エネや再エネ電力だけでなく、燃料そのものの転換が欠かせません。
既存のコージェネレーション設備を活かしながら燃料を低炭素化することが、化学業界にとって現実的な選択肢となります。
化学業界が海外産バイオメタンを選ぶ理由
- 高温熱プロセスは電化が難しく、燃料そのものの脱炭素化が必須
- 既存の燃焼設備をそのまま使えるため追加投資を抑えられる
- 国内産は生産量が限られ、大規模・安定調達には海外産が有望
SHK制度・SBTiでの海外産バイオメタンの扱い
今回の取り組みが実証契約や先行的と位置づけられた背景には、制度面の未確定さがあります。
温対法に基づくSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)について、国の審議会等で海外産バイオメタンの環境価値を算定・報告する方法が検討されている最中です。
環境価値が国境を越えて移転する場合、二重計上を防ぐ証書ベースの仕組みが必要とされ、制度設計が進められています。
環境省:温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における算定方法検討会
あわせて、企業の気候目標の国際基準であるSBTiや、その土台となるGHGプロトコルでも、バイオエネルギーの取り扱いの見直しが進んでいます。
東京ガスは、こうした制度動向を踏まえ、SHK制度上の基礎排出係数がゼロとなる都市ガスメニューの開発を進める方針です。
今回のパイロット運用は、規制対応・供給安定性・コスト構造を実務で検証する狙いがあります。
輸入から産業・化学へ 東京ガスの布石と今後の展開
今回の合意は、東京ガスが段階的に進めてきた海外産バイオメタン戦略の最新ステップにあたります。
| 時期 | 取り組み | 位置づけ |
|---|---|---|
| 2024年3月 | 米国産バイオメタン(RNG)を国内初輸入(三井物産と共同) | 受け渡しの実証 |
| 2026年3月 | アサヒG・積水ハウス・日立製作所へ供給合意 | 産業部門で国内初 |
| 2026年6月 | 富士フイルム足柄サイトへ供給合意 | 化学業界で初 |
東京ガスは経営ビジョン「Compass2030」で、CO₂ネット・ゼロへの挑戦を掲げており、バイオメタンを「早期に活用できる現実解」、e-メタンを「将来の主力候補」と位置づけています。
また、ガス事業者には2030年度に供給量の1%相当を合成メタン・バイオガスで賄う目標(高度化法)もあり、大口需要家の開拓は脱炭素燃料事業の拡大に直結します。
東京ガス メタネーション推進官民協議会資料:e-methane・バイオメタンによるガスのカーボンニュートラル化の取り組み
3社は今後も連携して、製造拠点の燃料脱炭素化を進める方針で、化学・素材産業全体への波及が期待されます。










